異世界探偵事務所!

悟壮司

第1話凸凹コンビ結成!

パラノボルグ、ここは俗に言う異世界だ。

この世界に探偵という職業が持ち込まれたのはもう遠い昔の事だ。帝国メンドーム、ここにも人々の疑いの真相を明らかにするべく建てられた探偵事務所がある。


「はい、みんな集合ー!」


今声をかけたのはタ・ドコロだ。彼はここ、ドコロ探偵事務所の社長であり、現役時代はそれなりに名を馳せた冒険者だった男だ。お気づきだろうが勇者が日本人であったこともあり今のパラノボルグは日本人でいうところの苗字が名前と一緒になっているのだ。


『うぇーい』


ドコロ探偵事務所のもっとうは「ゆるく・楽しく・無理をしない」なので職員のほとんどが気の抜けた人達ばかりなのは見たら分かるだろう。


「今日はドコロ探偵事務所創設1年記念日だよ、だから今日だけは仕事をほったらかして思いっきり騒いじゃっていいよー!」


『うぇーい!』


そう、今日はここドコロ探偵事務所の創設1年記念日だ。

このドコロ探偵事務所は帝国メンドームでも珍しく暗殺科と捜索科があり、暗殺から浮気の調査、犬の捜索まで何でもしますよって所だ。

そう聞けば聞こえはいいがこの事務所は派閥があり、特に暗殺科と捜索科のあいだには軋轢が絶えない。


「ああー、ケンケンとリンリンはちょっと来て」


今呼ばれた二人がこの物語の主人公だ、ケンケンはケン・ザキで、リンリンはリン・ドウだ。

ケン・ザキは暗殺科のトップであり、元王族直属の暗殺部隊に所属していた経験もある男で彼曰く自分の強さはスキルのおかげだと言っているが真相は定かではない。


次にリン・ドウだが、彼女は元国の諜報機関の所長をしていたこともあり頼りになる女番長だ、彼女のスキルは人の『糸』が見えるというもので、その人の今まで犯した罪、性格、考えている事などによって見える色が変わるらしい。


「なんですか社長?」


「何でしょうか社長」


「んーとね、単刀直入に言います。君たちにはこれからタッグを組んでもらいます!」


「「はぁ〜!」」


「なんで俺がこんな人の秘密をばらまくような性格の悪い女とタッグを組まなきゃならないんだ!」


「なんで私がこんな人を殺すことしか脳のない脳筋男とタッグを組まなきゃならないんです!」


「「なんだと、やんのか?」」


「まぁまぁ、内はもともとタッグで行動するのが基本だし、君たち今までずっと単独行動だったじゃん。それに君たちのせいで僕が何であいつらだけ

ってほかの探偵さんにどやされるし・・・」


「だからってわざわざ俺達でタッグを組ませる必要はないだろ!」


「そりゃあ君たちしか単独行動してる人いないんだもん、ほかの職員は全員タッグを組んでるよ」


「うっ・・・」


「マジか・・・」


「マジのマジマジよ、じゃあ仲良くしてね〜」


『ふっざけんな〜!』


こうして創設1年記念日に創設以来初、世界初の超絶凸凹コンビが結成されたのだった。


―――――――――――――――――――――――


「おいおいマジかよ、よりによってこいつかよ」


「それはこっちのセリフだ脳筋」


「うるせぇ、お喋り」


「「なんだと?」」


「「・・・」」


「はぁ、まぁ俺の邪魔にならない程度で頑張れよ」


「なぜ上から目線なんだ、それに私は殺しは好まない。」


「はいはい」


1周年記念で周りはどんちゃん騒ぎ、豪華な料理が出され、おちゃらけた奴らに食いまくってる奴ら、どっちにしろこの上なく楽しい宴会の中、この二人の空間だけは負のオーラが出まくっていて誰も近づけない。

と、そこに二人の男が来た。


「なぁなぁケンさん!今から修行しに行こうぜ!」


「リン・ドウ様、どうか私に情報収集の極意をご教授してください。」


ケン・ザキに話しかけたのが暗殺科でケン・ザキの次に注目されている新人のセ・ナミだ、彼は身長も低く力もあまり持たないが素早さにかけてはケン・ザキにも劣らない実力者だ。

もう1人、リン・ドウに話しかけたのは捜索科のマツ・オだ。彼はこの事務所に来た初日にリン・ドウに告白して見事に玉砕した実力者だ。

二人とも異端児というところでは共通している所が多々あり会って少しで意気投合したらしく今ではタッグを組んでる。


「「今はそういう気分じゃない」」


「そう言えばケンさん元気ねぇけどどうしたんだ?」


「リン・ドウ様も・・・」


「まぁ、色々あるんだよ」


「右に同じ」


セ・ナミとマツ・オは顔を見合わせ首を傾げていたが今の二人はタッグを組まされることが余程ショックなのか気にも止めないでいた。


「いいからお前はあっちでワイワイやってこい」


「マツ・オもです、あっちで楽しんでらっしゃい」


「「はい」」


それからの二人は宴会がお開きになるまでずっと肩を落として落ち込んでいた。


―――――――――――――――――――――――


翌日!


