第94話 出られる競技とは
「あ、それ良い……楓さん凄い! 天才! お兄ちゃんとは比べ物にならないよ!」
恵美は驚き、拍手した。
「えへへ、そうかな?」
楓は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「…………」
俺は二人の様子をただ見ていた。恵美の驚き方の大仰さに、少し呆れていた。
「あ……お兄ちゃん。やっぱり理解していないでしょ?」
恵美は怪訝そうに俺を見た。
「は? いや、俺達が保護動物と一緒に賞を取ったら、この施設に箔がつく……って、そう言う意味じゃないのか?」
「もう……こう言う時だけ頭の回転が悪いとか、やっぱ天然なのかな……。あのね、今楓さんが言ったのは……」
恵美は俺に説明した。
現在ペットの賞と言えば、キャットショーやドッグショーなどの見た目の美しさを競う物と、アジリティーやフライングディスクやフライボールに挙げられる、運動能力の素晴らしさを競う物の二つにわけられる。そしてそれぞれは、人間と動物達の協力の元に発揮される。それならば……
『保護動物でも賞が取れる』
となったらどうだろう? これが楓の言いたかった事。つまり、保護動物の地位を底上げすることが出来るのではないか? という事だ。
今現在、ペットショップで動物を購入する人たちが言う、ペットショップで動物を購入する理由は沢山ある。そしてその中の一つが「質が悪いと感じるから」だ。
そしてこの「質が悪い」にはいくつかの種類がある。
◇毛並みが悪い
それは個体差であり、育て方でもある。と言うか、それが仮に柴犬らしさが欲しいという意味であれば、俺達に勝てる隙はない。似た子はいるんだけどな……。
◇一度捨てられた子は懐かなそう(頭が悪そうだったり、怖そう)
これはトラウマに関する部分が大きい。それは保護団体に問題があるか、よほどのことをされて完全に人間が信用できなくなってしまった動物のみ。それを否定できない。だが、うちでは今まで人に懐かなかった子は居ない。頭が悪い子なんてまず居ない。と言うか、俺は「この子は頭が悪い」と思える動物に会った事がない。人間のように何かを計算させたりする訳じゃないのだから……。それこそ頭がいいと言われている子たちは、どちらかと言えば「人間を信頼し、従っているからそう見える」と言うだけだ。動物たちの個体差で、それ程頭の良さが違うわけじゃない。
◇動物保護団体に断られた。もしくは嫌な思いをさせられた。
これは論外だ……。昨今、動物保護団体が増えている。そして、その対応はまちまちだ。そもそもそこにはルールというものがない。中には動物に良かれと思い、譲渡直前まで話が進んだ独身者が居たのに、所帯持ちからの申し込みがあってその独身者を断り、さらにその所帯持ちからキャンセルされ、「やっぱりどうですか?」と独身者に聞いた団体が居たそうだ……。「それって、保護動物の立場で考えすぎて、『人間という動物』をおざなりにしてるんじゃないか?」と言ってやりたい。動物保護、ことペットの保護に関しては、動物だけを考えていてはダメで、人間と動物という両方の考え方ができなければ成り立たない。ペット保護とはそれ程に難しいのだ。「やってみる」なんて思いで出来るものではない。
動物保護団体の話でちょっと脱線したが……。
これらの問題を打ち消すための方法として、「違いますよ」と声高々と言うのではなく、示してやればいい。保護動物が、それら血統書付きのペットたちの上を行く能力があるのだと、データとして残ればいい。
そしてその方法が「賞を取る」なのだ。
一つ、はっきりと断っておくが、血統書付きが悪いわけでもなければ、ペットショップで買うことが悪いわけでもない。そこは勘違いしないで欲しい。詳しくは第58話〜第59話を読んでくれ。だからこそ、俺達が賞を取って「出来ることを示そう」と言う事なのだ。
「なるほどな……でも、ショー関係は難しくないか?」
俺は楓を見た。
「そうなんだよねぇ……。雑種のクラスとか出来ないかな?」
楓は俺を見た。
「まぁ、仮に出来たとして……それは一体何を審査するんだ?」
何しろショーでは犬種標準と言う、その犬種らしさを競う。例えば柴犬なら、柴犬らしさを競う。だから、犬種が証明できない保護犬には出場資格すらクリアーできない……。
「あ、そっか……審査基準が無くなっちゃうか」
「ああ。だからそもそもショーには出られない」
「だね」
「え、なになに? 何が問題なの?」
恵美は俺に聞いた。
「ドッグショーやキャットショーってのは、その種類らしさを競うものだ。だから、雑種というクラス自体がない」
「あ、そうなんだ……」
「ああ。じゃ、保護動物が出られる競技って、どんな競技があるんだ?」
俺は恵美に応えると、楓を見た。
「うん、調べてみよっか?」
楓はノートパソコンを持ってきて調べ始めた。
「まず、ドッグショーはダメで……あ、これ良くない?」
「IPO? なんだそれ?」
「警察犬訓練みたいなやつだよ」
「ああ、それならできるな」
「出来るの!?」
恵美は俺を見た。
「ああ、多分出来る。他には?」
「あとは……訓練競技会。って、これはもっと簡単なやつだね」
「じゃ、出来る。雑種でも良いのか?」
「あれ……?」
楓の手が止まった。
「どうした?」
「特別犬の部って言うのがある。なになに……非公認犬種・非公認団体登録犬。交雑犬が出場できる……何この書き方……」
「え、そこ以外には雑種は出場できないのか?」
「なんか、そもそも協会に加入していない犬はダメっぽいね……あ、IPOもダメだ……」
「なんでだ……?」
「元々この協会、犬種を管理するところでさ。しかもそこが主催でこういうショーとか競技会を行っているんだよ……」
「じゃ、この協会のものは出られないと?」
「出られたとしても、こういう特殊枠になっちゃうかも……」
「この協会の主催しているもの以外の競技会はないのか?」
「あったとしても、それこそ権威がないよ」
「賞をとっても意味が無いと?」
「無くはない。ただ、一般的には感心されない。と言うか、証明にならないよ」
「なるほど……。じゃダメか……」
権威のあるものには、犬種がつきまとう……。それこそ雑種には参加すら許されないのか。人の世だけじゃなく、動物の世も世知辛いんだな……まぁ、人の世の中の動物だから、厳密には人の世なんだけど……。
「うーん……いいアイディアだと思ったんだけどなぁ……」
「ですよね……」
楓と恵美は顔を見合わせた。
「あれ? この看板、
パソコンを一緒に眺めていたアリシアは、競技会の写真に写っている協賛企業の写真を指差した。因みに来海とは、小玉さんの名前だ。
「あ……そうだ、忘れてた!」
「そうだね! 相談してみよっか!?」
「ああ、そうしよう!」
「え……何? 誰に……?」
俺達がアリシアのお陰で光明が見え始めた頃、恵美は訳が分からず呆けていた。
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