第105話 最高位の女神様?

 しばらく歩き続けて街の中心らしき広場にまでくると、そこには教会と思われる建物があった。


 目的地はここか?

 と思ったら、結奈さんはここを通り過ぎてさらに奥の方に進んでいく。

 大通りをはずれて小路に入り、裏側に抜けると一気にまわりが自然だらけになった。


 さっきまでの西洋風の街の雰囲気はまったくなくなってしまう。

 さらに進むと、さっきとは別の方向に流れる大きな川が見えた。

 結奈さんはこの川を、石の上を跳んで渡っていこうとする。


「ここを渡るんですか?」

「そうだよ、この川には橋がないから」

「ええ!?」


 いかにも何か隠してそうな場所だなぁ。

 こんなところを通らないと渡れない川なんて、普通は渡ろうとしないだろう。


 一応跳びやすいように石は加工してあるけど、こんな大きい川で足を踏み外したら人生終了だ。

 だというのに結奈さんはぴょんぴょんと簡単に石の上を跳んで行ってしまう。


「ミュウちゃん、大丈夫?」

「うん、いざとなったら飛んでいくから」


 そうか、ミュウちゃんはドラゴンになれば助かるのか。

 私は落ちたらエンドだな。


 ということで、細心の注意を払いながら私も石を跳んでいく。

 意外と滑ったりはしないようで、見た目よりは簡単だった。

 とりあえず無事に3人とも川を渡り切り、反対側にたどり着く。


「もう少しだからね」

「は~い」


 いったいどこにむかっているのだろうか。

 でも川を渡った辺りから人の気配がしなくなった。

 建物はあるのにまったく人がいない。


 それにあたりは現代の日本らしい場所になっていた。

 まるで現実世界に戻ってきたみたいだ。


 そのまま川沿いを進んでいくと、その先に大きな鳥居が見えてきた。

 この夢の世界では鳥居がよく重要な場所の入り口になっている気がするな。


 結奈さんはやはりこの鳥居をくぐり、さらに進んでいく。

 まっすぐ伸びる道を歩いていくと、やがて大きな神社にたどり着いた。


「ここですか?」

「うん、そうだよ。ついてきて」


 結奈さんはそう言って本殿の裏の方へと回っていく。

 また地下への隠し扉でもあるのだろうか。


「お姉ちゃん、ここ空気がすごいね」

「そうですね、なんかきれいすぎるというか……」


 いままで感じた事のないくらいに神聖な空気のような気がする。

 人が居てもいい場所なのかと思うくらいに浄化されているような。

 まるで私たちの行動をすべて監視されているみたいで緊張してしまう。


 本殿の裏側に回るとそこには扉があり、結奈さんは手をかざした後その扉を開く。

 むこう側はいきなり階段になっていて、私たちは結奈さんの後に続いて階段を降りる。


 海底の街にあった神社と状況がそっくりだった。

 ただこっちの方が広々としていて、それにきれいだ。


 最下段まで降りると正面に扉があり、結奈さんはまた手をかざしてから扉を開く。

 中に入ると、これも前回と同様に空間がおかしかった。

 完全に天井が降りてきた階段分よりも高い。


 ここもさっきまでいた場所とは別空間だと思っていいだろう。

 海底の街の時と違うのは、ここに桃ちゃんたちと行った島に建っていた鐘の門があることだ。


「なんでこんなところにこの門が……」


 もしかしてここも檻の外につながっているのだろうか。

 結奈さんが手をかざすと、突然ベルが鳴り始めて門が開くように内側が光り出した。


「それじゃあ行きましょうか」

「は、はい」


 結奈さんは開いた門の光にむかっていき、むこう側へと姿を消した。

 私たちも後を追って門をくぐる。


 そのむこう側は檻の外の世界ではなく、青い空の下でお花畑などが広がる庭園のような場所だった。

 これがさっき話していた『祝福の庭園』という場所だろうか。


「きれいな場所ですね」

「私、来たことあるかも」

「え?」


 私があたりを見回していると、ミュウちゃんが驚くことを口にした。

 偶然行き着くような場所ではないはずだけど。

 その答えは結奈さんが教えてくれた。


「元々ミュウちゃんみたいな竜人はこの庭園で生まれてくるものですからね」

「じゃあミュウちゃんはここに住んでたってことですか?」

「そうですね」


 なんか思ってたよりもミュウちゃんは神聖な存在なのかもしれない。

 結乃さんはいったい何をしてミュウちゃんと知り合ったんだろう。


「私はここで生まれたの?」

「そうみたいですね」

「ふ~ん?」


 ミュウちゃん本人は記憶にないのか、あまりしっくりきていないようだった。

 そのことに関して特に深く考えることもなく、私たちは先を進む。

 たくさんの花を楽しみながら、きれいに区切られている庭園の道をまっすぐ歩いていく。


 しばらく進んだところで大きな橋が見えてくる。

 これは自由の街に架かっていたものとよく似ていた。


 ただ下に見える海は、はるか遠くに見える。

 もしかしてここは天空の島なのか?


