閑話4-5 そこに愛はあるのか

 





 王城を襲撃する、一体の獅子型キマイラ。

 その化物の胴体からは、魔族の男の上半身が生えている。

 それを迎え撃つのはオティーリエだ。

 彼女は実戦を離れてから久しく、一人で化物の相手をするのは厳しいはずだ。

 しかし兵士たちが敵うはずうもなく、冒険者や兵士たちは街で暴れるテロリストたちの相手で手一杯。

 ここを守れるのは、オティーリエしかいないのである。

 しかしもう限界が近い。

 彼女の服はボロボロで、全身傷だらけ。

 体の自由もきかず、気力だけで立っているようなものだった。


「わたくしは……わたくしはっ、お姉様のお嫁さんですのよぉおおおおおッ!」


 彼女を支えるのは、ただひたすらにお姉様アンリエット

 その顔を思い浮かべるだけで、プロポーズの言葉を思い出すだけで、ドバっと脳内麻薬が溢れ出し、意識を覚醒させる。


「お姉様、お姉様……っ」


 まばたきを忘れた瞳は大きく見開かれ、血走った。

 痛みで辛いはずだというのに、顔には不気味なほどの満面の笑みが浮かんでいた。


「お姉様、お姉様、お姉様、お姉様」


 繰り返す。

 そのたびに分泌される脳内麻薬。

 狂っていく神経。

 飛んでいく意識。

 今なら、いかなる不可能も可能にできるような気がした。


「お姉様お姉様お姉様お姉様おねえぇぇぇさまぁぁああああっ!」


 さらに叫ぶ。

 そして――オティーリエは、自らの首を剣で切りつけた。

 吹き出す大量の血液。

 ドン引く敵。

 だが、彼女は意味もなく自分を傷つけたのではない。

 それらはすべて、これより放たれる彼女の最大にして最強の虐殺規則ジェノサイドアーツ発動に用いられるものだ。

 いや、もはやそれをそう呼んでいいのかはわからない。

 アンリエットからのプロポーズを受けてから今も冷めやらぬ興奮と、狂的な愛情から生み出されたその技の名は、まさにそのまま――我が愛しき人よアンリエット

 流れた血が蠢き、オティーリエの背後で巨大なアンリエットの形を作っていく。

 生まれたのはおぞましき血の巨人。

 しかし彼女に言わせてみれば、それは“愛の結晶”だった。


「あぁ。お姉様……離れていても、わたくしを守ってくださいますのね!」


 振り向くと、オティーリエはとろんとした目でその巨人を見つめた。

 巨人も見つめ返す。

 言うまでもなく、自作自演である。

 あるいは、首からだらだらと血を流す彼女は、失血により幻覚でも見ているのかもしれない。


 もはや目の前の光景がまったく理解できない、獅子型キマイラ。

 なにはともあれ、オティーリエを殺せば彼の任務は成功だ。

 すでに満身創痍なのは一目瞭然である。

 とどめを刺すべくキマイラは動き出し、そして――突き出された巨人の拳が、全身を飲み込む・・・・

 血の塊の中にずぶりと埋まった彼は、その内部で地獄を見た。


 虐殺規則ジェノサイドアーツの効果により、体から力が抜けていく。

 弛緩し、だらんと血の中に浮かぶキマイラを、その中で生み出された無数の刃――すなわち血蛇咬アングイスが襲いかかる。

 前方だけではない。

 四方八方から刃はキマイラを切り刻み、その様はまるでフードプロセッサーの中に入れられた肉のようだ。

 なまじ高い生命力を得てしまったばかりに、どれだけ切断されてもなかなか死ぬことができない。

 血の拷問器具の中で彼はたっぷり苦しむと、最後は心臓を細切れにされ、ようやく息絶えた。


「はあぁ……お姉様……わたくし、やりましたわ! お姉様……を、まも……って……」


 勝利を掴んだオティーリエは、顔面から地面に倒れる。

 首からは、相変わらずだくだくと血が流れ出ていた。

 そんな彼女に、戦いに巻き込まれぬよう、遠くから眺めていた回復術士が近づき、傷を癒やす。

 こうしてどうにかオティーリエは、一命をとりとめたのであった。




 ◇◇◇




 一方、城内にあるアンリエットの執務室。

 そこは人狼型キマイラ同化体となった魔族の手により、氷の密室へと変えられていた。


「敵が来ていることには気づいていたが、まさか外側から閉じ込められるとは」


 オティーリエを助けに外にでようとしたところ、いきなり部屋が氷で閉ざされた。

 逃げる間もなかった。

 アンリエットがすっかり固まったドアに手を当てて困った顔をしていると、外から声が聞こえてくる。


「キハハハハハッ! ねぇ、出られないでしょ? 寒いでしょお? どんな気持ち? ねえ、ねえ!」


 感情を逆なでするようなその声は、女のものだ。

 よりにもよって差し向けられたのがこんなヒステリックな女とは――とため息をつくアンリエット。


「もうお前はそこから出られない。それはただの氷じゃないの、すっごく強い、鉄より硬い氷なの! 虐殺規則ジェノサイドアーツを使ったって、絶対に逃げられないんだからぁ! キハハハハハッ、ざまあみろっ、ざまあみろぉっ!」


 必要以上に煽ってくる。

 その顔は、さぞいい笑みを浮かべているのだろう。


「なるほど、確かにこのまま部屋のなかにいたのでは、凍え死んでしまいそうだな」

「そう、人の体はもろいから、その部屋の温度には耐えられない! しかも逃げられない! もうおしまいだねえ、残念だねえ!」

「ああ――残念だ」


 心の底から、アンリエットはため息をつく。


「よもや魔族たちが、私をこうも低く評価しているとはな。これでも私は将軍だ。命を賭けられるかはともかく、振るう力そのものは、ガディオとさほど大差はないと思っている」


