EX9-8 歩む道は違えど
総攻撃によって発生した煙が晴れ、その爆心地には、デインの頭部だけが残っていた。
しぶといものである。
あれだけの攻撃を受けながら、なおも魂の消滅を避けるために、その中枢たる脳は守ってみせたのだから。
「……まだ動いてるっすね」
「ええ、オリジンなみのしぶとさね」
セーラとネイガスは、引きつった笑みを浮かべ、それを見つめる。
デインはまだ生きていた。
不満げな顔で、目を細め、こちらにゆっくりと、よろよろと歩み寄る結を見つめている。
彼女はしゃがみ、デインの髪を鷲掴みにすると、目の高さまで持ち上げた。
「へへ……どうだい、僕に勝ったお気持ちはぁ」
「殺す」
「おういいぜ、やれよ」
「言われなくてもってやつだよなあ、結っ!」
陸はそう結に声をかけた。
だが彼女はなかなか動かない。
その気になれば、頭を地面に叩きつけて潰すことなどたやすいはずなのに。
どうにも気に食わなかったのだ。
死を恐れぬ、このデインの表情が。
「まだ何か企んでるの?」
「早く殺せって」
「……」
「殺せねえなら別にそれでも構わねえけどなぁ。僕はアンドロイドだ。これだけ魂を失った以上、自由に体を動かすことは無理だ。だが頭さえ残ってりゃやれることはいくらでもある。幸い、暗示能力もまだ生きてるしなァ」
殺せ、と――まるでそう促しているように感じられた。
結に悩ませて逃げおおせるつもりなのか。
「陸、もういいから早く殺すべきだ。そいつを生かしておいて良いことなんて一つもない!」
曲斎の言うとおりだろう。
賭けにしたって、あまりに分が悪すぎる。
逃げられる可能性にベッドしたかもしれない――その説は捨てきれないが、しかしそんなハイリスクな行為のために、ここまで堂々とした演技ができるとは思えない。
失敗すれば、何も成せずに死ぬ。
しかも失敗する可能性のほうが高い。
そんな綱渡りの演技には、必ずどこかに、わずかな歪みが生じるはずなのだから。
だがいくら観察しても、デインから感じられるのは確固たる“自信”のみだ。
つまり彼は――死してもなお、復讐を果たすための“何か”を仕掛けている。
そしてその相手は、おそらくフラムではない。
彼はあえて『この世界での戦いは』と言った。
それはつまり、この世界でない場所の戦いには勝利する、と――その宣言に他ならないのではないか。
結はデインに対し、吐き捨てるように言った。
「静留か!」
「え、私……?」
いきなり自分の名前が出て、驚く静留。
だが考えてみれば当たり前のことだ。
本来、結たちの戦いのフィールドはこの世界ではない。
肉体のある、元の“上位世界”なのだから。
「へへっ、やぁーっと気づいたか。遅ぇんだよ」
「あんた、静留の体に何をしたのッ!」
「まだ何もしてねえよ。ただ、僕に何かあったらすぐに殺すよう、指示を出しているだけだ」
「今すぐにやめさせて!」
「やだね。聞く理由がない」
「だったらここで殺してやる!」
「僕が死ねば静留も死ぬ。そういう風に指示を出してる」
こんな土壇場で嘘を付くとは思えない。
そして、デインの言葉を信じるに足る状況が揃っている。
おそらく彼は、本気でそれを実行するだろう。
「よくわからないけど、どうやらピンチらしい」
「人質……を、取られてるんでしょうか」
一方、エターナやミルキットをはじめとした、そのやり取りを眺める“この世界の人間たち”は、まったく状況が把握できていなかった。
そもそも、デインたちがどういった存在なのか、彼女たちはこれっぽっちも知らないのだから。
「ねえ、静留ってミュートのことなの?」
「……そうだよ、お姉ちゃん」
「お、お姉ちゃん……」
急にそう呼ばれて、ぽっと赤らむインク。
「ごめん。違う呼び方のほうがよかった?」
「ううんっ! いい。すごくいい! あたしはミュートのお姉ちゃんだもんねっ! え、えっと、それで……体ってどういうこと? ミュートはここにいるんじゃないの?」
インクの問いに、静留は首を横に振った。
「私たち、別の世界から来たの。ダイヴって言う方法。この世界は、私達の世界より位置が“下”にある。だから、この魂だけで降りてこれる」
