第70話 イチゴさんのにおいを追ってきました
しばらく鷲の後をおとなしくついていったが、あまりに遅いので捕まえて頭の上に乗せることにした。
「案内よろしくお願いしますね」
鷲は何の声も出さず、羽を広げて道案内のように行く先を指し示す。
その通りに進んでいくと、拝殿や神楽殿は素通りし、本殿にむかっているように思えた。
まさか本殿に入るつもりじゃないだろうな。
そんな恐ろしいこと、できればしたくはないんだけど。
鷲は本殿前まで来ると、さらに奥の方を指し示す。
どうやら中に入るようなことはないようだ。
でもいったいどこにむかっているんだろうか。
進んでいくとたどり着いたのは本殿の裏側だった。
そこにもなぜか小さめの扉があって、この中が目的地のようだ。
しかし開けようにも鍵がかかっていて中に入ることができない。
どこかで鍵を手に入れる必要があるのか。
まさかフラグ回収し損ねた?
まさかまさかゲームオーバー?
というわけでもなく、鷲が急に私の頭から飛び降りると、自分の足の爪を鍵穴に突っ込んだ。
いやいや何してるのこいつ。
そんなんで開くわけが……。
と思った瞬間、錠がカシャンと音を立てて外れた。
うっそ~ん。
さらに鷲さんは羽を使って扉を開こうとしてくれる。
ああ、それくらい私がやりますよ~。
私が扉を開くと、出てきたのは地下に伸びる木造の階段だった。
明かりなどなく、真っ暗の空間がそこにある。
これは怖い、でももしかしなくても行かないといけないんだよね?
そのために連れてこられたんだよね?
というか、これってユーノさんが言ってた場所とは違うんじゃないか。
ふたりとも追いかけてこられるかな。
合流するのを待ってからの方がいい気がするけど。
そう思っているのに、この鷲さんはまったく気持ちを汲んでくれない。
勝手に中へ入っていき、足を滑らせ、闇の中へ消えていった。
「ああ、もう!」
私はスマホのライトを使って、鷲さんを追いかけ階段を下りて行った。
階段の勾配は、歴史のある建物には珍しく意外と緩やかだ。
最下段までまっすぐに伸びていて、その先に鷲さんは転がっていた。
私が揺すると、ちゃんと生きていてすぐ自分の足で立ち上がる。
そして顔をあげたすぐ右手に、またも扉があった。
今度は鍵がないようだけど、そのかわりにとても神聖なものを感じる造りになっている。
こんなところにいったい何があるというのだろうか。
私は勇気を出して扉を開いてみることにした。
慎重にゆっくりと扉を引いていく。
少しできた隙間から中を覗き込んでみる。
「え?」
そこに広がっているのは、あちこちに青や紫の水晶がちりばめられた空間。
いや、もはや水晶で作られた空間と言ってもいいくらいだった。
それに空間の広さがおかしい。
下りてきた階段はせいぜい建物一階分くらいだ。
なのにここは、まるでドームかと思うくらいに天井が高く、そして広い。
異空間……ということなのだろうか。
「イチゴさ~ん!」
「ユーノさん、ヨミちゃん」
後ろから声がして振り返ると、いつの間にかふたりが追いついてきていた。
「ふたりともよくここがわかりましたね」
「イチゴさんのにおいを追ってきました」
ねえ、なんで君たちはにおいで判断できるの?
それは気配とかそういうのじゃなくて、本当の意味でのにおいなの?
私そんなに特殊なにおいを放ってるのかな……。
「そんなことよりここは一体……」
ユーノさんはこの場所を知っていたのだろうか。
「ここは恐らく水晶の間と呼ばれていた場所のはずです、まさかこんなところに隠されていたなんて……」
存在は知っていたけど、場所までは把握してなかったってことか。
でも鷲さんはこの場所を知っているみたいだったな。
それにわざわざ私をこの場所まで連れてきた目的はなんだ?
私は鷲さんを抱き上げ、目と目で見つめあう。
鷲さんは何も答えず、しばらくして私の腕がプルプルし始めたころ、いきなり手を振りほどいて飛んで行った。
そしていきなり光に包まれると、どんどんまぶしさを増していく。
「な、なに?」
「さっきの鷲が光っているの?」
あまりの光量に、みんな手で目を守りながらも視線は外さずにいる。
視界がいったん真っ白になってから光がおさまっていくと、そこには女の人がひとり立っていた。
それははっきりとは覚えてないけど、見たことのある女性の姿。
「お母……さん?」
「「え?」」
おそらくその人は私の母親と思われる女性だった。
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