 実際、彼女はガディオとライバル関係にあった。

 騎士剣術キャバリエアーツの達人と、虐殺規則ジェノサイドアーツの達人。

 ガディオが“賭命”を使えば勝つことは難しいだろう。

 しかしまっとうな方法のみで全力でぶつかりあえば、はっきりとした決着がつくことはない――それほどまでに互角だった。

 要するに、この程度の氷など、アンリエットにとっては障害にすらならないということ。


「その証拠に――ほら」

「へっ?」


 手のひらを凍ったドアにぺたりと当てる。

 そして少し腕に力を込めると、氷がパキッとひび割れた。

 生じた隙間には、まるで血管のように赤い血が満たされている。


「剣を使わずとも、この程度の障害を突破するのはこんなにもたやすい」


 血を満たしたのは、技ではなく、アンリエットの体質である。

 つまりまだ、虐殺規則ジェノサイドアーツによる破壊が残っている。

 意識を研ぎ澄まし、氷の隙間に入り込んだ血液に力を注ぎ込む。

 すると血は熱を得て、膨らみ、爆ぜる。

 氷はドアごと破壊され、アンリエットはようやく敵と対面した。


「血を……操ったの? ただ剣がちょっと得意なだけの人間だと思ってたのに!」


 女はワーウルフの体に魔族の頭部という、アンバランス姿で驚愕した。


「いささかリサーチ不足だな、それともその必要もないと思われていたのか? 私の特技・・ぐらい、城に攻め込んでくるなら知っていて当然だと思うのだが」


 とはいえ最近、アンリエット自身が戦うことはほとんど無かった。

 知らなくても仕方がない――だがやはり、攻め込んでくるのなら知っておくべきだろう。

 あるいは、腕が鈍っていると思い侮ったのか。

 今だって彼女は、毎日の鍛錬を欠かしていないというのに。

 するとそのとき、城の目の前にある広場から異様な声と、大きな音が聞こえてきた。

 窓の外に、ちらりと血の巨人が見えると、アンリエットは苦笑する。


「ふ、外の戦闘も私の妻・・・が勝利したようだ。城内も静かだな、王や王妃への襲撃者はすでに取り押さえられたあとだろう」

「う……うぅ……」


 形勢が逆転し、わかりやすいほど狼狽するキマイラの女。


「もう観念するんだな。投降するのなら、悪いようにはしない」

「誰が……誰が投降なんてするもんですかっ! 部屋から出たところで、キマイラの力を手に入れた私たち勝てっこないわよ!」


 彼女が説得に応じないのは、わかりきった結果だった。

 つまりちょっとした時間稼ぎ。

 その間にアンリエットは、次の展開を読み、相手の動きを見定める。


「真正面から潰してあげるわ、これが将軍の最期よッ!」


 敵はバカ正直に突っ込んできた。

 思わず失笑してしまうほどの、お粗末なタクティクス。

 首を狙って繰り出された爪を軽く避け、抜いた剣で敵の肩を切り裂く。

 手応えはあったが、傷は浅い。

 それだけキマイラの肉体が丈夫だということか。


「キヒヒヒヒヒッ! 遅い遅い!」

「その割には傷があるようだが?」

「これぐらいの切り傷で私たちが死ぬわけないじゃんっ! キヒヒヒ――ギッ!?」


 女の顔色が変わる。

 一気に青ざめ、胸のあたりを押さえながら膝をついた。


「が……あ? なに、これ……くるし、い」


 アンリエットはこの時点で勝利を確信し、剣を鞘に収める。

 そして崩れ落ち、ついには横たわってしまったキマイラに近づき、見下ろした。


虐殺規則ジェノサイドアーツだよ。お前の体内に血液を送り込み、肉体の機能を制限した」

「ど……う……い、う……」


 彼女とて、虐殺規則ジェノサイドアーツがどういった力を持っているかぐらいは知っている。

 しかしそれはキマイラの力で抵抗できると思っていたし、食らったとしても、手足の動きが鈍くなるとか、その程度だと思っていたのだ。

 だが、アンリエットの場合は違う。


「わからないか? 心臓を止めたんだ」


 もはやキマイラは声を出すことすらできない。

 だが大きく開かれた目が、その驚愕の度合いを表していた。

 あの程度の傷で心臓が止められるなど、馬鹿げている――そう思ったに違いない。

 とはいえ、事実として命の灯火が消えつつある以上、信じるしかなかった。

 そしてそのまま、彼女は眠るように息を引き取る。


「小さな切り傷一つでも致命傷……と、ちゃんと調べていればわかっただろうに。甘いやつらだ」


 死体の片付けが面倒だ――そんなことを考えながら、アンリエットはひとまず城外のオティーリエの元へと向かった。




 ◇◇◇




 コンシリアに建てられた魔王城にも、神の血脈は襲撃を仕掛けていた。

 城前広場の異変に気づき慌てて飛び出してきたシートゥムとツァイオンは、ニ体のキマイラ同化体と対峙する。


 一人は人狼型。

 蜘蛛の一部を取り込んでいたジェリルとは異なり、彼は両腕にオーガを取り込んでいた。

 名はミリオル。

 トーロス同様に、かつてツァイオンと友人だった男だ。

 残る一人は飛竜型。

 ミリオルを守るように、前に立ちはだかっている。


 神の血脈が所持している戦力は全部で十体なのだから、彼らはここに存在する戦力をキリル並には評価しているようだ。

 だが一方で、ツァイオンはその敵を見て――


「つまんねえな」


 そう一蹴する。

 冷めた目で、彼らを心の底から軽蔑した。

 名乗りを受けずとも、それがディーザの血を引いた子供であることは、シートゥムも含め直感で理解している。

 今日の襲撃にいたった動機も、まあ理解できないでもない。


 ディーザの血を引いており、なおかつオリジンを信仰している――それは彼らの内面の大部分を占めるアイデンティティだったに違いない。

 その崩壊を、受けいれられなかった者たちの集まり。


「どうしてそう、ネガティブな方向に命を賭けちまうんだよ。なあミリオル」


 魔族の世界はそう広くはない。

 ツァイオンは、人狼型キマイラと同化した彼のことを知っていた。


「お前たちが俺らのことを受け入れなかったからだろ」

「思想を押し付けることを受け入れるとは言いませんっ!」


 シートゥムはミリオルを睨みつける。

 だが彼はへらへらと笑うばかりだ。


「じゃあ、永遠に平行線だな。なんでわかんないかな、あれだけディーザ様のそばに居たってのに」

「いたからこそだろ。あれだけ家族ヅラしておきながら、オレらを裏切ってたんだ」

「そこが素晴らしいんだろうが。失望するんじゃなくて、心酔するべきなんだよそういう一面に!」

「……理解できねえよ」

「らしいな」


 ツァイオンは『もはや話すだけ無駄だ』と悟る。

 キマイラと同化した時点で、魔族としてのミリオルは死んだようなもの。

 最初から命の奪い合いをする――そのためだけに、姿を現したのだ。


「兄さん、いきますよっ」


 そう言って、シートゥムは強引にツァイオンの右手を取って、まるでダンスでもするように指を絡め、ミリオルに向かって伸ばした。

 ツァイオンは不服そうに眉間にシワを寄せる。


「ったくこれ恥ずかしいんがなぁ……あと結婚したんだから兄さんはやめろっつってんだろ」

「じゃ、じゃあ……あなた?」


 赤らむツァイオンの顔。

 釣られて、シートゥムもぼっと耳まで真っ赤になった。


「言い出した兄さんが恥ずかしがってどうするんですか!」

「予想以上にぐっと来たんだよ! 悪いかよ!」

「別にぐっと来たんなら悪くありませんけど! 悪い気もしませんけど!」


 突如始まった言い争いに、ミリオルたちも戸惑いを隠せない。