「魂、だけ……じゃあ体は別の場所にあって、それがデインに捕まってるってこと?」
その質問に、今度はデインが答えた。
「そうだよ心臓泥棒。そして今から僕が、素敵なショーを見せてやる。その名も、静留ちゃん解体ショーだ」
「そんなことやらせないっ!」
「じゃあどうする? 今すぐログアウトして僕のところまで来るか? いやぁ、間に合わねえよなあ。お前らは僕と違うダイバーズベースからダイヴしてんだから。そのときお前たちを迎えてくれるのは、バラバラになったカワイソウな静留ちゃんの死体だけだ」
「くっ、友哉あぁぁぁっ!」
「ひっひひひひっ、叫んだって無駄無駄ぁ。お前らの選択肢は二つ。ここで僕を殺して、知らない間に静留ちゃんを失うか。それとも、ここで僕を生かして、静留ちゃんの死に様を目撃するか。さあ選べ。さあ、さあ!」
「ぐううぅ……静留……っ!」
「結っ!」
静留は駆け出し、結に背中から抱きついた。
彼女の体は震えている。
静留はここにいるし、抱き合えば結のぬくもりを感じることだってできる。
だが現実は違うのだ。
自分は今まさに、拷問めいたやり方で殺されようとしてる。
正直、実感は沸かなかった。
それが逆に、恐怖を煽る。
「静留……静留……ごめん、私……ここまで来たのにっ」
「ううん。結は、悪くない。なんにも、悪くなんてない」
「でもっ!」
「ああそうだ、せっかくだし静留ちゃんが選べばいい。死に様を見てほしいか、見られたくないか」
「結、友哉を殺して」
「やっぱ好きな人に自分が主演のスナッフフィルムんて見られたくなーいよねぇー、わかるぅー」
「黙れ友哉あぁぁぁぁッ!」
「あっははははは! こわぁーい! こわあぁーい!」
もはやデインに恐れるものなど何もなかった。
どう足掻こうが、自分の死は決まっているのだから。
だから笑う。
すでに自分は敗者である。
しかし最下位ではない。
自分よりもさらに苦しむ人間がいる――その事実だけで、死は驚くほどに軽くなった。
「私は……どうしたら……っ!」
苦悩する結。
陸と曲斎は、何も言えずに、ただ前のめりになって拳を握るだけ。
静留も死にたくなんてない。
だから最終的には、選択を結に委ねて、今はとにかく記憶にそのぬくもりや感触、匂いを刻み込もうと、抱きつくのが精一杯だった。
「ここで結ちゃんが僕を殺してぇ、その結果として静留ちゃんが死んだらぁ、まるで結ちゃんが静留ちゃんを殺したみたいだよねぇー」
「っ……うぅっ……!」
「つーわけでー、もう時間切れだ。レディースエーンドジェントルメェーン! 今より! 静留ちゃん公開殺人ショーの始まり始まりぃー! オーディエェンス! 拍手ぅーっ! パチパチパチパチィー!」
誰一人として拍手などしない。
ただデインだけがハイテンションに騒ぐ。
「映像、展開」
そして空中に映像が映し出される。
状況を把握できぬものたちも、空に現れた巨大な絵に、誰もが釘付けになった。
「あ、ああ……どうして……」
結は吐息混じりに、震えた声をあげる。
「何でこんなことに……」
「おかしいだろ、あんなの!」
陸と曲斎も、目を見開き、その光景を焼き付けた。
デインは、そんな彼女たちの反応を見て悦に浸っていた。
(いいぞ……いい反応だ……この間抜けな面を見れたなら、僕も気持ちよく死ねる)
元々、映像が出力された瞬間に、指示を出さずとも殺すように命じてあった。
すでにデインが暗示を書けた協会の職員は、静留に突き刺すナイフを振り上げている頃だろう。
「何が起きてるんすか、これ……」
「私にもわからないわ」
感情は伝染する。
単純に、“空中に浮かび上がる巨大な映像”ということに対する驚きもあるのだろう。
「兄さん、これは!?」
「どうなってやがる……」
誰もが一様に、デインが起こしたその現象に夢中になっている。
それもまた、彼の自己顕示欲を満たすのに一役買っていた。
「これはさすがに想定してなかった」
「派手な演出だ。僕を越えていくのは不満だが、これなら仕方あるまい」
エターナやジーンですらも、空を見上げながら、個人差はあるものの驚いている。
そう――みな、例外なく、
(しかし、驚いてくれるのはありがてえんだが……驚きすぎじゃねえか?)
