第7話 目覚め6

「アレン。とりあえず、今日はどうする? 修練所には昼から向かうんでしょ?」


「ん、ああそうだな。とりあえず、外の屋台で朝飯でも食べながらアランの服とか諸々を買いに行くぞ」


「え、そんな話聴いてないよ!」


「そりゃ言ってないからな。まぁ、あれだ後で返してくれればいい。それに、その服装じゃまともに訓練もできないだろ」


「それはそうだけど・・・」


アレンは立ち上がり、有無を言わさずにギルドの入り口に向かっていく。


「さて、買い物に行くぞ」



 まず、二人で屋台を探した。冒険者ギルドから門までの道は一直線であり、朝から屋台の店や露天商がやっていた。アレンと私は適当な屋台で串焼きを3本程食べると、服飾店に入る。そこで、布の服に麻のズボンを三着、ブーツを一足に灰色の外套を購入した。これで25コルだ。


 次に武具店に入り、皮の脛当てに肘当て、手袋に皮の小手も購入する。アレンに投擲用の投げナイフ3本と剥ぎ取り用のナイフをお勧めされてそれも購入。武具店だけで150コルもした。他、日用品も買い込み合計200コル程のお金になった。アレンには確実に返すことを約束し、頭を下げた。当の本人は「気にするな」と言っていたが、これは必ず返そう。


 昼、冒険者ギルドの食事処で昼飯を食べた後、ギルド地下の修練所に向かった。そこでは2,3人程、訓練をしているようだ。だが、修練所の真ん中には、ギルド長が腕を組んで待っていた。


「きたか。アレンにアラン」


「おう。きたぜ」


アレンはなんでもない風に言っていたが、なんでギルド長がここにいるのだろうか。私の訓練しているところでも見学しに来たのだろうか。


「どうしてギルド長がここに?」


「剣技を覚えたいって言ってただろ。だから、特別に稽古つけてもらえるように頼んだんだ」


「え!?」


「これでも、ギルド長は若い頃はAランク冒険者だったんだぜ。俺の我流の剣技なんか覚えるよりこっちのが断然良い」


「倅が何を言い出すかと言えば、アランに稽古をつけてくれというのでな。あそこまで頼み込まれたのでは私も頷くほかなかったのだ」


「それより、倅って・・・もしかしてアレンとギルド長って・・・」


「ああ、俺の親父だ」


「えぇ!?」


私は二つの意味で驚くのだった。




「まずは剣を振れ! 真っすぐに垂直に振れ! それを死ぬまで繰り返せ!」


「はい!」


ギルド長の訓練はスパルタだった。まず、両刃の木剣を持たせて、素振りを繰り返させた。私は直ぐに腕が棒になった。腕が動かなくなるまで素振りをすると、次には走り込みをさせられる。


「残り100周! 死ぬ気で走れ!」


思わず途中で吐いて倒れ込むが、直ぐに水を掛けられて叩き起こされる。


「死ぬ気で走れと言っただろうが! この蛆虫が! さっさと走れ!」


「は、……はい」


どこの鬼軍曹だよ。と思いつつも、自分で訓練をしてもらうことを頼んでおいて直ぐに投げだせる訳もなく、体力の限界まで走る。そのうち身体から力がどんどん抜けて行った、

そうして走っている途中に私はいつの間にか意識を失っていた。



 夜になり、夕飯に時間になるとアレンに私とギルド長の三人でエールを飲みながらつまみを食べていた。


「アランはまったくの素人だな。体力もないと来たらこれはかなり長い間、訓練しないと外に出てもすぐに魔物の餌になるぞ」


「親父はスパルタなんだよ。初心者なんだからもう少し軽めにやれよ。先に体が壊れちまうぜ」


私は二人のやり取りを聴きながら、落ち込んでいた。RPGの世界にきて少し浮かれていたのかもしれない。自分にはなにがしかの才能とかあるんだろうなとか思っていたがそんな旨い話しがあるわけないのだ。今まで、鍛えてきたわけでもなく平々凡々と暮らしてきたのだ。地道に、地道に強くなる他ない。


「いえ、よろしくお願いします。強くなるためには努力を怠りません」


「ほう、良い目をしている。なに、アランの訓練については問題ない。ただ、少し問題があってな。アランの生活費等についてどうするかと思っていてな」


「それだったら、俺が出してやるよ」


「馬鹿者! よもやそこまで甘やかすか! 甘やかすのも大概にしろ。アランにとってそれは毒にしかならん。優しい毒は人を堕落させる。しまいには性根の腐った者になり果てるぞ」