 挑発かとも思ったが、それにしてはトーンが本気だ。


「なんだあいつら……この状況で痴話喧嘩を始めやがって」


 余裕を見せつけられたようで、ミリオルは不愉快この上ない気持ちになった。

 今すぐにでもこの手で殺してしまいたい。

 最初からそのつもりだったが、考えていたよりもずっと残酷かつ苦しむような手段で――


「敵さんも呆れてるようです、早く楽にしてあげましょう」

「そうだな、馬鹿は死なないと治らねえ」

「コケにするのもいい加減にしろよ! キマイラの力、ツァイオンたちだって知らないわけじゃないだろ!?」

「ああ、知ってるよ」

「私と兄さんさえいれば、大した敵じゃないってことはちゃーんとわかってます」


 二人は同時に二体のキマイラのほうを見る。

 四年前よりさらに深まったその絆により、魔力の融和は容易に達成される。

 燐火と陽闇、炎と光。

 闇は制御に用いられ、その威力を敵の周囲のみに留める。


「エンゲージ」


 シートゥムが呟く。

 二体のキマイラの間に、橙色の、光を放つ球体が現れる。

 それは二人の魔力によって一気に膨らみ――


「ザ・サン」


 ツァイオンの言葉と同時に、一気に弾けた。

 一帯が、光に包まれる。

 瞬間的に視界が完全に白く染まり、なにも見えなくなってしまった。

 同時に、その様子を遠巻きに見ていたセイレルやトーロスたちの肌を、熱風が撫でる。


「あっづぅ……」

「この威力は、さすが魔王様としか言いようがないね。これでまだ伸びしろがあるって言うんだから恐ろしいよ」


 肌を焼くほどではないが、そこそこの温度だ。

 しかし、その程度でキマイラにダメージを与えられるはずがない。

 だが心配はいらない。

 それらはあくまで、余波・・である。

 闇の魔力で抑え込めない分は、どうしても周囲に漏れてしまうのだ。

 つまりミリオルたちを中心とした範囲内では――想像を絶する超高温で満たされていた。

 まさに、太陽に直で触ったかのような熱である。


 ようやく視界の回復したセイレルは、広場に広がった光景を見て驚愕した。


「あれ、消えた……? どこかに飛ばされたの?」


 そこにミリオルたちの姿はない。

 あるのは、どろどろに溶けた石畳だけだ。


「違うよ、蒸発したんだ」


 トーロスは落ち着いた様子で言った。

 四年前より魔力も向上し、装備もよりよりものに変わり、なにより絆を増した二人による“エンゲージ”の威力は、当時とは比べ物にならない。

 人狼型だろうと、獅子型だろうと、飛竜型だろうと関係なく、キマイラぐらいなら消し飛ばせるほどまで成長していたのである。

 魔族たちはその膨大な力を恐れる一方で、それ以上に頼もしさを感じていた。


「……」


 消えたミリオルたちのいた場所を、じっと見つめるシートゥム。

 ツァイオンも同じ場所を見つめ、呟いた。


「感傷か?」

「ええ、兄さんはなにも感じないんですか? 以前は友達だったんですよね?」


 同じ魔族。

 ディーザの息子。

 オリジンの信仰者。

 その全てに深く関わってきたシートゥムとしては、思うところがいくらでもある。

 だがツァイオンは、まったく動じていない様子だった。


「なにも感じないとまでは言わねえ、だが優先順位っつうもんがある。話しても無駄だった。あいつらはオレの大事なものを壊そうとした。だったら、当然の報いだろ」


 彼が守るべきは、妻であるシートゥムと、“今ここで暮らす”魔族たちだ。

 四年も経った。

 説得だってした。

 それでもなお、彼らは変わらなかったのだ。

 こうなるのは、仕方のないことである。


「ディーザの呪縛から抜け出さなかったのはあいつらの選択だ。悲しんでんなよ、お前はなにも悪くねえ」


 そう言って、ツァイオンはシートゥムの頭にぽんと手を乗せた。


「……ありがとうございます、兄さん」


 彼女はそう言って、気持ちよさそうに目を細める。

 それでも割り切ることはできないようだが、ツァイオンはそれでもいいと思っている。

 その優しさが、シートゥムがみなから慕われる魔王たる所以なのだから。




 ◇◇◇




 残るキマイラ同化体は一体。

 唯一の生き残りになってしまったジェリルは、それを知らないまま、英雄霊廟に攻撃を仕掛ける。

 狙いはジーンだ。

 素直に戦いを挑む必要はない。

 排気口から侵入して、肉弾戦が苦手な賢者を暗殺・・するのだ。

 元より素早い動きと隠密行動が得意なジェリル。

 蜘蛛のモンスターの一部を取り入れた、この“人狼型キマイラ同化体”を手に入れたことにより、さらに長所に特化された力を持つようになっていた。

 彼のような暗殺者を警戒してか、霊廟のいたる場所には探知の魔法が仕掛けられていたが、さほど高度なものではない。


「天才様も堕ちたもんだねぇ……」


 手際よく解除していくジェリル。

 だが彼は気づいていなかった。

 とっくに、霊廟を守る兵士が“魔法を解除したこと”に気づいていることに。

 ジェリルはさらに排気口を進み、ジーンの部屋に繋がる通路へと出た。

 そこに立ちはだかる、大きな盾をもった一人の男。


「ここは神聖なる地だ、貴様らを通すわけにはいかん」


 バートが、ジェリルを待ち伏せていたのだ。

 施設内の一般人たちはすでに避難しており、周囲には誰もいない。

 その迅速な行動も、彼がいたおかげである。


「……偶然生き残ったおこぼれで隊長に就いた男、バート・カロン」

「しっ、失礼なやつめ! まあ、否定はできんが」


 さすがにそれは過小評価である、バートもオリジンとの戦いの中でフラムたちの窮地を救ったことがあるのだから。

 だが、彼もいい年だ。

 体力も衰え始め、最前線に立つには厳しくなってきた。

 仮に相手が一人だったとしても、抑え込むのは難しいだろう。

 とはいえ、一方で年相応に落ち着きも出て、冷静な判断力を兼ね備えつつある。


聖護の防壁アイアンメイデン・ピュリファイ!」


 バートが盾を床に突き立てると、見えない壁が通路を塞いだ。

 強度を犠牲にし、範囲を広げた正義執行ジャスティスアーツ

 彼の目的はジェリルを倒すことではない。

 ここで足止めをし、援軍を待つことである。


「薄氷みたいなしょぼい壁だねぇ」

「時間稼ぎぐらいはできるさ」

「それはどうかなぁ――アクアバレット・イリーガルフォーミュラぁっ!」


 ズガガガガガガッ!

 機関銃のように、水の弾丸が秒間百発に迫る激しさでバートに迫る。


「ぬ、ぐおぉおおおおおおおッ!」


 彼はこめかみに血管を浮かせながら、必死でその攻撃に耐えた。

 それを見てニタリと笑うジェリル。


「やるじゃないかぁ、意外と。なら次はこれでぇ……アクアバレット・スパイラル!」


 オリジンの螺旋の力――それを魔法に混ぜ込んで、ジェリルの周囲に浮かぶ水の弾丸は高速回転を始める。

 そして彼が手をかざすと、弾丸たちは一斉にバートに襲いかかった。

 ギュイイィィィィィッ!

 今度の攻撃は、防壁に当たって弾けるだけでは終わらない。

 鋭く尖った先端が突き刺さり、そのまま回転を始め、少しずつ潜り込んでくる。


「ぐ……あ……おぉぉおおおおおおッ!」

「おぉ、耐える耐える。でもそろそろ限界が近いんじゃないかなぁ?」


 事実、そうだった。

 すでにバートの力で抑え込めるレベルではない。


(あいつはまだか……! 俺にできるのは守ることだけ、こいつらを倒すことはできんのだぞ!?)