少女が殺されているのだから、もっと悲しむなり、恐怖するなり、そういう反応があって然るべきだ。
だがどいつもこいつも、みな驚いてばかり。
いいや、この状況で止められる者などいないのだから、デインは自分の思惑通りにことは進んでいる――そう確信してもいいはずだ。
とはいえ、今彼は、結に掴まれており映し出された映像を目で見ることができない状況。
少しずつ、少しずつ、不安になっていく。
「あははっ、やっぱりすごいなー」
この状況で、普通
「ふふふ……さすがです!」
この状況で、普通
そして結はぐいっとデインの髪を引っ張って、彼の視線を上に向けた。
「なんだよ、それ……」
投写した映像が、結のしたり顔と並び――デインは絶句した。
なぜなら、そこで彼がみたものは、
「なんでお前がそこにいるんだよっ、フラムゥゥゥゥゥゥッ!」
空にでかでかと映し出された、フラムの笑顔なのだから。
◇◇◇
――時は少しだけ遡る。
フラムはデインの
それは、この世界で得ることができる手段では破壊不可能な絶対の檻。
普通に考えて、脱出は不可能である。
ならばどうするか。
答えは非常にシンプルだ。
この世界を得られない手段を使えばいいだけのこと。
幸いなことに、デインはフラムを閉じ込める前に、それをわざわざ見せてくれていた。
「私が知るものなら、無から有を生み出すこともできる――
かくして
もちろんたどるのは、デインと同じルートである。
つまり繋がる先は、彼がダイヴするのに使用した、ダイバーズベース。
「おお……ここがあいつのいた世界」
降り立ったフラムは、自分の元いた世界との違いに戸惑う。
「何だか独特の匂いがするし、空気も乾いてる。あと少し体が重いかもしれない」
“下”から“上”へと登った都合上、フラムのステータスにはペナルティが生じる。
それでも、この世界において彼女と同等の身体能力を持つ人間は、絶対に存在しないと言い切れるだけの力は残っていたが。
「だ……誰だ、お前はっ!」
デインの暗示を受けた、スーツ姿の男がそこにいた。
腰にはナイフ、手には銃。
そして彼の手元には、どことなくミュートを思わせる――しかし体つきや顔つきも大人びた少女が座っている。
頭にはヘッドセット、意識はないのか、両手はだらんと垂れ下がっていた。
「答えろっ! お前は誰だ!」
フラムは周囲の観察を優先した。
少女から少し離れた席には、コードに繋がれた男の姿がある。
ひと目見て、それが人ではないことがわかった。
「体も顔も違うけど……あれがデインかな」
「答えないのなら、撃つ!」
男は容赦なく、フラムに向けて引き金を引いた。
銃弾が放たれる。
彼女はそれを、人差し指と親指でつまむと、
「……熱い」
とだけ言って、床に投げ捨てた。
そして呆然と立つ男に瞬時に接近し、腹部に拳を叩き込む。
「バカな――ご、ふっ……」
手加減はしたつもりだ。
内臓は破裂していないだろう――おそらく。
フラムは男をゆっくりと床に寝かせると、再び部屋の観察を再開した。
デインの作った道をたどってここに来てみたのはいいものの、ここが何なのか、デインたちがどういう状態なのかさっぱりわからない。
適当にコードを引っこ抜いてしまおうかとも思ったが、下手なことをして少女を傷つけたくもなかった。
とりあえず映像が映し出された画面を覗いてみると、コンシリアが写っている。
「うわ、デインとみんなが戦ってる。知らない人もいるけど……そういやこの三人組、さっきミルキットと二人でいたときに見たな」
じっと観察していくうちに、フラムはその正体に気づいた。
「ははーん、なるほどね。デインにさらわれたミュートを助けるために、ネクトやルークがあの世界にやってきた、と。じゃあこの男の人がフウィス……となると、やっぱりコードに繋がれてるあの男がデインか」
無防備な状態の友哉の体に近づく。
「うわ、人間じゃない。機械……ロボットってやつ? 要するに、あの世界で死んだデインやチルドレンたちは、この世界に生まれ変わった、と……輪廻転生なんて非現実的だけど、私自身がその経験者だからなー」
そういう仕組みがこの世界に存在することも、受け入れるしかない。
だがその事実は、現状においてさほど重要ではなかった。
大事なのは、どうやったらデインを懲らしめられるかだ。
ミュートの体はここにあって、ネクトたちの体はここにない。
つまり、フラムたちの世界と、ネクトたちの世界――その両方において、デインは彼女を人質に取っているわけだ。
だが今や、立場は逆転した。
画面の向こうでは、戦いに決着がつこうとしている。
デインは広場に向かい、待ち伏せしていた魔族やネクトたちに魔法を浴びせられている。
一方でフラムは、再びミュートに近づき、あたりを探る。
カメラを発見。
性格の悪いデインのことだ、人質の現況を映す道具を用意しているはず――そう読んだ上での行動だった。