「あ、ケンケンこっちこっち」


「ん?なんですか社長」


いつものように出勤したケン・ザキが案内されたのは今まで使われていなかったはずの部屋で、中にはいくつかの机が移動されており、見覚えのある机もその中にあった。


「どうしたんだ、いきなりこの部屋使えるようにして」


「上、上みてみなよ」


「上?」


ケン・ザキが上を見ると真新しい文字でこう書かれていた。


『高度捜索暗殺科』


「高度捜索暗殺科?なんですかこれ、新しい科ができたのか?」


「そうなんだよ、二人がタッグを組んだことで捜索科と暗殺科がちょっと仲良くなったんだよね、だからこの科の責任者をケンケンとリンリンにして、ほかの捜索科と暗殺科でタッグを組んでる人たちを部下に付けようって考えたのさ。」


「責任者!やっと俺がひとつの科を任されるようになったのか・・・」


「うん、リンリンとの二人で責任者なんだけどね」


「よっしゃ俄然やる気が出てきたぜ」


それからしばらくしてリン・ドウも入ってきた。


「責任者どうしがんばりましょ」


「お、おう」


二人が自分の机で本を読んでいたり、武器の手入れをしていたりすると部下らしき人達が入ってきた、昨日も話しかけてきたセ・ナミとマツ・オのタッグはもちろんいた。

あとは事務所でもベテランコンビのヤマ・ダとオ・バタのタッグ。最年少兄弟タッグのキシ・ハラ弟とキシ・ハラ兄。あとは夫婦でタッグを組んでるヤマ・ウチ夫とヤマ・ウチ妻だ。


暗殺科にはヤマ・ダとキシ・ハラ弟、ヤマ・ウチ夫が所属しており、捜索科には残りのメンバーが所属していた。


「このメンバーが君たちの部下になる人達ね、じゃあがんばってねー」


軽い感じで社長が出ていったあと1人1人自己紹介をしてそれぞれ自分の席につくのであった。


―――――――――――――――――――――――


高度捜索暗殺科は設置初日から仕事が全タッグに入ってきた、もともとドコロ探偵事務所への依頼は捜索だけの依頼か暗殺だけの依頼だけを受け付けていたのだが、今日から高度捜索暗殺科が設置されたことで捜索して捜索対象がクロならば暗殺して欲しい、という依頼も受け付けられるようになったのだ。


最初に来た依頼をセ・ナミとマツ・オに、二個目は兄弟タッグに三個目をベテランタッグに、四個目を夫婦タッグに回し自分たちは5個目の依頼の対応をしている。


―――――――――


「それで、依頼内容ですがどう言った案件でしょうか」


いつもは男らしい口調のケン・ザキも接客になると口調は丁寧になる。

反対にリン・ドウは何も喋らなくなり、相手の話だけを聞いて終わりになる。


「はい、依頼なんですが。私はハヤシ・ダ辺境伯の使いでして、今回のことについては辺境伯からの依頼と考えていただいて構いません。内容なのですが先日、辺境伯様を訪ねて来た者がいるのです。その者曰く辺境伯のご子息であるハヤシ・ダ坊っちゃまが隣国であるベリーメ王国に国政の情報を流しているというのです。訪ねてきた者の調査も依頼したいのですが、今回は坊っちゃまが情報を流しているという話の真相を明らかにして欲しいのです、また坊っちゃまがベリーメ王国へ内通していると言う確証が手に入った場合速やかに坊っちゃまを暗殺して欲しい、というのが辺境伯様のご依頼でした。坊っちゃまを暗殺してしまうのは悲しいですが、敵国に情報を流していたとなれば致し方ない、ということです」


「なるほど、依頼内容はわかりました。ではこちらからも少しだけ質問させていただきます。まずはハヤシ・ダ坊っちゃまは今何歳でしょうか?」


「今年で29になったはずです。」


「では坊っちゃまの今日の予定などは分かりすか」


「今夜は辺境伯様の屋敷でお食事会をすると仰っていました。」


「なるほど、ありがとうございます。最後に報酬のお話なのですが・・・」


「それは気にしなくていい、との事でしたので。依頼が達成されれば報酬を弾むということでしょう。」


「わかりました、全力を尽くして調査させていただきます。」


―――――――――――――――――――――――


「はぁ、最初の依頼が国家絡みとかどうすんだよ、リン」


「それは・・・調査は任せろ、としか言えない。」


「そうか、なるべく早くしろよ?黒って分かった瞬間に俺が首、持ってきてやるからよ。」


「だからお前は脳筋なんだよ。言葉遣いを直そうとは思わんのか」


「うるせぇ、俺は俺だ」


こうして凸凹コンビの初仕事が始まった。


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