 心の中で思わず愚痴る。

 ジーンの部屋はすぐそこだ、探知魔法を設置したのは彼自身だし、外があれだけ騒がしいのだから、すでに異変には気づいているはずである。


 パキッ――と防壁がひび割れた。

 弾丸の先端が、バートの眉間のすぐそこにまで近づいている。

 皮膚が穿たれ、赤いしずくが鼻の横を流れていく。


(もはや、ここまでか――!)


 死を覚悟したバート。

 そのとき、ようやくジーンの部屋の扉が開いた。


「キマイラとの同化か。コアは無し、しかしオリジン的な特徴が各所にある。新たなオリジンを作ったということか? 付け焼き刃の急造品にしては上出来だが――」


 バートの危機になど気づいていないかのように、ゆったりと歩きながら彼は語る。

 そして防壁越しにジェリルと向き合うと、決めポーズのように右手で顔を覆って言い放った。


「この天才、ジーン・インテージの前では無意味だ」

「かっこつけてないで早くどうにかしろ! もう、防壁が……!」

「安心しろ、骨は拾ってやる」

「勝手に殺すな!」

「ふ、ちょっとしたジョークだ。蒸発しろ、ヒート!」


 ジーンが魔法を放つと、水の弾丸はジュワッと消滅する。

 その光景をフラムが見たら、奴隷の印を刻まれたあのトラウマが蘇り、彼に殴りかかるだろう。


「ジーン・インテージ……ようやくおでましか」


 暗殺の予定は崩れたが、しかし一対一で戦っても勝てない相手ではない――そうジェリルは判断する。

 なぜか・・・スキャンを使ってもジーンのステータスを見ることはできないが、それは隠蔽魔法の効果であり、『相手に実力が大したことないことを悟られたくない』という彼の臆病さだと判断した。

 不敵に笑うジェリル。

 そんな彼に対し、ジーンは「ふむ」と一息置いてから言った。


「顔が臭いな」

「は?」


 いきなりの罵倒に、ぴくりとジェリルの頬が引きつる。


「ああ、ぷんぷん臭ってくる。これは下衆の匂いだ、僕の天才的な嗅覚にはふさわしくない。隠すなりして抑えてくれないか」

「この顔はディーザ様からいただいたものなんだよぉ? あの方の血を引いてぇ――」

「だから臭いと言っているんだ。もっと恥じて、特徴を消すよう努力し、ひっそりと生きるべきだ。しかもそのような醜いキマイラと同化して、汚物がお天道様の下を歩くんじゃない」

「おっ、お前はあぁぁぁぁあああッ!」


 ジェリルは激昂する。

 彼にとってディーザの血を引いていることは、誇りであり、唯一無二のアイデンティティなのだ。

 一方でジーンは、徹頭徹尾、相手を軽蔑していた。

 彼のディーザへの強い憎しみは、王国の民の間にその悪行が広がっている影響に他ならない。

 オリジンと並んで、お世話になった育ての親を裏切り、兄妹同然だった先代魔王を殺害し、あまつさえシートゥムまで手に掛けようとしたディーザは、人々にとって最大の悪なのである。

 無論、その血を引くものも例外ではなく――もっとも、トーロスのように、その事実を公表した上で、まっとうに生きている魔族もいるのだが。


「殺してやるよぉ、絶対に、今すぐここでぇ!」

「無理な夢は抱くな、痛い目を見るだけだぞ」

「その余裕が気に食わないんだよぉ! アクアカノンッ、スパイラルぅッ!」


 直径二メートルほどの水の球体が六つ浮かび上がり、弾丸同様に高速回転を始める。

 その威力は、アクアバレットの比ではない。

 命中すれば、ジーンの肉体は粉々に砕け散ってしまうだろう。

 ……命中すれば、の話だが。


「アトミゼイション」


 迫る水のドリルを前に、ジーンは軽く手を薙ぎ払った。

 すると四色の帯のような魔力がふわりと浮かび、ジェリルの魔法はそれに触れた瞬間、粒子となって消えた。


「……なんで?」

「似たり寄ったりだという自覚はあるが、圧倒的な力とはそういうものだろう? 壊すとか、傷つけるとか、そういうことじゃあない。“消す”んだ。魔法を究めた先にたどりつく場所はそこにある」


 ジーンは自慢げに解説を始めた。

 冥土の土産・・・・・とでも言わんばかりに。


「アトミゼイション。我が“自然”の属性により、あらゆる物質を原子レベルにまで分解する」

「そんなことが出来るはずないだろぉ!? 少なくとも、ジーン・インテージには不可能なはずじゃないかぁ!」


 なぜかスキャンしても能力値が見えない。

 それはジーンが、シアの“夢想”によって生み出された存在だからである。

 ゆえに、彼のもつ魔力の正確な値を把握できるものはだれもいなかった。


「今やコンシリアは、人口10万人を超える大都市だ。そしてその住民のほとんどが、僕のことを世界を救った英雄として認識している」

「だからどうしたって言うんだよぉ?」

「おいおい、仮にもディーザの息子であることを誇るのなら、多少は頭の良さも継いでおけよ。いいかい、10万人の魔力で僕はここに存在しているんだ。いや、王国全土に広げればもっと大量の魔力が僕に集まってきている」


 自らの顔の前に人差し指を立てるジーン。


「ひとりあたり1だと仮定しても、それだけで10万を越える。2だったら、20万。3だったら、30万」


 語りながら、中指、薬指と立てる指の数を増やしていく。


「まあ、残念なことにフラム・アプリコットには届かないが、しかし――」


 そして彼は、勝ち誇った表情で、呆然と立ち尽くすジェリルを見下す。


「英雄ジーン・インテージは、君たちの常識で計れる存在じゃあない」

「魔力……30万……?」


 ありえない数字だ。

 キマイラの力を借りても、六桁なんて夢のまた夢だというのに。

 魔力が数十万に達し、かつ四属性を操れるのだとしたら――もはや彼の意のままに動かぬ物理現象はこの世に存在しないかもしれない。


「あくまで仮定だ、もしかするともっと上かもしれん。はは、知っていたら挑まなかったという顔をしているな。だがもう遅い、結果は変わらない、時を巻き戻せるのはフラムだけだ。そして彼女が不在の今、コンシリアにおける最強の天才は僕だ!」