そしてそのカメラを、デインの前にある端末の上に起き、試しに笑顔でピースをしてみる。
「これ……向こうに見えてるのかな」
ちょっと虚しくなったフラム。
とっととデインを始末するべく、やめようとしたが――画面の向こうで、天空にその姿が映し出されたのは、ちょうどのそのときのことだった。
『なんだよ、それ……なんでお前がそこにいるんだよっ、フラムゥゥゥゥゥゥッ!』
声を裏返らせながら叫ぶデイン。
それに気づいたフラムは、再び満面の笑みを作り、彼の頭を鷲掴みにした。
『てめえ、どうやってそこに行きやがった!? お前は境界物質の檻に閉じ込めたはずだ!』
「行き方ならデインが教えてくれたんじゃん」
『僕が……? ま、まさか、あのとき、見せたから……?』
「その通り。ありがとね、デイン。お礼に――」
フラムは頭を掴む手に力を込め、頭部をブチブチと引きちぎった。
「
この世界でも彼が変わらず下衆だと言うのなら、容赦の必要などない。
何より――この男は、ミルキットに手を出そうとした。
そんな男には、死すら生ぬるい。
幸い、彼の体は機械だ。
首を引き抜こうが、頭脳さえ無事なら死にはしない。
もっとも、限りなく人間の体に近づくためか、雑に千切れた断面からは、血に似た赤い液体が噴き出していたが。
噴水のように舞い上がる血が、端末や床を汚す。
フラムはこんなやつの血に触れたくなかったので、反転で向きを変えて当たらないようにしていた。
「は、はは……あはははっ……よ、よお、フラム」
デインの首が、ひとりでに喋りだす。
どうやら向こうの世界からログアウトして、戻ってきたらしい。
フラムは掴んだ首を、端末の上に叩きつけ、斬首された罪人のようにそこに固定した。
「……痛みはないんだ、つまんないの」
「へへ……ま、まあ、機械の体の有効利用ってことだな。なあ、ところで、取引しねえか?」
「取引材料があるとでも?」
「くくくっ、気づいてねえのかよ。僕の力は、ダイヴや、人体を凌駕するパワーだけじゃねえ。“他人を操る力”もあるんだぜぇ? そうさフラム、すでにお前だって――」
「そんな子供だまし、効くわけないでしょ。バカなの?」
フラムは人差し指でデインの額にこつんと触れる。
瞬間、彼の脳に、存在しないはずの“痛覚”が大量に流し込まれた。
「あっ、がががががががあああぁぁぁああああああああッ!」
ぐるんと白目を向き、口の端から血液混ざりの唾液のようなものを垂れ流すデイン。
フラムは心底軽蔑しながら、そんな彼を見ていた。
「聞いた瞬間にわかった。“声”に細工してある、って。あっちじゃデインの姿をしてたから、声が変わってたのかな。詳しくは専門家に任せるけど、それは魔法でなければ、特殊な力でもない。たぶん、振動を使って人間の脳に干渉する“科学技術”。ああ、そう。それを使って、こっちの世界でも悪さしてたわけだ」
「ぎっ、ぎぎぎいぃぃぃぃ、と、止めろおぉおおっ! 止めねえとっ、操ってる、やつら全員、自殺っ、させるぞぉおおおおおおっ!」
「してみたら? 少なくともミュートはその中に入ってないし、顔も知らない人の面倒までは見れないし。それに、そんなことしたら――もっと痛くするよ?」
そう言って、フラムは再び額に触れて、無より“痛み”を生み出した。
「てめぇっ、言いながらやりやが――ぐ、が、があああぁぁぁぁああああああああああッ!」
頭部だけになったデインの叫び声が響く。
そんな中、あちらの世界から戻ってきたミュートが目覚めた。
彼女はヘッドセットを外すと、慌てて立ち上がり、振り返る。
「フラム・アプリコット……本当に、ここにいる……」
「やっ、おはよ。ミュートって呼んでもいいの」
ミュート――ではないらしい少女は、首を横に振った。
「ここでは、静留」
「シズルか。でもその感じだと、ミュートだった頃のことも覚えてるんだ」
「さっき、思い出した」
少し苦い表情を見せる静留。
フラムは「……そっか」と寂しげにつぶやいた。
思い出さずに済むのなら、そのほうがよかったはずだ。
決して幸せなだけの記憶ではないのだから。
「生まれ変わってまで敵対しようとは思わないから、安心して」
「あ、ありがとう。ところで、それは……」
「ああ、こいつ? さっき首を引っこ抜いたの」
「素手で……“上”の世界に来ても、そんなに強いなんて」
「もしかしてこいつ、こっちでの名前はデインじゃなかったりするの?」
「うん、友哉っていうの」
「そっか。アンラッキーだったねぇ、トモヤ。あんただって思い出さなければ、こんな馬鹿げたことしようとは思わなかっただろうに」
同情の余地はある。
しかし同情するつもりはさらさらない。
フラムは容赦なく、たっぷりと苦しんでもらうつもりだった。
友哉の叫びは絶え間なく続く。
静留は引いたりせず、ただただ冷たい視線をその生首に向けている。
