第10話 宝玉
旅の途中で、通りすがる予定の村だった。
路地を歩いてる間にたくさんの罵声と泣き声…嘆きを耳にしたので、何事だと立ち寄ったのがきっかけだった。
人々の話によると、村の生命に関わる状況に陥っているらしい。運良く解決できる手段はあるが、そのために村の宝を差し出さねばならないそうだ。村人の総意で宝を差し出すことに決まったはいいが、村の誰もが二の足を踏んでいた。
その宝はとても危険な場所にあり、取りに行っても無事で済むかどうかわからないというのだ。「あんな恐ろしい場所」と言うからには、恐ろしい場所なのだろう。
村人達は困っていた。
誰かに行けとは言えるわけがなく、自分が行くなんてもってのほかだ。
じゃあいっそ宝を差し出すのはやめるかといえば、そうもいかない。
宝を出さねば全員死ぬのは目に見えているからだ。
誰かひとりが犠牲になれば済む話だ。
そのひとりになりたい者などいるものか。
罵声が飛び交い、泣きわめく村人達。それを途方に暮れ多様に見つめる村長。
なんだか気の毒になってきた。通りすがりの自分が話を聞いたのも縁だろう。
「じゃあ自分が行こうか?」
村中からすごく感謝された。
宝というものは隠された洞窟の奥にあるらしい。案内されるがまま美しい鍾乳洞をくぐっていくと、ひらけた空間に出た。あそこです、と指された場所は深い崖のはるか下にある、それまた美しく澄んだ湖の底。
立ち止まった村長が、おずおずと言った。
「湖に沈む宝玉を取ってこちらへ放り投げてください。それで」
「はいよ。聞くけど、潜って取ってくるだけなのに、なんで誰もしないわけ」
「あの湖はこの世でも数少ない神聖な場所です。神聖すぎて生き物はなにも住んでいません」
「エビとかくらいいるでしょ」
「いいえ。生き物はなにも」
自分の頬がひきつった。
毒の水たまりってことか。それも水面はかなり下だ。切り立った崖にはつかまって登ることもできなさそうだが、飛び込んだあとはどうやってここに戻ればいいんだ? 誰も綱らしい物を持っていない。
「村長よう。聞くけど、球を取って、こっちに放り投げるって言ったよな。手に持って、こう持ち帰るんじゃなく。その理由はなんだよ」
村長は表情を変えずに言った。
「村のしきたりで、命綱を使ってはいけないのです。道具を使うことで宝はその価値を失います」
なるほど、人身御供か。ま。いいけど。
不安そうな村長たちに「断る気は無えよ」と言って崖の先に向かった。
さあ宝を取りに行こうか。
飛び込む直前に目が覚めた。澄んだ美しい水面だった。
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