 両手を広げ、軽く仰け反りながらジーンは自らの力を誇る。

 別の存在とはいえ、彼の自己愛は変わらない。

 自らが現在、このコンシリアにおいて最強だという事実は、彼に絶頂にも勝る快感を与えていた。

 高まっていく感情。

 それに応じて、言葉も、身振り手振りも、さらに大げさになっていく。


「お前たちは自らの選択を悔いて、ここで死ぬ。猶予は十分に与えたぞ、だから僕はゆっくりここまで来たんだからな!」


 霊廟の廊下に、ジーンの声が響き渡る。

 その迫力に圧され、青ざめながら後ずさるジェリルとは対照的に、バートはどこか呆れたようにその様子を眺めていた。


「さあ、さあ、さあ――その汚らわしい血を、ここで絶やしてろう! アトミゼイション!」


 四色の帯がふわりと、ジーンの手から放たれる。


「う……うわぁああぁぁあっ! 来るな、来るなっ、来るなあぁぁぁぁああっ!」


 ジェリルは背中を見せて逃げるも、そいつはどこまでも彼を追いかけた。

 排気口を駆け抜けても、どれだけ全力を出して加速しても、引き離せない。

 いや、むしろ近づいてくる。


「離れろっ、まとわりつくなぁっ! いやだ、消える……消えていくぅ、体、が……ぁ……」


 帯はジェリルの体に触れると、その部位は溶けるように消えて無くなった。

 身動きが取れなくなった彼はやがて全身を包まれ、跡形もなく消滅する。


「断末魔もなし……やはり今の僕は優しいな」


 敵の死を感じ取ったジーンは、自分に酔いながら言った。




 ◇◇◇




「上が騒がしくなってきたな」


 地上での激しい戦闘は、ディードやインクのいる地下遺跡をも揺らす。

 彼は混乱に陥るコンシリアを空想し、口元に笑みをたたえて悦に浸った。

 作戦はうまくいっている、そう確信して止まない。


「君の知り合いも、今ごろ無残に殺されているころだろう」


 インクのそばにしゃがみ込み、語りかけるディード。

 彼女はまだ無事だ。

 だが、ナイフで皮を剥ごうとするディードに抵抗し、怒りを買ってしまい、意識が朦朧とするまで殴られ、蹴られたところだ。


「う……うぇ、ぷ……うげ……っ」


 自我が弱まったせいか、口から眼球を吐き出している。

 しかしそれに、以前のような力は無い。

 当然だ、ここにあるオリジンには“意思”が無いのだから、自発的に人を襲い、増殖させることもないだろう。


「もう抵抗もできない、か。なら今度こそ始めようか、痛くても泣いたり喚いたりしてはいけないよ、それはオリジン様からの祝福なんだからね」

「うぁ……エターナ……エターナぁ……」


 うわ言のようにエターナの名を呼ぶインク。

 それが気に食わなかったのか、ディードの表情に悪意が宿る。

 だが、彼の拳が彼女の顔を殴りつける前に、部屋の扉が開いた。


「ディー、ド……」


 室内に入った途端に倒れ込む魔族の男。

 ディードは慌てて彼に駆け寄った。


「ルトール! その傷はどうしたっ!」

「もう……ダメ、だ……逃げ、ろ……」

「なにを言っている、キマイラとの同化体は十体もいるんだ、逃げる必要など――」


 自分たちには、英雄たちすら屠る絶対的な力がある。

 そう信じ込んでいたディードに、ルトールと呼ばれた彼は現実を突きつけた。


「全滅だ」

「……なんだと?」

「全滅、したんだっ! キマイラ同化体も……人間爆弾も、構成員も、含めて全員がっ! コンシリアの犠牲者もゼロ! 俺たちは……なにも、できなかった……!」


 先ほどまで耐えず地上から伝わってきた揺れが、今はぴたりと止まっている。


「まさか……そんなことが……」


 ディードは天井を見上げた。

 あれだけの力をもった同化体たちが、全員、敗北した。

 信じたくないが、ルトールがそんな嘘をつく魔族でないことを彼は知っている。


「はぁ……ふぅ……エターナ・リンバウも……近くまで、来てる。どうにか撒いたが……じきに、見つかるかもしれない。あいつも、以前とは違う……クーザは一撃で粉々にされた。俺も……同化体になっても、敵わない……」

「エターナが、助けに来てくれる……!」


 その名前を聞いた途端、インクの瞳が光を取り戻す。

 だがそれが、ディードの感情をさらに逆なでした。

 彼は大股で彼女に近づくと、怒りをあらわにして蹴り飛ばす。


「嬉しそうな顔をするなッ!」

「あぐうっ!」

「オリジン様の恩寵を受けながらッ! 我らの敗北を喜ぶなどッ! 恥を知れ恥をぉッ!」

「あぐっ、ぐ……げほっ……!」


 さらに体や顔を、何度も繰り返し踏み潰した。

 しかし、瞳に宿った光は消えない。

 エターナが近くにいる。

 ただそれだけで、インクは救われたのだ。


「なんだその目は」


 だから余計に、ディードはそれが気に食わなかった。


「そのような生意気な目で、私を見るなあぁぁぁぁああッ!」


 手をかざす。

 闇の魔法が、インクの目の周囲にまとわりつく。


「ひっ……あ、あっ……」


 ぞわりとした生ぬるい感触に、彼女は思わず引きつった声をあげた。


「やだ……やめて、それだけは……やめてよぉっ、エターナからもらったものなのっ!」

「だから余計に憎たらしい!」


 そして、義眼がずるりと引き抜かれる。

 疑似視神経は引きちぎられ、インクの視界は暗闇に閉ざされた。


「返してっ、返してえぇぇっ!」


 彼女はなにも見えないまま、必死でディードにしがみつく。

 だが彼はそんなインクを振り払い、手のひらに収めた義眼を無残にも握りつぶした。


「……あ」


 聞こえてきたバキッという音に、彼女は絶望し、崩れ落ちる。


「いや……なんで……せっかく、エターナが作ってくれたのに……」

「すりつぶされる肉には必要ないだろう」


 言いながら、ディードは潰れた義眼を投げ捨て、さらに足裏ですりつぶした。


「う……ううぅうううううう……っ!」

「喚くな、鬱陶しい!」

「ぐっ! ぇふ……う……えぇ……」


 加えて、何度も何度もインクの体を蹴りつける。

 彼はサディスティックに、苦しむ少女の姿を見て楽しんでいた。


「お、おい、ちょっとやりすぎじゃ……」


 いくらインクがじきに殺されるとはいえ、ルトールからしてもそれは異様な光景だった。

 いや、そうでもなければ、神の血脈のリーダーになどなれないのかもしれないが――声を上げた直後、そんな彼の体は風船のように膨らんだ。


「が、ぼ?」


 そしてわけのわからぬまま膨張を続け、そのまま破裂する。

 その死体を踏み潰しながら現れたのは、殺意に満ちたエターナだ。

 すでにここに来るまでに、邪魔をするテロリストたちを何人も殺している。

 躊躇なく、凄惨に、残酷に。

 そのせいか、衣服や顔は血で汚れていた。


「早い到着だったな」


 待っていたぞ、と言わんばかりに不敵に笑うディード。


「オリジン様には絶望が似合う。どうせこの少女を殺すのならば、エターナ・リンバウをその前に殺し、さらなる絶望を与えたあとで命を奪ったほうが、復活の贄としてはより相応しいのかもしれんな」


