花飾り

カゲトモ

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「おー、おめでとう!」

「えへへ、ありがと」

 堀川さんお気に入りのファジーネーブルが満ちたグラスで乾杯。もちろん俺の分は薄目のウイスキーの水割りだ。

「これで大人の仲間入りだね」

「まぁ、もう二十歳にはなってたけどね」

 ニシシ、と笑う彼女はいつもと違ってメイクが濃い目だ。いや、いつもが薄すぎるのかも。だっていつもはほぼすっぴんだし。

髪はちょっと見ない間に金髪のツーブロックになっている。その髪型がまた堀川さんには良く似合う。

頬のそばかすや表情は幼くて可愛いのに、格好いい。その絶妙なバランスが“堀川さん”って感じがする。

「成人式では振袖着たの?」

 今日は成人の日。この連休は全国で成人式が行われているが、堀川さんの地域では昨日あったらしく、今日はお世話になった人に報告しに回っているらしい。

 堀川さんは酒を卸してもらっている酒屋でバイトをしていた、頑張り屋の歌手の卵だ。

「振袖? まぁ、一応、ね」

「写真あるの? 見せて」

「えー」

 普通、晴れ着姿の写真なら照れつつも喜んで見せるもんだと思っていたけど、普通に嫌そうだ。

「いいじゃん。あるなら見せてよ」

「んー」

 堀川さんは口を歪ませつつ悩む。

 えー、そんなに嫌なの。きっとみんなに見せてるんだろうし、良いじゃないの。

「笑わない?」

「笑わない」

「絶対だからね」

 なに俺そんなひどい奴だと思われてるの?

 しぶしぶ、といった様子でスマホを操作してこちらに寄越した。長方形の中には華やかな黄色の晴れ着姿の女性。

 この写真のどこが嫌なの?

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