第99話 この家は私と雫さんの愛の巣だと表現しても過言ではないな
朝、目を覚ますと胸のあたりに圧迫感を覚えた。
苦しい……、何かが上に乗っているような感じだ。
頑張って体を起こそうとすると、明らかに何かが私の上にいた。
布団を引きはがすと、そこにはミュウちゃんが眠っていた。
「なぜここにミュウちゃんが……」
昨日あの島から帰ってきた後、確かにお別れをしたはずだ。
いったいどこに帰るつもりだったのかは気になってたけど。
すやすやと眠るミュウちゃんを眺めながらしばらくそのままでいると、開いたままだった入り口から雫さんが入ってきた。
「ミュウちゃん、苺ちゃんは起きた?」
「雫さん、あいかわらず私の家にいるんですね……」
もうなんか同棲してるみたいな感じになってるけど。
いいんですかね、もうこれゴールインしてるんじゃないですか?
なんて私がニヤニヤしていると、雫さんはビシッと私を指さして言った。
「苺ちゃんがミュウちゃんを襲ってる!」
「いやいや、よく見てください、私が下ですよ」
私たちがうるさくしていたせいか、ここでミュウちゃんがゴソゴソと動き出し、目を覚ました。
「あ、おはよう~」
「ミュウちゃん、どうやってここに入ったんですか? もしかして窓から?」
「雫お姉ちゃんに入れてもらったよ?」
「ああ、そうなんですか」
ミュウちゃんはちゃんとした手順でこの部屋までやってきたようだ。
でもそもそも、その雫さんはいったいどうやってここに入ったのだろうか。
やはりこれはもう、この家は私と雫さんの愛の巣だと表現しても過言ではないな。
気が付いたらゴールインしてたとか、私は天才か。
はっ、そういえば初めての共同作業をしてないぞ?
今日か、今日なのか?
くぅううう、楽しみだなぁ。
「どうしたの苺ちゃん、ニヤニヤして」
「なんでもないで~す」
「そう? それより朝ごはん出来てるから早く来てね」
「は~い」
ああ、なんて幸せなんだろう。
こんな日々がずっと続けばいいのに……。
……しまった、フラグを立ててしまった。
いや、しかし、フラグはそれを認識した時点でフラグの効力を失うと私は信じている。
つまりこの時点でぽっきりとフラグは折れているに違いない。
よし、ご飯行こ。
ミュウちゃんと一緒にリビングにむかうと、テーブルには当たり前な顔をして結乃さんがいた。
「おはようございます、苺さん、ミュウちゃん」
「おはようございます」
結乃さんは優雅な仕草で紅茶……ではなくオレンジジュースを飲んでいた。
あれ絶対100%のやつだ、おいしいやつだ。
「ふたりはオレンジジュースかリンゴジュース、どっちがいい?」
そう言いながら雫さんが瓶に入ったジュースを2本持ってきていた。
「オレンジで」
「私も!」
私たちはともにオレンジジュースを選ぶ。
雫さんがグラスに注いでくれて、それをくいっと一口飲む。
キンキンに冷えたオレンジジュース、朝からなんという贅沢な時間なんだろうか。
こんな日々がずっと……、ってダメだダメだ、せっかくへし折ったフラグがまた立ってしまう。
私は絶対に幸せになってみせるんだから!
朝食にトーストとヨーグルトを食べ、4人でリビングに居座る。
完全に全員が我が家のような感覚でいた。
私は別にいいんだけど、誰も帰る気がないよね。
それに毎日が日曜日みたいな感じがしてゆるゆるだ。
雪ちゃんたちに比べてかなりのんびりしてしまってるなぁ。
結乃さんがそうしてるんだしいいのかな。
なにか使命とかそういうのはないんだろうか。
そんなことを思いながらふと目をやった窓の外に、白い羽を生やした桃ちゃんが飛んでいくのが見えた。
かなりのスピードだったから見間違いかもしれないけど、本人だったらどこへ行くんだろう。
なんとなくモヤモヤした感情が込み上げてくる。
今行かないととんでもないことが起きそうな気がした。
「すいません、ちょっと出かけてきますね」
「急だね、気を付けてね」
「はい」
雫さんはふわっとした笑顔で手を振ってくれる。
結乃さんは……、いつのまにかいなくなっていた。
「お姉ちゃん、私も行くよ」
ミュウちゃんが私の後について家を出てくる。
「ミュウちゃん、遊びに行くわけじゃないですよ?」
「わかってる、ひとりだと危険かもしれないから」
そう言ったミュウちゃんの表情はいつものこどものような表情とは違い、かなり真剣なものだった。
どうやら今の状況を理解しているみたいだ。
危険な目に遭わせたくはないけど、今は甘えるべきかもしれない。
「わかりました、お願いしますねミュウちゃん」
「まかせて」
ミュウちゃんはドラゴンの姿になると、私を乗せて空へと飛び立った。
「桃ちゃん、どこへ行ったんだろう」
「多分、昨日の島だよ」
「わかるんですか?」
「多分だけど、昨日様子がおかしかったし、変な気配もするし」
ミュウちゃんも昨日の桃ちゃんがおかしかったの気づいてたんだ。
ベルのところで見たあの目、やっぱり普通じゃなかった。
前にどこで見たのかは思い出せないけど、嫌な予感しかしない。
「とりあえずあの大きな鐘の所にむかうね」
「はい」
ミュウちゃんはいつも以上のスピードを出して、昨日行ったお花の島へとむかっていく。
こんなに急ぐってことは何か心当たりでもあるのだろうか。
確かに嫌な予感がするけど、私にはそれがどんなものなのか想像できなかった。
でもこのタイミングで桃ちゃんが動いているということは、きっと元の世界を救うために必要なことなのだろう。
それがどんな危険を伴うことなのか。
もしかして夢魔との戦いの可能性も覚悟しておかないといけないかもしれない。
一応あの銃をいつも持ち歩くようにしていたのは正解だったか。
出番がないことを祈るよ。
かなりのスピードで飛んでいたため、あっという間に島が見えてくる。
しかし何か様子がおかしかった。
なんだか視界がゆらゆら揺れているような。
「お姉ちゃん、しっかりつかまってて!」
「はい」
急にミュウちゃんが大きな声を出したので、とっさにぎゅっとその背中にしがみつく。
そして私たちが島の上空に入った時、一気に目の前の様子が変化する。
そこはまるで大橋の上と同じような状態で、空は紫色でオーロラのカーテンまで見えていた。
ということは、さっき視界が揺れていたのは、この島を結界が囲っていたからということか。
昨日の今日でいったい何が起きたんだ。
私たちはひとまず例の鐘の場所までむかうことにした。
そこで私たちは驚くべきものを目にする。
鐘を吊るしているアーチの内側が、まるで異世界への門のように空と同じ色で光っていた。
「これは……」
「お姉ちゃん、行こう」
「そうですよね、行くしかないですよね」
私たちは覚悟を決めて門をくぐった。
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