 彼はエターナに歩み寄りながら語る。

 しかし彼女の視界には、インクしか映っていなかった。


「インク!」


 駆け寄り、ぼろぼろになった体を抱き上げる。


「エターナぁっ! あたし……あだいじぃ……せっかく、エターナからもらった目……こ、こわ、壊されて……ごめんなさい……ごめんなさいぃ……」


 なにも悪くなんてないのに、繰り返される悲痛な言葉に、エターナの胸は締め付けられ、瞳に涙が浮かんだ。

 感情に任せて、胸を押し付けるように強くその体を抱きしめる。


「義眼なんていくらでも作れる! だから謝る必要なんてない。インクが無事なら、それ以上わたしにとって嬉しいことはないから」

「エターナ……エターナあぁ……」


 インクもすがるように、エターナに抱きついた。

 目は見えなくても、その温もりと匂いだけで、心がいっぱいに満たされていく。

 改めて思う。

 この人しか、自分にはいない。

 この人のそばだけが、自分の居場所なんだと。


「感動の再会だな、思わずもらい泣きしてしまいそうだ」


 わざとらしく拍手しながら、ディードは言い放つ。

 その声は震えており、無視されたのがよっぽど堪えているようだ。

 エターナは振り向きもせず、背中を見せたまま反応した。


「残念だけど、残るはお前一人だけ」

「殺せるのか? 同化体との戦闘を経て消耗をしているお前に、この私が!」


 思わず、エターナはため息をついた。

 下らない。

 どうしてあんな男に、インクがここまで傷つけられなければならないのか。

 下らない、下らない、心の底から下らない。


「インク、ちょっと待っててね」

「……うん。気をつけてね、エターナ」


 エターナは微笑み、体を離す。

 そして立ち上がると、左の手のひらをディードに向けた。

 とっとと魔法でなお男の醜い顔を吹き飛ばし、こんな下らない戦いは終わらせなければならない。

 体内の魔力を左手に集中させる。

 イメージするのは、鋭い氷の槍。

 その先端で、頭蓋骨の向こうにある脳ごと、あの頭を吹き飛ばすのだ。


「アイスランス!」


 宣言とともに、氷が射出される――はずだった。

 だが、なにも起きない。


「……?」


 思わず首を傾げるエターナ。

 その後も何度か試してみたものの、一向に魔法が発動する様子はなかった。


「出ないなあ。はは、魔法、使えないよなあ」

「これは……」

「アイスランスぅ! か。くはは、随分と気合が籠もっていたな、少女を傷つけられて激昂していたのか? それで空振りとは恥ずかしい。今すぐここから逃げたい気分だろう。なんだったら逃げてもいいぞ、もちろん彼女は置いて」

「この部屋に、なにか仕掛けが施してある」

「そう。希少属性、封魔。体外への魔力放出を封じる力を持っている。私たちが辺境の村で見つけてきた逸材だ」


 ディードは語りながら、壁に並んだ人体のうちの一つに近づき、愛おしそうに頬を撫でる。


「この少女をオリジンの一部として取り込むことで、私たちはその制御に成功した。もっとも、適用範囲はこの部屋の中だけとかなり狭いが、お前を打ちのめすには十分だろう」


 かつてオリジンも、フラムを取り込んで似たようなことをしようとしていた。

 結局は実現しなかったが、止められなかった場合、“オリジンが反転の力を行使する”という悪夢のような事態が起きていたのだろう。


「魔法の使えないエターナ・リンバウはただの雑魚。ああ、私はちょっとした細工をしているのでね、そのような制限はない。そういうわけだ。今から一方的に蹂躙して、戦闘不能にした上で、お前の眼の前でこの少女をすりつぶして殺す。神の血脈はそうして完全なる勝利を得させてもらおう」

