第3話 ソラト、級を上げる

 ソラトはドラゴンの指示どおり、級を上げるために依頼をハイスピードでこなしていった。


「ソラト。そろそろ級は上がったか」

「中級に上がったよ。もう少しで最年少記録だったって言われた」


 ソラトは言われていたとおり、こまめに報告に来て顔を合わせていたので、足は震えなくなった。

 だいぶ慣れてきたようだ。


「これからお金が貯まりやすくなるのだな」

「うん。でも、この先はちょっと依頼がきつくなるんだ。あまり自信ない」

「冒険者とは戦う仕事でもあるのだろう? その割にお前は強そうに見えない」


 ドラゴンは、「私が鍛える。ついて来い」と言うと、ソラトを横穴に案内した。


「中、こんなに広くなってたんだ……。しかも真っ暗じゃなくて薄明るい」


 穴の奥深くは、ドーム型の広い空間になっていた。


「我々の巣の一つになっていたところだ。上に小さな穴がいくつかあり、光も入ってくる」


「ねえ、あの……あ、そうだ」

「……?」

「君に名前はあるの?」

「あるが。人間には発音できない」

「何て呼べばいいの」

「お前が勝手に決めていい」


「じゃあ……そうだな、デュラって呼ぶけどいい? 今適当に考えた名前だけど」

「ああ、かまわない」

「デュラ、君はなんで一人でここにいたの?」

「遠くの山で、勇者と戦闘になり負傷したからだ」


 かなりひどい負傷であり、同胞に抱えられてここまで運ばれた。

 ドラゴンを含め、魔物は回復魔法が使えない。

 この巣でゆっくり傷を癒せるよう、そして他のドラゴンが不在のときに人間に狙われないよう、横穴を隠され、長い眠りについていた。

 その眠りが覚め、穴から出てきたら、そこにソラトがいた。


 デュラはそのような説明をソラトにおこなった。


「では稽古を始めよう。本気でかかってきてもらってかまわない」




***




 ドラゴン……デュラの稽古は毎日続いた。


 デュラは鱗も硬いが、それ以上に爪が硬く、剣を受けるときはいつも爪で受けていた。

 そして口から炎を吐ける他、色々な魔法も使えるらしい。稽古中に風を出したり、氷を出したりもしていた。



「ふー、疲れた」


 この日の特訓は、特に厳しかった。

 ソラトは息が上がってしまって胸が苦しくなり、地面に腰を落とした。


「少し厳しくしてみたが。やはり疲れたか?」


 デュラがすぐ後ろに移動し、お腹を地面に着ける音がした。

 その直後、背中に鱗の感触があり、ソラトは驚いて首を回した。

 デュラは半円状に、ソラトの背中を包み込むように休んでいた。


 回していた首を戻すと、なんとなくソラトはそのまま体重を預けてしまった。

 特に何も、言われなかった。


「ねえ、デュラ」

「何だ?」

「僕、少しは腕上がってる?」

「そうだな。だいぶ良くなった。体つきも以前よりしっかりしてきている」


 デュラはそう言うと、包んでいる体をほんの少しだけ締めた。

 激しく動いていたからかもしれないが、デュラの鱗は、見かけのイメージよりもずっと温かかった。


「ドラゴンに稽古してもらえるって、多分、贅沢なんだろうな。しかもタダで教えてもらってる」


「私はかまわない。お前には同胞や大魔王様の居場所を教えてもらった。それに、これから船を用意してもらう。我々ドラゴンは、受ける恩に対しての対価は惜しまない。むしろ不足と考えているくらいだ」


「……そ、そうなんだ」


 急に居心地の悪さを感じ、ソラトは立ち上がった。


「じゃあ、また明日来るよ」

「ああ。待っている」


 休んで、息は整った。

 だが、ソラトの胸の苦しさは、増した。


 その恩。それがすべて、嘘だとしたら。

 デュラ、君は――

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