こっちの世界でも、相当嫌がらせを受けたのだろう――そうフラムもわかるほど、その目つきは凍りついていた。
フラムと静留の二人は、しばし言葉を交わしながら時間を潰す。
ネクト――もとい結との関係のこと。
幼馴染で、部屋が隣同士で、両思いだったこと。
ルークこと陸や、フウィスこと曲斎とも幼馴染同士で、陸は一時的に離れ離れになったものの、今は再会して連絡を取り合っていること。
そんな幸せな日々を、友哉が例の暗示で台無しにしたこと。
聞けば聞くほど、フラムはまだデインへの罰が生ぬるいと感じた。
前世云々関係なしに、やっていることがクズ中のクズだ。
むしろ死なせてはならない。
生まれかわったら、またどこかで罪を犯すかもしれない。
「静留ぅっ!」
ならばどうしてやろうか――そうフラムが頭を悩ませるうちに、結たちがダイバーズベースに到着。
本当にそこにいるフラムに驚きながらも、静留の無事を喜び、特に結と彼女は固く抱き合い涙を流した。
「一件落着、だね」
ひとまずは、そう言っても構わないだろう。
「フラム・アプリコット。あれから大して時間は流れてないのに、とんでもない力を手に入れたものだね」
「フウィス……でいいんだっけ」
「うん。こうして顔を合わせられて、嬉しいやら嬉しくないやらだよぉ。あ、ちなみに今の名前は曲斎だから」
「キョクサイ……変わった名前だね。で、あんたは記憶がばっちり残ってる、と」
「僕だけ、生まれたときからずっとそうだったんだぁ。結や静留はついさっき思い出したばかりだしぃ、陸にいたっては今も思い出してないんだけどねぇ」
「陸、かぁ……うーん……」
フラムは顎に手を当て、目を細めながら舐めるように少女を見た。
陸は少し恥ずかしそうに戸惑う。
「なんだよジロジロ見て……あたしはお前のこと知らないからな?」
「あの生意気な男の子が、こうなるとは」
「あたしは女だ!」
「そうなんだろうけど、微妙に面影があるのが面白いなって」
「……なあ曲斎。あたし、面影、あるのか?」
「あはははぁ、確かに微妙にあるねぇ。顔もだしぃ、一番口調と性格かなぁ」
「男勝りだとは言われてたが……前世がどうこう言われると、むず痒いっていうか、ちょっと気持ち悪いな……あ、別に曲斎たちのこと言ってるわけじゃなくてな?」
慌てて取り繕う陸。
しかし曲斎もフラムも、首を何度も縦に振ってうなずいていた。
「わかる」
「わかるよねぇ」
「急に前世って言われても、私は私でしかないから」
「うんうん、気にしないのが一番だよぉ。引っ張られたって、ろくな事にならないんだからぁ」
しみじみと言いながら、曲斎は叫び続ける友哉の首を見た。
運が悪かったのか。
はたまた、世界の理を破ってしまった末に受けた、相応の罰なのか。
どちらにせよ、もう彼らは
異なる世界で生きる、ただの四人組の幼馴染なのだ。
寂しがる人もいるかもしれないが――それが、もっとも平穏な在り方。
おそらくこれからは、ダイヴも控えることになるだろう。
◇◇◇
友哉の引き起こした事件は、これにて解決することとなった。
彼の頭部は、その後フラムによって声帯が取り除かれ、叫べなくなった。
最初こそ『ざまあみろ』と思えたが、あんまり続くのでうるさくなったのだ。
もちろん苦痛は消えない。
それはフラムの与えた“痛みという概念”なので、フラムが干渉しなければ、永遠に消えることはないだろう。
そして頭部は、そのままルトリー・シメイラクスに譲渡される運びになった。
つまり、アンドロイドであるルトリーを作り、今もその研究の最先端をゆく桐生美奈子に託すということである。
友哉の声に仕込まれた特殊な波形が、暗示能力の原因であるとは伝えておいたので、同じことが起きることは二度とないだろう。
桐生美奈子に対して、フラムは『この男に配慮なんて必要ない』と念入りに伝えておいた。
きっとこれから彼は、アンドロイド研究のために、使い減りしない実験体として末永く、いつまでも大活躍してくれることだろう。
なお、すでに暗示を受けていた静留や協会の人間に関しては、フラムが“治療”しておいた。
理屈さえ理解すれば暗示を消すのは容易いことだ。
念の為、静留からも暗示を消し、後の不安も解消した。
もっとも、また万が一のことが起きて、デインが悪さをしたのなら、“道”を開く方法を習得したフラムが、すぐに止めにくるだろう。
◇◇◇
一連の後始末を終え、フラムは元の世界に戻ろうとした。
しかし曲斎がそれを止める。
「よかったら、夕食ぐらい食べていきなよぉ」
フラムも、せっかく知らない場所に来たのに、何もせずに帰るのは少しもったいない――と思ってはいたので、願ってもない提案だった。
それに、曲斎たちも気になることがあったのだ。
いくら前世に引きずられたくないと言っても、インクの結婚話を聞いたら、流すことはできない。
フラムは自ら望んで、夕食の買い出しにも参加した。