「だけどよ。アランはまだ記憶喪失なんだぜ。一体何ができるんだって話だ――」


「――あ、あのギルド長。私、計算は得意でして、帳簿とか金銭管理は得意です」


「その話は本当か?」


「えぇ、最近、記憶の方も戻ってきまして、一般的な教養の他に仕事として帳簿を付ける事をやっていたようなのです。なので、その点では問題ないかと思います」


「そうか。なら午前のみで三食とギルドの宿泊施設も貸すそれで30日30コル。これでどうだ」


「おいおい、そりゃなんでも少なすぎないか」


三食付きの宿屋で一日8コルだったか。だとすると30日で240コル。金額としては280コルは貰えるということか。多いのか少ないのかわからない。でも、少ないのかもしれないが、訓練も見てもらっているのだ。Aランク冒険者に無料で訓練を付けてもらえる。これは破格の条件なのかもしれない。


「わかりました。それでお願いします」


「おい、アランもそんな安易に決めちまって良いのか?」


「いや、これでいいんだアレン。それにこれ以上、アレンに面倒見てもらうわけにもいかないからね」


「良く言った。安心しろ。みっちりと鍛えてやるからな」


「お、お手柔らかにお願いします」



 それから、午前は冒険者ギルドで帳簿を付け、午後はギルド長からは訓練という名の扱きを受けていた。受付嬢のアンさんからは体を壊すから止めた方が良いと心配されている。他のギルド職員からみてもギルド長の扱きは想像以上の物らしく私が倒れて吐き出す姿はあまりにも見てられないと言われる程だ。


 そんな日常が3週間程過ぎた辺りで、私は大の字になってパンパンになった腕と足を休ませていた。この頃では吐き出す事はあっても気絶することはなくなっていた。


「よし、これから稽古をつけてやる。アラン立て」


「は、はい」


よろよろと崩れ落ちそうになりながら立ち上がる私にギルド長は尋ねる。


「まず、アラン。魔法は使えるか?」


「いえ、使えませんけど……」


「そうか。では、魔力の使い方も分からないということだな。では、大事なことだから聴いておけ――」


ギルド長曰く、魔力とは生き物なら誰でも持っているもの。それはアレンからも聴いたことだが、自身の魔力を纏い身体能力を向上することができるらしい。だが、まずは魔力の流れというものを意識しなければならない。魔力とは血液のように体を循環しているものらしい。


 ギルド長はその魔力の流れを明確に解らせる為に、私の心臓にギルド長の魔力を流して覚醒させようとしているらしい。


「これが出来れば、お主の能力は格段に上がるだろう」


ギルド長が気迫を込めると、一段と大きく見える。それになにがしかの圧がこちらに伝わってくる。


「魔闘気を纏えばこんなこともできる」


そう言って、木剣を一閃すると藁束が嘘のように一刀の下に両断された。


「す、凄い」


「だが、付けあがるな! 元の身体能力に魔力でブーストするようなものだ。基礎が成っていなければ、上昇量も並程度だ」


ギルド長はそう言って、私の心臓らへんに手を当てると目を閉じて意識を集中している。わからないが、手の周囲から圧迫されるような圧を感じる。


「ハァッ!」


その時、心臓からポンプの様に血流を流れる何某かの力を感じた。血潮が熱く脈動し、体の隅々まで力がじんわりと広がっていくのがわかった。


「どうやら、アラン。お主には魔闘気を操る才能があるようだな」


血流を流れる力を意識していた。心臓が鼓動する毎に力が身体全身に満ちていく。これが魔闘気。この力を使えば、私も今よりももっと強く……なれ……る。


「意識を失ったか。それほどの魔力を秘めていたのか。それとも、ただの魔力切れか……」


その言葉を背に私は意識を失った。



起きると、目の前に妻がいた。目の色は銀色で髪の色は黄金色だ。年齢も13くらいにしかみえない。妻は黒髪、黒目であったが、その姿は妻にしか見えなかった。

私は、動悸が激しくなり、口も唸るような声しかでなかった。頭が柔らかいものに包まれているどうやら私は膝枕されているようだ。


 言いたいことはたくさんあった。でもその言葉は口にする前に泡沫のように消えていってしまう。

彼女は私の口に人差し指を置いて名を告げる。


「初めまして。私はエリカ = ランドよ。古代人の生き残りさん」


私は何も言えずに彼女――エリカ=ランド――に見惚れ続けていた。

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