第30話 塔のうえ
まるい部屋は石を積んだ壁でできている。窓がひとつ。鍵のかかっている扉ひとつ。あとは乱雑に積んであるダンボール箱が、天井につきそうなほど部屋いっぱいに放置されている。
なにもはまっていない窓から外を見おろして、息を吐いた。ほんとうにここは窮屈で苦しくてたまらない。
自分が入れられているここは塔の上のようだ。それもかなり高くそびえ立っている。鳥さえ窓より低いところを飛んでいた。窓から見える木々の生い茂る緑も、かなり遠い。いや、丘の上かもしれない。ともかく、ここから飛びおりたところで命はないことはわかる。
壁にもたれて座り込んだ。鎖がちゃりちゃりと鳴る。膝を抱えると、裾から素足が見えた。左足首には鉄の足輪がはめられている。細い割にしっかりした鎖で、壁の一箇所に留められている。室内を歩くにはじゅうぶんな長さだが、それがより気を重くさせる。
籠の鳥でも鎖なんか使わないのに。わざわざつなぎ止めなくともあの高さから飛び降りる気はない。
窮屈さが増すダンボールを蹴った。空の箱は軽い音を立てて崩れた。
解錠の音がして、彼が入ってきた。
自分と同じくらいの彼は状況を見て悲しそうなため息をついたあと、気を取り直したように、今持ってきたダンボール箱を置いた。
「さあ。今度は……」
「いらない」
箱のなかを見る前に断る。ご機嫌を伺う贈り物なんかいらない。
彼はすこしムッとした。
「あれもこれもすべてキミのために持ってきたのに! 思っていたよりキミはワガママだよ。そこは自覚してるの?」
ワガママはそっちだろう。と抗議したいが今までなにを言っても無駄だったので(結果がこのダンボールだ)黙って目を反らした。顔も見たくない。
しばらくして彼が口を開いた。
「じゃあ聞くけど、キミはいったいなにがほしいんだ?」
「……これ、外して」
鎖を見せると、彼は青ざめうろたえた。
「それはダメだ!! 絶対にダメだ!! キミは出てはいけない! ここから出てはいけないんだ!」
「そうなんだ…?」
「何度も言っただろ。キミはここにいるのがキミにとって一番いいんだ。だからこれは、ね?」
思いが通じないまま彼と一緒に違う息を吐いた。
ここで目が覚めた。
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