この世界の町並みを見ておきたかったのだろう。
コンシリアよりもさらに進んだ文明――その街の名は“東京”と言った。
(ここも東京、か……多少のクセはあるけど、言葉も通じる)
しかし、フラム――正確には
さしずめ、オリジンが生まれず、滅びないまま平和にときが過ぎた世界、といったところか。
ここを並行世界と呼ぶべきか、はたまた異世界と呼ぶべきかは微妙なところである。
フラムと共に買い物に参加したのは、結と静留だった。
二人は肩が触れ合うほど近い距離で並んで歩き、彼女たちの前を自動で走るカートに、商品を入れていく。
結はまだ体が本調子ではないとのことだったが、しかし静留と言葉を交わす彼女の表情は、それを思わせないほど明るく楽しそうだ。
さすがにフラムも近づきにくく、二人の少し後ろを歩く。
スーパーマーケットでも買い物も佳境に入り、レジが近づいてきたところで、彼女はふと足を止めた。
贈答品用のお菓子コーナーだ。
どこかで見たことのある――“東京にいってきました”というパッケージが並んでいた。
それに気づいた結もその場で止まり、振り返る。
「フラムお姉さん、何か買いたいものでもあった?」
「……ん? ああ、いや、別に何でもないんだけど……ふふっ」
「何で笑うの……?」
「呼び方。今はほとんど同い年なのに、お姉さんって呼ばれるのが何だかおかしくて」
指摘され、赤らむ結の頬。
静留はニヤニヤと彼女の横顔を見つめる。
「仕方ないじゃないっ、そう呼んでたんだから!」
「ふふふっ、ごめんごめん、つい気になっちゃったの」
「まったくもう」
「お姉さん……」
「静留もそこで反応しないっ! ほら、もう行くよっ」
頬を膨らましながら、大股で先を行く結。
静留とフラムは顔を見合わせて軽く笑うと、小走りで彼女を追った。
◇◇◇
そして、鍋を囲んでの夕食。
騒ぎながら、他愛もない話をしたり、この世界のことを聞いたり。
フラムの世界のことや、インクとエターナの馴れ初めは、内容が内容なので食後に話した。
相手がいるにしても、まさかあのエターナ・リンバウと――そんな疑問を抱いていた結と静留、曲斎は興味津々。
いまいちピンと来ないが、色恋沙汰自体に興味はある陸も、彼女らほどではないものの、耳を傾ける。
そんな状況が楽しくて、フラムも自然と饒舌になっていった。
夜が更ける。
楽しい時間が終わる。
まさかあのチルドレンと、こんな風に話すことがあるなんて――フラムはそう感慨に浸りながら、結たちの家を去ろうとしていた。
両手には、お土産の入った袋を握って。
「泊まっていけばいいのに」
「そうだよぉ、一日ぐらいいいと思うけどなぁ」
「ミルキットが心配してるから。あの子を一人で眠らせるわけにはいかないの。それに、私がいると二人の時間の邪魔になるでしょ?」
フラムは結と静留を見ながら、そう意地悪そうな顔で言った。
赤らみ、軽くうつむく二人。
「確かに、あたしらがいても邪魔だな。そうだ曲斎、今から一緒に遊びにいかね?」
「いいねぇ。兄が家にいたら二人も気まずいだろうしぃ」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん! 何を言ってんの!?」
「でも私……そのほうがいいかも」
「静留まで!?」
表情豊かに混乱する結。
そんな四人のやり取りを見ながら、フラムはそっとドアに手をかけた。
「じゃ、そろそろ私は行くから」
四人は会話を止め、少しの寂しさを胸に、それぞれが声をかける。
「今回はありがとね、フラムお姉さん」
「どういたしまして、ユイ」
「おみやげ、お願いするね」
「わかった。ちゃんと渡すよ、シズル」
「にわかには信じられねえけど――吸血鬼ってのが出てきたら、あんたに連絡したらいいんだよな?」
「うん、お願いね、リク。悪さしないように釘は刺しておくけど、万が一があるからねぇ」
「
「準備ができたら絶対に持ってくるから、空けといてね、キョクサイ」
言葉を交わし終えたフラムは、外に出る。
軽く念じると、目の前に、夜よりもさらに暗い“門”が開く。
「またね、みんな」
そして手を振りながら、フラムはその向こうへと消えていった。
かちゃん、と控えめに扉が閉まり、静寂が訪れる。
「……さて、と。じゃあ曲斎、あたしらも行くぞ」
「そうだねぇ。じゃあ結と静留ちゃん、ごゆっくりぃ」
フラムを追うように、外に出ていく陸と曲斎。
「ちょ、ちょっと待って、それ本気だったの!?」
慌てて手を前に伸ばす結だったが、もう遅い。
二人はさっさと出ていって、静留と彼女だけが残された。
「二人きりだ」
静留の言葉に、結はごくりと生唾を飲み込んだ。
「結、緊張してる」
「そ、そりゃあね」
どもる結。
静留はそんな彼女の手を取ると、自らの胸に当てる。
「なっ――」
「私も緊張してる。心臓、すごいでしょ」
