第29話 奪還

 大勢の顔の知らない友達と邸宅へ行った。

 邸宅の女主人は自分の旧友の知り合いで、旧友の名を出すとすぐに招き入れてくれた。

 姿を見せたのは、細身でこれといった特徴のない顔を持った女性だ。

 客間に座った自分たちと他愛もない話が交わされ、お茶を振舞われる。旧友もこのように話していたそうだ。

 ほどなく、思いついたように女主人が中座した。

 今だ。

 目配せするなり、全員で客間を一斉探査しはじめる。

 自分たちの目的は女主人ではなく、奪われた旧友の「ココロ」を取り返すこと。客間のどこかに隠されている「ココロ」を解放し、人形のようになった旧友を元に戻すのだ。

‘あった’

 ひとりが見つけた。

 引き出しの奥からジュエリーボックスを取り出す。

‘はやくはやく’‘開けて’‘自由にするんだ’

 蓋を開けると、旧友の「ココロ」は開けられた窓からまっすぐ外へ飛び出した。

 よし。

 ジュエリーボックスを元に戻すと、気づかれないうちに自分たちも窓から邸宅を出た。


 ここで目が覚めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る