「くっ……」


 苛立たしげに、歯を食いしばるエターナ。


「もう仲間はいない」

「だからどうした。あんなものは陽動にすぎない。本命はこっちなんだよ」

「どうせフラムにすぐに壊される」

「そのために人質を取るんだ。あれはお人好しの甘ちゃんだ、仲間を壁にしてやれば手を出せないだろう?」


 それはありそうではある。

 しかし今のフラムを怒らせれば、人質など意味をなさないほどの力で、敵を薙ぎ払うだろう。

 だから人質は無意味だ。

 無意味なのだが――それはエターナの勝敗には関係のないことだ。

 魔法を封じられたこの場所で、ディードを殺し、インクを救出する。

 今やらなければならないのは、それだけなのだから。


「しかし、さっきまでの威勢はどうした? 言葉など交わしている余裕があるのか? なんなら、今すぐにでもその少女を殺してやってもいいんだぞ?」

「インクはやらせないっ!」

「だったら止めてみせるんだな、ダークネスバレット!」


 ディードはインク目掛けて、黒い弾丸を射出した。

 とっさにエターナは動き、庇うように彼女の前に立ちはだかる。


「づぅ……っ!」


 弾丸が肩を貫き、血が噴き出した。


「あっははははは! 無力だなぁ、世界を救った英雄様のこんな惨めな姿、私も見たくはなかったよ」


 言いながらも、続けて何発も魔法を放つディード。

 そのたびに、エターナの体は為す術もなく傷つけられていった。


「心が痛むが仕方ない、これもオリジン様のため」

「ぐ……」

「お前を痛めつけて」

「ぎ……が、あっ……!」

「苦しませて」

「は……ああぁぁっ……!」

「絶望に突き落として殺さなければ!」

「ぎゃ、あ、があぁぁああっ!」


 闇の魔力が左腕にまとわりついたかと思えば、関節を逆方向に曲げてへし折った。

 やろうと思えば、高い威力の魔法で一撃で殺せるはずだ。

 だがディードはそうしなかった。

 インクにそうしたように、エターナが苦しむ様を見て楽しみながら、ちまちまと、体を破壊していく。

 腕の関節を折ったあとは、指の一本一本の爪を剥がし、骨を折り、最後に肉を潰す。


「ぐ、が、が……」


 気絶しそうな痛みが、エターナを襲った。

 だが彼女は膝もつかない、インクの目の前でそんなことは許されない。

 死んでも、守り続けなければ。


「健気なものだ、お互いに」


 少しずつエターナに歩み寄るディード。


「だからこそ、死が映える。お前が必死で守れば守るほど、インク・リースクラフトはその死に絶望してくれるだろう」

「やら……せない……」

「抵抗の手段もないくせになにを言う」


 いつもエターナの周囲に浮かんでいる球体すら、部屋の入り口に打ち捨てられている。

 もはや打つ手なし、誰の目にもそう見えた。


「ダークネスブレイド」


 ディードの腕を闇が包み、刃へと形を変える。


「最後は、私自身の手で殺してやろう!」


 彼が腕を振り上げると――エターナは歯を食いしばりながら、ぐちゃぐちゃになった左手で、隠していた“石”を彼の足元に投げた。


「魔石だとっ!?」


 封じられているのは、体外への・・・・魔力の放出だ。

 ならば魔石なら発動できるかもしれない。

 それは賭けだったが、ディードの慌てようから言って正解だったようだ。

 石に込められた魔法が発動し、無数の氷の矢が足元から射出される。

 ディードは後方に宙返りしながらそれを回避した。

 だがいくつかの矢が体を掠めていく。


「っ、は、ああぁぁぁっ!」


 エターナはさらにいくつかの魔石を投擲。

 さすがにこの数ならばディードでも避けられまい。

 追い詰められた彼の表情に焦りが浮かぶ。

 そして魔石から氷の矢が大量に放たれ、全方位から囲み――命中する直前に、空中で消滅した。


「……どうして」


 唖然とするエターナ。

 一方でディードは、すぐに状況を理解し、肩を震わせた。


「は……ははは……はははははっ、あはははははっ! 学習したんだ、成長したんだよ、オリジンが!」

「そんなことがっ!」

「封魔が魔石に効果が発揮しないのをみて、私たちを守るために適応範囲を拡大させたんだ!」

「都合が、良すぎる……」

「私は神の祝福を受けている、運が味方するのは当然! 明白! 明快!」


 再び形勢逆転。

 魔石すら使えなくなったエターナには、今度こそ打つ手は無くなったはず。

 その確信を得て、魔法を発動させる。


「ダークネスリッパー」


 漆黒の円盤が、ディードの頭上で高速回転を始める。


「さあ、今度こそ死んでもらおうか。避けてもらってもいいが――その場合は、彼女が死ぬことになる。安心しろ、ちゃんとお前が死ねば、それ以外には被害を及ぼさないよう止めてやる。もっとも、そのあとにインク・リースクラフトはすり潰されて死ぬがな」

「エターナ……もういいよ、やめて! あたしのことなんてどうでもいいから、逃げてっ! きっと他の人たちと協力したら、あんなやつ簡単に倒せるはずだから!」

「そんなわけにはいかない。ここでインクを見捨てたら、わたしは死ぬよりも後悔する!」

「そこまでする価値なんてあたしには無いよっ!」

「あるッ!」


 何時になく強い語気で言い切るエターナ。


「わたしにとってはインクの命が自分の命よりも大事だから、今までだって隣で歩いてきた! 今だってここに立ってる! そしてこれからだって! どこにいても、なにをしてても、わたしはインクのことを守り続ける!」

「エターナぁ……」


 今だからとか、追い詰められたからとかじゃない。

 今までだってずっとそう思ってきた。

 エターナにとってインクは、そういう存在だった。

 だからこそ、高い理想を抱いてしまうのだ。

 インクは誰よりも――この世界のなによりも幸せにならなければならない。

 それが自分で無くてもいい、彼女が幸せなら。


「泣かせるなぁ、吐き気がするほどお涙頂戴だ! そのおぞましい絆とやらを夢見たまま死ぬんだな、エターナ・リンバウッ!」


 円盤が射出される。

 ディードの宣言通り、避ければインクが死に、受ければエターナが死ぬ。

 究極の二者択一を前に、エターナは――なおも、諦めなかった。

 考える。

 魔力が使えない今、彼女に残されているのは頭脳だけだ。

 考える。

 天才を自称したことはないが、人よりは頭は回る、それがインクを守るためならば余計に。

 考えろ。

 封魔には例外がある、魔石がそうだった、あとで対処されるにしても今だけは、一度だけならば。

 考えろ。

 見えてきた、ほら突破するためのロジックが、そのために犠牲になるものがあったとしても――嗚呼、インクの命を比べれば、どれだけ軽いものか。


「そうか、貴様は自らの命を捨てる道を選ぶか!」


 エターナは動かない。

 インクの前で仁王立ちして、闇の円盤が自らの肉体を切り裂くのを待つ。


「いいや、わたしは――」


 瞳に宿るは闘志。

 熱い想い。

 その滾る心を以て、恐怖心を制し、ダークネスリッパーを――自ら、左腕・・で受け止める。


「ぐっ、ううぅぅぅぅうう……ッ!」


 ギュアァァァァアアッ!