そう言う静留の顔は、茹でられたように真っ赤だった。
手のひらからも、うるさいほど高鳴る心音を感じる。
――私たちは、同じだ。
そう感じた瞬間、結は自分の中の羞恥心を捨て去る覚悟を決めた。
そうしなければ、“さらけ出す”と決めた彼女に失礼だから。
「静留……私ね、静留のことが好きなの」
「うん。私も結が好き」
「ずっと、好きだった。言葉で伝えなくても伝わると思っちゃうぐらい」
「ちゃんと伝わってたよ。伝わってたのに……ごめんね、あんなことになって」
静留の瞳に涙が浮かぶ。
辛かったのは結だけじゃない。
自分自身に、己の感情を裏切られた静留もまた、紛れもなく被害者だ。
むしろ結よりずっと、彼女のほうが辛かっただろう。
結は静留の頬に手を当て、零れ落ちそうな涙を、その前に拭う。
「私こそごめん、もっと先に助けられていれば」
「ううん、あんなにしてくれたんだもん。謝らないで」
「じゃあ静留も謝るのは無しね」
「わかった。謝りたくなったら、代わりに好きっていう」
「そうしよう。好きだよ、静留」
「私も好き。大好き、結」
互いの想いを言葉にするたび、二人の顔は自然と近づいていく。
鼻の先と先がちょこんと触れ、甘い感覚が走ったとき、結は控えめな声で訪ねた。
「キス、してもいい?」
静留はその可愛らしい問いに胸をきゅうっと締め付けられながら、微笑み、答える。
「もちろん。いつでも、何度でも奪って」
そして二人は、緊張に震える唇を、慎重に、慎重に重ねた――
◇◇◇
フラムがコンシリアに戻ると、すでにすっかり夜になっていた。
時間の流れの違いが心配だったが、さほど変わらないのだろうか。
場所は、デインの閉じ込められた場所だ。
ミルキットを心配させてはならないと、大急ぎで家に戻るフラム。
「ただいまーっ!」
「おかえりなさいっ!」
玄関を開けると、ミルキットのハグが彼女を迎えた。
荷物を持ったまま、片手で抱き返すフラム。
よほど彼女の身をあんじていたのか、ミルキットは涙目でその胸に頬ずりをした。
いくら無事が確かめられたとはいえ、フラムは“別の世界”に行っていたのだ。
その心配は僅かなものだったろうが、脳裏をよぎる“別離の可能性”が、彼女の胸を不安で満たしていたのは想像に難くない。
「遅くなってごめん」
「いえ、お疲れさまでしたご主人様。今回も、すっごくかっこよかったです!」
しかしミルキットの不安は、フラムのぬくもりの前には無力だ。
触れた瞬間、一瞬で消えて無くなる。
だから今は、最高の笑みをフラムに向けることができる。
「ううん、全然だよ……ミルキットを危険に晒してしまったから。エターナさんがいなかったら守れなかった」
「ですがご主人様がいなかったら、ミュートさんが死んでいたんです。救えたのは、ご主人様がいたからですよっ」
最終的に、誰も死なずに終わったのだから、今は喜ぶべきだろう。
その可愛らしさ、愛おしさに、ついに我慢できなくなったフラムは、流れるようにミルキットの唇を奪った。
「……またやってる」
呆れ顔のエターナが顔を出す。
「あたしたちもやる?」
いつものように、インクが軽く調子に乗る。
するとエターナは彼女に顔を近づけ、ついばむようにキスをした。
「ひょっ、ひょええぇぇぇえええええっ!?」
赤面して驚くインク。
「いっ、今のっ、エターナっ、今のちゅって! ちゅってしたぁ!」
「……うるさい、黙って」
「やっておいて恥ずかしがるエターナがかわいいいぃぃっ! ねえキリル、エターナがかわいいよ!」
「そうだね、エターナはかわいいと思う」
エターナはニヤニヤと悪ノリするキリルを睨みつけようとしたが、羞恥心が上回り、それすらままならなかった。
一方で、その甘ったるい空間に取り込まれなかったショコラは、一人ひょこっと廊下に飛び出すと、ミルキットと抱き合うフラムに尋ねる。
「フラムさん、おかえりなさいっ」
「ただいま、ショコラ」
「何だか大変なことになってたみたいですねぇ。ショコラちゃんはお店のラジオで聞いただけなんですけど」
「私より、みんなのほうが大変だったと思う」
「大変じゃないと言ったら嘘になる。あのデイン、前よりさらに厄介になってた」
「まさかあの人が生き返って、戻ってくるなんて……想像もしてませんでした」
「私はフラムから話を聞いたことがあるだけだったけど、噂に違わぬ汚い男だったね」
心底忌み嫌うように、エターナとミルキット、キリルが言った。
しつこく、しぶとく、汚い手段も遠慮なく使い、その上ただ単純に強い。
できればもう二度と、あんな脅威がこの世界に現れないことを願うばかりである。
「ねーねーフラム。ところでその手に持ってる袋って何? もしかして、あの子たちからのお土産だったり?」
「インク、正解」
「え、本当にっ!? 見ようよ見ようっ! 早く早くっ」
別れの言葉を交わす暇もなく、慌ただしく終わった妹たちとの再会。
