天は二物を与えず(仮)

Kuu

第1章 プロローグ

第1話 プロローグ


『ようこそ。私は魂管理システム「ルシア」です』

「…………」

『あなたは、これより第六千六百六十六万六千六百六十六回目の魂パラメーター設定を行います』

「魂……パラメーター? ってか、六千六百六十六万六千六百六十六回目!?」

『はい』

「いや、『はい』って言われても……」

『ご安心ください。これよりご説明いたします』

「そ……そうですか」

『はい』


 俺は真っ白で何もない、だだっ広い空間に居た。いや、居たという表現もどうなのかと思う。なにしろ


「あの……」

『はい』

「自分が見えないんですけど……」


 見えない……と言う言い方すら、合っているのかわからない。「自分を見ようとしても何もない」と言った方が良いだろうか? 上を見たり、下を見たり、ルシアさんを見たり、周囲を見渡したりすることは出来る。だが、自分を見ることが出来ない。見えるのは目の前のルシアと名乗る神々しい光のかたまりと、その後ろにある神殿というか、王の間というか……そんな感じの大きな三角形の壁の前に、ちょこんと置かれている玉座。その前にふわふわと浮かんでいるルシアさんだけだった。


『はい。それでは最初に、現在の状況をご説明いたします」

「……お願いします……」

『あなたは前世を終え、現在、魂の間に居ます』

「前世を終え……? ……あ! 俺、死んだんだ……」

 薄っすらと記憶がよみがえった。俺はさっき死んだ。

『はい。あなたは第六千六百六十六万六千六百六十五回目の一生を終え、ここに来ました』

「……ここは?」

『魂の間です』

 あ、さっき聞いたか。

「……あなたは?」

『ルシアです』

「……いえ、俺は何者で、あなたは何者なんですか?」

『あなたはこの世に存在する、あまたの生命の中の一個体です。私は「ルシア」、魂管理システムです』

 なんか余計に混乱してきたぞ……。

「……すみません……先に説明をお願いしてもいいですか?」

『はい。それではご説明いたします。この世には数え切れないほどの多くの生命が存在します。それは人、動物、虫、菌類に至るまでのすべての生命という意味です』

 ルシアさんは語り始めた。


 長いので要約しよう。かいつまんで話すとこんな感じだ。

・全ての生命は何度も転生を繰り返す。

・何に生まれ変わるのか選ぶことは出来ず、自動的に選ばれる。

・それぞれの生物にはランク付けがあり、前世で成果を上げた個体はそのランクが上がり、更に上の生物に生まれ変わることが出来る。

・現在の生物の最上位は「人間」であり、現在俺はその最上位の「人間」として、六回の転生を繰り返している。


「ってことは……俺は、六千六百六十六万六千六百六十回までは、人間じゃなかったと?」

『はい。あなたは長い年月をかけて、人間になりました』

「ちょ、ちょっと待って下さい。ってことは……そこまで時間をかけずに人間になった個体も多い……って事ですよね?」

『はい。そういう個体もあります』

「どんだけ低能なんだ……俺……」

 六千六百六十六万六千六百六十回も転生を繰り返して、ようやく学んだ。人間になれた。それはどう考えても有能ではない。

『いいえ。落胆すべきことではありません』

「どういう意味ですか?」

『一度人間になったとしても、次の転生も人間になれるわけではありません。それでは人間ばかりが増えすぎてしまい、この世界が崩壊してしまいます』

「……人間を維持できているってことは、凄いんですか?」

『多くはありません。現在、連続して人間を続けられている個体の最高値は十二回です』

「それって……人間失格……って事ですか?」

『はい。個体のランクはこれまでの履歴、直前の功績を元に常に変化します。この変化によって、上位七十億が人間となり、その中の一億が日本人となるのです』

「あ……俺、日本人だったっけか」

 言われてみれば、俺の前世は日本人だった。でも名前とか、どんな一生だったのかが思い出せない。

『あなたは現在、上位一パーセントに満たない高位にあります。自信を持ってください』

「そ、そうなんですか……」

『はい。もう時間がありません。それでは次の一生の魂パラメーターを設定してください』

「えっと……それって何ですか?」

『次の一生をより良きものとするため、自分で設定できる、魂のパラメーターです。魂ポイントは十ポイントあります。それを寿命、健康、知力、経済力、職業、運に割り振ることが出来ます』

 運命は、ポイント制だった。

「それ、毎回やるんですか?」

『はい』

「あの……これまで。六千六百六十六万六千六百六十五回やって来たってことですか?」

『はい』

「じゃ、その履歴、どのパラメーターを選んだら、どうなったかというのを教えてください」

『できません』

「……何故ですか?」

『全ての転生は、知識によって選択するものではありません』

「じゃ、どうやって選んだら……」

『勘です』

「勘……!?」

『言い換えると、魂に刻まれた経験によって選ばれるものです』

「魂に刻まれた、経験?」

『はい。それが勘と呼ばれるものです』

「そ、そうなんですか……?」

 何故だろう……嘘っぽく感じてしまう……。

『はい。それでは、魂パラメーターを選択してください』

「…………」

 俺は考えた。


「あの……『運』ってパラメーター、とってもチートっぽいんですけど……」

『はい。ですので、運にパラメーターを与えるほどその他のパラメーターが全て下がります』

「下がる……。じゃ、その十ポイント全てを運につぎ込んだら、どうなるんですか?」

『運以外のパラメーターがマイナスになります』

「マイナス……。あ、それから。転生後の生活の中で、それらのパラメーターって変化するものなんですか?」

『はい、常に変化します。行動、言動、思考、その他の要素によって複雑に絡みあい、最終的にはその個体が何を選択したかによって、魂パラメーターとは違った特性を得ることもあります』

「じゃ、これが人生の全てではないと?」

『はい。魂パラメーターが一生に与える影響は少なくありませんが、生活に伴う努力こそが、全てを左右します』

 努力……なんか一気に俗っぽくなってきた……。

「……よし、決めた! 全部のポイントを『運』にあてます」

『わかりました。それから今回から、あなたには補助がつきます』

「……補助?」

『はい』

 そう言うと、ルシアさんは強く光り始めた。


『それでは、良い一生を』


 ルシアさんの光がどんどん強くなり、そのまま視界が真っ白になって何も見えなくなる中、ルシアさんの声だけが響いていた。そんな「よい旅を」みたいな軽いセリフで、俺は現世に送り出された。


 ──


 こうして俺の、六千六百六十六万六千六百六十六回目の新たな生活が始まった。


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