第2話 『糸』って不思議だ
「私は調査に行ってくる、お前はどうするんだ?」
「あ?俺か?俺は・・・お前が証拠見つけてくるまで待ってる、ここで」
「分かった、じゃあ武器の手入れの続きでもしてろ。」
「うぇーい」
依頼が持ち込まれたの日の正午、情報収集のプロ。
リン・ドウは動き出したのであった。
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辺境伯邸――リン・ドウ視点
まずはハヤシ・ダ坊っちゃまとやらを見つけるところから始めなければいけない。
依頼者の話によると今夜はには必ず見つかるが、私はプロだ、人を1人見つけることなんて容易い。
それに今日の夜までに決定的な証拠を掴んでしまえば1日でかたがつく。
辺境伯邸の門の前に立ちここら一体を監視できる場所を探す・・・あった、門の目の前の丘。そこに生えている木に登れば辺境伯邸を一望出来るだろう。
「夜はあそこで動きがあるか監視しよう。もっとも、あそこを使うまで時間を使いたくはないのだけど・・・」
門の前から丘の下見に動こうとした時ちょうどこちらに向かって馬車がきた、恐らく辺境伯様だろう。
早足に近場の建物の物陰に隠れる。
馬車から出てきたのは小太りな中年の男性、彼が辺境伯様だろう。
スキル『
糸の色を見れば隠し事をしているか分かるからだ。
目を例の辺境伯へとむける。糸の色は紫だ、紫は何かを気にかけている時の色だ、恐らく自分の息子の事だろう。ふと辺境伯と話している召使いらしき男に目をむける、真っ赤。男の糸は真っ赤だった。
赤、それは憤怒や激情を意味する色。怒りの矛先はほぼ確実に辺境伯へ向いている。
しばらく見ていると男の糸は真っ黒へと変わった。
瞬間に私は駆け出す、男は手を懐に入れキラリと光る何かを取り出す。ナイフだ。
私の全力疾走は虚しく辺境伯は男に刺されてしまった、当然だ。黒は殺意を意味する。
何故赤色である時に止めに入らなかったのか、激しい怒りが殺意へ変わる所を何度も見てきたのに私は男の犯行を許してしまったのだ。
「くそっ!調査の前に依頼者が死んでしまっては元も子もないのに、私としたことが・・・」
男は取り押さえられ連れていかれる、その間に辺境伯は数人の男に抱えられ馬車に乗せられるとまた来た道を戻って行った、病院へ向かったのだろう。
これで今夜の食事会は無しになるだろう、せっかくのチャンスを逃してしまったのだ。
「仕方ない、ハヤシ・ダ坊っちゃまの屋敷に行って見るか。」
直接調査対象の家に行くのはあまり好ましくない、なぜならもし見つかった時、対象が警戒して動かなくなるからだ。
が、今となってはそうも言っていられない。不本意ではあるが今回に関しては致し方ないとしか言いようがないだろう。
私はハヤシ・ダ坊っちゃま邸へと足を向けた。
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ハヤシ・ダ坊っちゃま邸――リン・ドウ視点
ここは最悪の立地だ、来てみて最初の感想がこれだ。なぜなら周りに監視できそうな高台がひとつもないからだ。
幸い坊っちゃまは中に居るようだが中に籠っていられたのでは手のつけようがない。
「どうする?・・・あ」
周りをもう1度見渡すとあることに気がついた、一軒だけ廃墟があったのだ。結局は不法侵入になってしまうが監視できるのであればそんなことはどうでもいい。
早速壊れかけのドアを開けて中に入る。
床は軋みところどころ雨漏りをしたあとがあったが2階に上がる上がると何故か床は綺麗だった。
だが、どっちしろ生活感はないので人は住んでいないだろう。それならば綺麗なことに越したことはない。
屋敷側の割れた窓に近づくと除くことの出来ない部屋もあるが道路側の部屋はほとんど見ることができた。
不意に人影が横切ったのは寝室であろう部屋、そこをじっと見つめていると先程刺された辺境伯によく似た人物が現れた。
しかし辺境伯にはなかった髪の毛がその人物にはあった。恐らく彼が坊っちゃまだ。