本来ならありえないことが起きたのだ、それも仕方ない――と思いつつ、寂しがっていたインクが、お土産に舞い上がるのは当然のことだった。
そのはしゃぎっぷりにほほえみながら、全員が部屋に移る。
そしてフラムはテーブルの上に袋を置くと、その中から一つずつ取り出した。
とはいえ、その殆どは“お菓子”だ。
なぜなら、フラムは向こうの世界のお金を持っていない。
なので、すべて曲斎に払ってもらったのだが――そこで高いものを選べる図々しさはフラムにない。
結果として、値段がお手頃なお菓子がメインになったのだ。
テーブルがそれらの袋や箱で埋め尽くされたところで、フラムが次に出したのは、女の子の姿をしたぬいぐるみだった。
「はい、これは静留――ミュートからキリルちゃんに、って」
「ミュートが?」
「助けてくれてありがとう、だってさ」
そのぬいぐるみは、どことなく、かつてミュートが常に持ち歩いていたものに似ていた。
キリルは受け取ると、ゆっくりと、大切に胸に抱きしめる。
「ありがとう、か……よかった。本当に、よかった」
優しく微笑むキリルは、何を想うのか。
胸に奥底でくすぶる小さなもやもやが、これで消えてくれるのなら、ミュートとしてもこんなに嬉しいことはないだろう。
「そして最後に――これがインク宛ての手紙」
目をキラキラと輝かせ、受け取るインク。
彼女はそれを胸に抱くと、エターナを見ながら「えへへぇ~」と笑った。
「よかった」
「うん、超うれしいっ! ケースに入れて一生大事にするっ!」
インクはエターナに頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を細めた。
「でも、まずは中身を読むべきだと思う」
「ええー、もったいないよお」
「手紙なんだから読まないと意味がない」
「むぅ、破りたくないなぁ……」
そう言いながらも、インクはしぶしぶ、慎重に糊付けされた封筒を開く。
中から出てきたのは、いかにも女の子らしい、淡いピンクの手紙だった。
そこには四人がインクに宛てたメッセージが記されている。
声には出さず、黙々とそれに目を通す彼女。
最初こそ笑顔だったが、次第に表情は暗くなっていった。
「インク、何て書いてあった?」
「んー……考えてみたら、当たり前のことなんだけど。再会できたのは嬉しいけど、もう、会わないほうがいいって」
こことは異なる世界。
死んだはずの人間が生きる世界。
それは明らかに、世界のバランスを崩す行為だ。
今回はデインのせいで騒ぎになった。
しかし、ダイバーとは基本的に、“下位世界を荒らす”存在だ。
それを続けるということは、いつかまた、同じような事件が起きる可能性が残る。
「一緒に暮らせたらな、なんて思っちゃったけど……そう、だよね。みんなにも、あっちの世界での暮らしだってあるんだし」
今度は慰めるように、エターナはインクの頭を撫でた。
一方で、フラムは首を傾げる。
言っていた内容と、読まれた手紙の内容が一致しない気がしていたのだ。
「インク。その手紙、二枚目がなかった?」
フラムがいうと、インクは手紙を指で挟み、ずらす。
するとぴたりとくっついていた二枚目が現れた。
そこには、こう記してある。
『追伸。それはそうとして、結婚式は別です。必ず呼んでください。楽しみにしています』
一転、落ち込んでいたインクは、また元の輝くばかりの笑顔に戻った。
たぶん、彼女にとっての一番の心配はそこだったんだろう。
一緒に暮らすのは無理でも、晴れ姿ぐらいは見てほしい――インクがそう望んでいることは、家族だったチルドレンたちならわかる。
だからこそ、思わせぶりに二枚目に書いたのだろう。
「エターナ、みんな結婚式に来てくれるって! ネクトも、ミュートも、ルークも、フウィスもみんなっ!」
「それはよかった」
「とびきり綺麗なドレスを選ぼうね! とびきり豪華でキラキラした結婚式にして、最高に幸せだってとこ見せつけようねっ!」
「もちろん、言われなくてもそのつもり」
「エターナ!」
「なに?」
「あたし今、すっごくハッピーだよぉーっ!」
インクはエターナの胸にぎゅーっと顔を押し付けると、ぐりぐりと首を横に振って喜びを現した。
まるで犬のように喜ぶ彼女を見て、エターナは微笑み、優しく抱き返す。
◇◇◇
こうして一連の騒動は、完全に終結した。
傷つき、苦しみ、涙を流した者もいたが――終わってみれば、それぞれを胸の内にあった、わずかなしこりは消えて。
世界は違えど、記憶は確かにそこにある。
遠く離れていても、やっぱり家族は家族で。
空を見上げ、かつての姉の姿を思い、微笑む。
そして昨日より少し軽くなった心で、少女たちはまた今日を歩きだした。
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