 高速回転する刃が、肉を断ち、骨を削る。


「エターナッ、もういいってばぁ、エターナあぁぁっ!」


 血肉が飛び散り、エターナの頬を汚した。

 彼女は歯を食いしばり、その痛みに耐え――


「ぐ、おぉぉおおおおおおッ!」


 吠えた。

 そして円盤は、エターナの左腕を犠牲にして、向きを変える。

 放たれた魔法は誰も殺さずに、壁に衝突して消える。


「エターナ……今の音、なに? なにを……」

「左腕まで犠牲にしてその少女を救うか」

「左腕……? エターナ、また、腕を……!」


 傷口から血を流しながら、エターナは俯き、肩を上下させる。

 額には汗が浮かび、苦しげに顔をしかめる。

 だがやはり、後悔はなかった。

 胸を満たすのは、インクを守れたという達成感。

 正しい行いをした、その確信がエターナにはあった。


「だが、無駄なあがきだな。その一撃を止めたところでなんの意味がある?」

「意味なら、ある」

「ほう、聞かせてもらおうか」


 彼女は顔を上げ、なおも変わらぬ闘志を抱き、敵を見据えた。


「実験は完了した、これでお前を殺せる」

「虚勢だな」


 笑うディード。

 だがエターナの表情は変わらない。

 勝利への道筋はもう見えているのだ。

 絶対的な自信をもって、その魔法を発動させる。


「ブラッドトランス」


 腕から流れる血が――ぐにゃりと形を変えた。

 それはすぐさまエターナの腕となり、自由に動かせるようになる。


「血を……っ!? まさか、流れている血は体外・・ではないと? そうか、さっきの攻撃をそらしたのも、体を犠牲にしただけではなく、体内の魔力を使ってっ!」


 そう、まさに実験だった。

 体内ならば、血ならば、封魔の影響を受けないのではないか――それを確かめるために、彼女は左腕を犠牲にしたのだ。

 普通、生身の人間に、あれほどの威力をもった魔法の向きをそらすことなど不可能なのだから。

 そして、それが可能ならば――まだできることは、いくらでもある。


「――フェイタルアクション」


 ディードの視界からエターナの姿が消えた。

 直後、彼のに強烈な痛みが走る。


「ぎいぃっ……!?」


 思わず押さえると、そこに耳はなかった。

 引きちぎられていたのだ。


「貴様……その動きは……っ!?」


 振り返るディード。

 そこにエターナは立っていた。

 “フェイタルアクション”なる魔法の発動後、目に留まらぬ速度で彼の耳を引きちぎり、背後を取ったのだ。


「魔法を封じられた状態で、どうやってそのスピードを!」

「人間の肉体は、半分以上が水分でできている。それを魔力によって操ることで、限界など、いくらでも越えられる」

「滅茶苦茶だ! そのような行為、人の肉体で耐えられるはずがない!」

「耐える必要はない」


 地面を蹴る瞬間、足の骨が砕けた。

 速度に耐えきれず筋肉がちぎれ、内出血を起こして足回りがまるで魔族のように真っ青に染まる。

 両腕も、魔力による支えがなければ動かせないほど、骨も筋肉も無残に破壊されていた。


「死にさえしなければ、どうとでもなる」


 想像を絶する苦痛がある。

 だが、それを塗りつぶす使命感がある。

 エターナは再び地面を蹴って、今度はディードの腹部に拳を叩き込んだ。

 その打撃の威力はすさまじく、彼を吹き飛ばすのではなく、腹部を貫通し、背中まで突き通す。


「ぐ……ぼぉっ……!」


 反撃しようと手をばたつかせるディードだったが、魔法は発動しなかった。


「お前にはもう、封魔の力は使えない」

「ぎざ、ま……ピアス、に、気づいて……!」

「これでも、頭はいいほうだから」

「がひゅっ!?」


 腹から腕を引き抜くと、今度は蹴りがディードの顔面を強襲する。

 浮き上がった体では避けきれず、彼の体は壁に向かって吹き飛んでいく。


「封魔を……解除しろぉッ!」


 そう指示を出すと、オリジンから発せられる封魔の効果は消失した。

 そしてディードは衝突直前、壁と自らの間に闇の魔法でクッションを作り出す。

 しかし彼に一息つく暇などない。

 すぐにエターナが近づき、彼に向かって拳を繰り出す。


「お、おぉおおっ!」


 腹に穴をあけられ朦朧とする意識。

 その中で、生存本能が必死に彼の体を動かす。

 ギリギリで回避すると、その手を前にかざし、魔法を発動――


「アクアテンタクルス」

「しまっ――」


 封魔を解除したのだ、当然エターナも魔法が使える。

 そして単純な力のぶつかり合いにおいて、彼女がディードに負ける道理はない。

 水の触手がその体を絡め取ると、遠心力を利用して、全力で壁に叩きつける。


「がっ、はぁっ!」


 幸いなことに・・・・・・、魔族の体は人より丈夫だ。

 一度壁に叩きつけられた程度では、死んだりはしない。

 エターナは何度も何度も彼の体を壁にぶつけた。

 先ほどまでのやられた恨みを晴らすように。


「お前は醜い。どうしようもない醜い。リーダーだかなんだか知らないけど、自分だけは化物にならず、こんな地下遺跡で自分より力の無いインクをさらって悦に浸って!」

「ぎゃっ、ふがっ、ごひゅっ! もう、ひゃめっ! ひぎゃあぁっ!」

「なにがオリジンの復活だ、なにが神の血脈だ! そんもの関係なしにお前はクズだ、ただのクズだ、だから他人から否定されて、こんなものに頼るしかなかった!」

「ぐぎいぃっ! もうっ、しぬっ……じぬがっ……がひっ、ひいぃっ!」


 嬉しいことに・・・・・・、ディードはまだ死なない。

 けれどさすがに飽きてきた。

 こいつが生きているだけで世界がとても汚れているように思える。

 そろそろ、終わりにしなければならない。


 水の触手はディードを壁に叩きつけるのをやめ、エターナの斜め上でぴたりと止まった。

 ボロ布のようになった彼からは、もはや抵抗の意志は感じられない。

 というより、放っておいてもそのうち死ぬだろう。

 だから、彼女はその手でとどめを刺すことに決めた。


「あ……あ……や、やめ……謝る、謝るから……しにたく、ない……やめっ……」

「アクアブラスタァァァァ……」

「ひゃめっ、おねがいしまふっ、私はっ、じにだぐっ……!」

「イクシードイリーガルッ!」


 ゴオォォォオオッ!

 コンシリア全域を水浸しにするほどの膨大な水量が圧縮され、加速し、エターナの手から放たれる。

 それはキリルの“ブラスター”を模した、破壊力に特化した水魔法だ。

 ただでさえ高い威力に、超越呪文イクシードイリーガルまで重ねたとなれば、完全なオーバーキルだ。

 もはやディードは跡形も残らず吹き飛んでしまったに違いない。

 地下遺跡の壁には大穴が開き、外まで繋がって、遠くに陽の光が見えている。

 幸運にも、その先はコンシリアの外だった。

 とはいえあれだけ大量の水が噴き出してくれば、大騒ぎになっているに違いない。


 戦いを終えたエターナは、ふらふらとインクに近づいていく。

 魔力も、体力も、すでに限界を越えていた。

 気持ちが切れると、一気にその反動がやってくる。

 歩けるのも奇跡的なほどの疲労感。

 彼女はそのまま、インクを押し倒すように倒れ込んだ。


「エ、エターナ? 大丈夫? 生きてる?」

「心臓がちゃんと動いてるなら大丈夫」

「でも、その傷じゃ……」

「すぐに助けが来る」

「腕、が……」

「すぐに治せば生えてくるから平気」

「あたしの、せいで……」


 エターナの水でできた手のひらが、インクの頭をぺちんと叩いた。

 ほとんど力は籠もっていないので痛くはないが、心には響く。


「全てはわたしが望んだことだと言ったはず」

「でも……エターナは、あたしのこと、煩わしいと思ってるんだよね? 嫌いになっちゃったんだよね?」

「……ごめん、それは嘘。というか、嫌いな人に、ここまではできない」

「じゃあ、どうして?」


 理由がなんであろうと、インクを傷つけた自分の罪は消えない。

 だからこれは、言い訳ではなく、一つの事実として、正直な気持ちをエターナは吐き出す。


「好きだから」


 まず、それが一番だった。

 四年前よりずっと、彼女を想う気持ちは深くなっている。


「好きすぎて、インクには幸せになってほしいと思って、でも……そのためには、わたし以外の誰かと一緒になるのが一番いいと思ったから」

「エターナ以外に、あたしのこと幸せにできる人なんていないよ」

「それは、わからない。インクの世界はまだ狭いから。もっと、広い世界を、見て……」


 そのために学園に向かわせる準備もしていた。

 世界は広い。

 インクが触れたことのないもの、見たことのない光景がいくつも広がっている。

 そういうのを見ていけば、いつか――


「だけど……わたしは……」


 ――そこで、エターナは一つの事実に気づく。

 怖かったのは、自分ではインクを世界で一番幸せにはできない……そう思っていたから。

 だけ、ではないのかもしれない。

 別にも怖いものがあった。

 関係の破綻だ。

 今の保護者という立場なら、よほどのことがない限り、インクと他人になることはない。

 しかし恋には終わりがある。

 壊れてしまえば、以前と同じような関係に戻ることは不可能だ。

 それが――なによりも、怖い。


「そっか……わたし、は……」


 けれど普通の保護者は、そんな不安は抱かない。

 そんな可能性を考えてしまう時点で、エターナの心はすでに――


「インク」

「……なに?」

「ごめん」


 エターナはインクの頬に触れた。

 なんて身勝手なんだ。

 だけど、意識を失う前に、それだけは伝えておきたいと思った。

 だから、言葉よりも手っ取り早い方法を選ぶ。


「なにがごめんなの? 謝るのはあたしのほ――ん?」


 重ねられる、柔らかくて暖かくてドキドキする感触。

 触れてはいないけど、近すぎて、肌に相手の体温を感じる。

 吐息の音が聞こえる。

 心音が、ユニゾンする。


「は、ふぅ……」


 唇を離すと、エターナはそのまま意識を手放した。


「エターナ……今のって……えっ? あの、えっと、キ、キス……っ? ねえ、エターナ、今の唇だよね? どうしてっ、エターナ、エターナっ!?」


 戸惑うインクだけが、その場に残される。

 彼女はそのまま、ネイガスたちが助けに来るまで混乱し続けるのだった。





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