スキルを使うと糸の色は灰色だった。灰色、それは嘘、秘密などを意味する色だ、十中八九彼が情報を横流しにしているのは確実だろう、このタイミングで辺境伯が刺されたのは気になるが彼の動き次第で調査は終わりそうだ。
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その日の夜―――リン・ドウ視点
坊っちゃまは夜になるとまるで辺境伯が刺されたことを知っていたかのように馬車に乗り病院とは反対方向へと向かった。
馬車を追いかけて行くと城壁の手前で坊っちゃまが降りるのが見えた、誰かと会うのだろうか。これは決定的な証拠を掴むチャンスだ、坊っちゃまの視界に入らない場所に移動しじっと監視する。
数分後、1人のフードを被った恐らくは男性であろう人間が現れた。坊っちゃまはその男と少し話して急に男に掴みかかった、大声で何かを話しているようだったが聞き取るまでには至らなかった。
フードの男は坊っちゃまを突き飛ばすとはっきりした口調でこういっていた「命令に従え、さもなくばお前は死ぬ」どう言うことなんだ?
坊っちゃまは何か納得行っていないようでその後反論しているようだったがフード男に耳打ちをされたかと思うと先程までの怒りがなかったかのように馬車に乗り屋敷へと帰ってしまった、その間にフードの男はいなくなってしまった。
「今日の調査はここまでか・・・しかしこの依頼は私が思っているより闇が深いのかもしれない。刺された辺境伯、それを知っていたかのような行動をとった坊っちゃま、そしてあのフードの謎の男。私1人で証拠を掴むのは難しいかもしれないな・・・」
こうしてリン・ドウの調査1日目は終了した。
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時間は遡り辺境伯邸へとリン・ドウがたどり着いた頃、ケン・ザキは――――――ケン・ザキ視点
俺が思うにこの依頼はちょっとやそっとじゃ終わらないような気がする、帝国だけの問題らないくらでも解決できそうだが隣国も絡んでいるとなるとそれなりに闇が深そうだ。
リン・ドウ1人で調査しきれるのだろうか?
周りからは犬猿の中なんて言われているが実はリン・ドウと俺は幼馴染なのだ、リン・ドウは昔から疑り深い人間だったし嘘を見抜くことが出来たので彼女が諜報機関へ入ったと聞いた時は当然だと思った。
が、今の彼女は何を焦っているのか全ての依頼において早く終わらせようとする、自分が捜索科のトップであることに責任を感じているのかもしれないが焦っていない時の彼女の実力を知っているからこそ今の彼女を見ると腹が立つ。力があるのにそれをフルに活用しようとしない人間は自分が不幸だと錯覚した奴らばかりだからだ。だが、彼女が何か焦って実力が出せないとなると単純に心配になるので不思議だ。
俺のスキル、『影移動』は影の中を移動できるスキルなのだが子供の頃にかくれんぼをしている時スキルを使い、影に隠れて絶対に見つからないだろうと安心しきっていた、が、簡単に彼女のスキル『透糸』で見つけられたことがある。それが悔しくて俺は暗殺部隊に入ったのだ。
そんな俺のスキルに勝るような彼女が失敗をするとは思わないが・・・大丈夫かな。
意外と心配性なケン・ザキはリン・ドウのことが心配で武器の手入れができないのであった。
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さらに時間は遡り辺境伯の使いが依頼に来ていた時
―――隣国では・・・
「恐らくハヤシ・ダがこちらに情報を横流ししているとバレた。真相が明るみに出る前に辺境伯を潰せ。」
「わかりました」
そう命じられた男は明らかな殺意を持って懐にナイフを忍ばせるのだった。
後に辺境伯の腹を突き破るために・・・
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