第71話 一応大人になりましたから
いきなり目の前に現れた母に、私はなんと声をかけたらいいかわからなかった。
私にとって母というのはいなくて当たり前の存在で、家族という感覚もほとんどない。
でも小さいころに一緒に写っていた写真は大事に飾ってあった。
「ひさしぶりだねイチゴちゃん、私のこと覚えてるかな?」
「えっと……、ぼんやりとは」
「あはは、仕方ないよね、ちっちゃかったあなたを置いていなくなっちゃったんだから」
それこそ仕方ないんじゃないだろうか。
聞いた話では、母はそんなに体が強くなくて、私を生んだときに亡くなっていてもおかしくなかったらしい。
なのに私と一緒にいるために懸命に生き続けてくれた。
そんな母にちゃんと会ってみたかったとずっと思っていたんだ。
亡くなった時の姿なのか、現実世界の私とほぼ同じくらいの年齢だと思う。
母は私の目の前まで歩いてくると、やさしく頭をなでてくれた。
「大きくなったね」
「一応大人になりましたから」
「そうだよね」
そして私の胸を軽くもんでニコッと笑う。
「ここはあまり変わってないけど」
「なぜあなたのバインバインが遺伝してくれなかったのか……」
「そこまで大きくないけど……」
でかいよ、十分だよ。
ユーノさんもそうだけど、身長があまり変わらないのに胸はこれだけ差が出るのか。
髪の毛もふわふわロングだし、なんだかやさしいお姉ちゃんみたいな印象だ。
私が母の胸を凝視していると、後ろからユーノさんが声をかけてきた。
「いままでどこで何してたんですか、ユーナさん!」
「ユーノちゃんもひさしぶりだね~」
「おひさしぶりです……」
母があまりにものほほんとしているので、少し怒ってたはずのユーノさんが肩を落とした。
ユーナって確か母の名前だったか。
ふたりは知り合いだったんだ。
そういえば始まりの街でこの人の像があったなぁ、いったい何者なんだろう。
「イチゴさんはユーナさんの娘さんだったんですね、どうりで魔力が強いはずです」
「そこはちゃんと遺伝してくれたみたいでよかった」
母は再び私の頭をなでる。
「イチゴさん、ユーナさんはこの世界で一番魔力の強い女神様なんですよ」
「え? じゃあ私って女神の血を引いてるんですか?」
衝撃の事実が明らかになってしまった。
私は人ではなかったらしい。
「えっと、それは夢の世界での話ですよね?」
「現実だよ、よかったね、イチゴちゃんは中二病だもんね」
「な、違いますよ、私はそんなんじゃありませんから」
再会したばかりで私の何がわかるというのだろう。
まったく失礼なものですね。
「でも、そんな魔導士のコスプレしてるし」
「いやこれはいつの間にか着てたもので」
「嫌だったら着替えればいいのに」
う、そう言われるとそうかも。
よく見たら母は現実世界の服を着てるな。
異世界っぽい服を着てるのって、私とユーノさんだけじゃない?
ほとんどのみんなが現実世界で売ってるような服装だったぞ。
「もしかしてユーノさんって中二病?」
「うわ~ん、イチゴさんが私のこと中二病のエッチで変態な女神だって~」
「そこまで言ってませんよ~」
というか自覚あったんですね……。
「それよりもユーノちゃん、今ならきっとこの島を地上まで浮上させられるよ」
「え?」
「私たちだけじゃできなかったけど、この4人ならきっとできる」
母の言葉にユーノさんは少しためらいうような間をあけた。
しかし覚悟を決めたように力強く頷く。
「私、やってみたいです」
「うん、じゃあさっそく始めようか」
私たちは母……いやもうユーナさんでいいか。
ユーナさんの指示通りに場所を移動する。
「なんで私まで巻き込まれてるのかしら……」
さきほどまで存在感を消していたヨミちゃんが私の隣でぼやく。
「ヨミちゃんは無理しないでくださいね、また倒れちゃうから」
「そうね、その時はイチゴの魔力を使わせてもらうわ」
ヨミちゃんはそう言って私の腕に抱きついてくる。
控え目な胸が当たってるよ~。
ところで私たちは何をすればいいんだろうか。
ユーノさんとユーナさんはさっきから奥の方にある台座のようなところをいじっている。
しばらく待つといきなり空中に強大な水晶が現れた。
私たちの体よりも大きい水晶は、その場にとどまってクルクル回転している。
「さあみんな、あの水晶に手をかざして魔力を注ぎ込んで!」
「はい」
魔力を注ぎ込むのはこの世界に来て何度もやったからね。
ふたりの時はできなかったってことは、ここは手加減無用でいくよ。
「えりゃ~!」
私たちの体からやわらかな光が水晶にむかって流れていく。
なんとなく吸われてる気もしてくすぐったいな。
特に手ごたえも感じないまま時間が過ぎる。
すると突然地面が大きく揺れ始めた。
「きゃっ!」
私の隣にいたヨミちゃんがバランスを崩して転倒しそうになり、それを慌てて腕で抱きとめる。
こんな時だというのに、私の手はヨミちゃんの胸を鷲掴みしてもみもみしていた。
「きゃ~!」
「げばっ!」
強烈なビンタをお見舞いされました。
そんなことをしている間に水晶から光が発せられ、あたりが真っ白な世界に包まれていく。
まぶしい光の中、自分の感覚や意識が飛んでいくのを感じていた。
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