「ひゃぁ~」

「ふふふ、びっくりしましたか?」


「はい、ここは空の上なんですね。落ちたらどうなるんですか?」

「ふふふ」


「なんで何も言ってくれないんですか!?」


 これ落ちたら死んじゃうやつじゃないの?

 見てるだけで怖いから真ん中の方を歩こう。


 私たちは天空の島と島をつなぐ橋を渡って反対側へと移動した。

 こっちの島は庭園というわけではなく、少し進んだところには建物も見える。

 どちらかというとこっちがメインの島で、さっきまでのが周辺の島といった感じだ。


 祝福の庭園に来たはずなのに、庭園を通り越してよかったのだろうか。

 結奈さんはどんどん進んでいくし、とりあえずついていこう。


 きれいに舗装されている道を真っ直ぐ歩いていくと、さっき見えていた建物の近くに着く。

 そこには人の姿もあり、どうやらここは天空の島にある街のようだった。


 ミュウちゃんくらいの小さなこどももいて、特別な人たちという雰囲気はない。

 ここにいると空に浮かんでいるのを忘れてしまいそうだ。

 いったいどういった人たちが住んでいるんだろうか。


 もしかしてここにいる全員がミュウちゃんのような竜人なのかな。

 みんなドラゴンの姿になったら、それこそ夢魔より怖そうだ。


 私がキョロキョロしながら歩いていると、じっとこっちを見ている小さな女の子と目が合った。

 ニコッと笑顔を作って手を振ってみると、驚いたような表情をした後、さっと建物の陰に隠れてからまたこっちを見ている。


 人見知りする子なのだろうか。

 まあ、あれくらいの歳の子は結構あんな感じの子が多いのかもしれないね。

 ここにはお客さんとかほとんど来ないだろうし。


 もしかして結奈さんはこの街の人たちに協力してもらうつもりなのかな。

 そう思いながら歩いていると、そのまま街を抜けていってしまった。

 いったいどこにむかっているんだろう。


 道の先にはまた大きな橋が見えてきた。

 それを渡ると、今度は屋根のない神殿のような建物がある。

 島自体は小さく、少し長い道の先にあるその建物は、まるでゲームのラスボスが出てきそうな場所だった。


 結奈さんの目的地はどうやらその神殿だったようだ。

 見た感じ、廃墟というわけではなさそうなので、屋根がないのは元からということかな。


 神殿は島の一番端っこにあり、反対側は崖っぷち。

 もし足を踏み外せば海にむかって真っ逆さまだ。


 8つの柱に囲まれた神殿の最奥で私たちは足を止めた。


「着きました、ここです」

「それで私たちはなぜここに連れてこられたんですか?」


 私の出した答えとこの場所に何か関係があるのだろうか。

 それに祝福の庭園と言ってたけど、庭園だったのは最初だけだったし。


「ふふふ、むこうが夢魔の女王なら、こっちは最高位の女神様で対抗だよ」

「最高位の女神様?」


 神様の頂点がここにいるって言うのかな。


「あれ? 最高神ってことですよね? それって結奈さんじゃなかったでしたっけ?」

「違うよ、私は一番魔力が強いってだけ」

「そうだったんですか」


 でもそれだったら結奈さんの方がいいんじゃないかな。

 それとも強さとは別の何かを最高神様は持っているのか。


「それでその方はどこにいるんですか?」

「今はいないよ」

「え?」


 それじゃあ何のためにここに来たんだ?

 下見?


「その方はいつ頃戻ってくるんですか?」

「いないって、そういう意味じゃないよ。最高神の地位はずっと空けてあるんだよ」

「ええ!? それじゃあいったいどうするんですか?」


 いったい結奈さんは何がしたいんだろう。

 そう思っていたら、結奈さんが衝撃の一言を放った。


「苺ちゃんがなるんだよ、最高神に」

「……は?」

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