人間判定
髭鯨
第1話 判定開始
「こんにちは、ユーリ」
声が聞こえた。透き通っていて、とても優しい声。
「聞こえますか、ユーリ」
「……ん」
うまく口を動かせず、力ない声が漏れた。目も開けられないのか、あたりは真っ暗で何も見えなかった。ただ、その優しい声のおかげで、不思議と不安はなかった。
「聞こえていますね、ユーリ」
ユーリ、僕の名だ。それで……えっと……何が起きているんだっけ。
「あなたは……誰ですか?」
「私はアルファ。メトロポリス・アルファの管理者です」
「メトロポリス・アルファ?」
聞き覚えがない単語に思わずオウム返しをする。
「メトロポリス・アルファは内部で一千万人が暮らす巨大生活コミュニティです。今日はこのメトロポリス・アルファのことでお手伝いをお願いしたくて、ユーリに来ていただきました」
「お手伝い……ですか」
「はい。このメトロポリス・アルファでは、生活環境リソースの維持、サステイナビリティ向上の一環で、五年ごとに内部の住民の資格判定を行っています。この判定の一部を、ユーリ、あなたにお願いしたいのです」
なんだか、難しい言葉が出てきてよくわからない。
「つまり……僕は何をすればいいんですか?」
「とても簡単なことです。これから私がここの住民の何人かの映像を見せ、その住民の詳細についてお伝えします。それをもとに、それぞれの住民が
人間か
人間ではないか
の判定を行ってください」
……人間かどうかの判定だって? 内容もさることながら、それを簡単なこと、と言われて思わずぎょっとする。口調にも悪意は微塵も感じられなくて、逆に不安にさせられた。
「ちょ、ちょっとまってください! もし人間じゃないって判定されたらどうなるんですか?」
「はい、例えば、人間と判定されればこのメトロポリス・アルファでの住民権が認められ、水道や食料、電力の提供など様々な福祉サービスを受けることができます。残念ながら、人間ではないと判定された場合はそれが受けられません」
「それってとても重要なことなんじゃないですか? そんなことを決めるだなんて、僕にはとても無理ですよ……」
「大丈夫ですよ、ユーリ。判定は難しいものではありません。単純にその対象者が人間かを『はい』、『いいえ』で回答してもらうだけで結構です。こちらから理由を問うこともありません。それに、判定はユーリだけではなく、他にも数えきれないほどの協力者と行っています。その多数の判定結果をもとに、最終的には私、アルファが責任をもって判断しますので、あなた一人の判定が与える影響は全体の中でほんのわずかでしかありません。あまり深刻に考えずに、リラックスしてやってみてください」
ゆっくりと諭すような声だったけれど、どこか有無を言わせない雰囲気でもあった。確かに、内容を見ずに言ってしまえば、やることは二択だ。それに、一千万人もの規模のコミュニティの管理っていうのも、きっととても大変なことなのだろう。協力を断るというのもなんだか申し訳ない気にもなってくる。
「う、うん……わかりました。それならやってみることにします」
「ありがとう、ユーリ。あなたの協力に感謝します」
お礼の言葉。口調はそれまでと変わらなかったけど、どこか喜んでいる様にも聞こえて、僕も少し嬉しくなった。
「それでは早速ですが、判定をお願いします。ユーリに判定をお願いする対象は全部で六名。これから対象の住民の映像を一名ずつお見せします。あわせて私から名前や特徴を説明しますのでよく聞いていてくださいね」
どういう仕組みなのだろう、その言葉が終わるや否や、真っ暗な中に四角くて白いディスプレイが魔法のように現れた。その真ん中に、だんだんと人の姿が浮かび上がってくる。
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