第64話 女神マスクです

 目をぎゅっと閉じ、死の瞬間が訪れるのを待つ。

 ……。

 ……?


 あれ、生きてる?

 目を開けると、いつの間にか黒ユキちゃんが前に立っていた。

 私にむかってきたはずの矢は、少し離れたところの壁に突き刺さっている。


「黒ユキちゃん、助けてくれたんですか?」

「早く立ち上がって、次がくる!」


 黒ユキちゃんの言葉通り、いつの間にか矢が現れていた。

 さっきとは違い、何かをまとっているように見える。

 威力をあげているのだろうか。


 ダメだ、このままじゃ私のせいで黒ユキちゃんまで巻き込んでしまう。

 黒ユキちゃんは手に魔力のようなものを渦巻かせながら矢を待ち構えている。

 しかし矢は発射されることなく、力をためているのかどんどん光を帯びていく。


「私のことはいいから逃げてください、あれは危険です」

「そんなことできるわけないでしょう」


 そこで黒ユキちゃんは少しだけ顔をこちらにむけて言った。


「あなたがいなくなったら雪が悲しむから」

「でもっ!」

「大丈夫、私結構強いから」


 なんだよ、めちゃくちゃいい子じゃないか……。

 くそ、何もできないのが悔しい。


 そしてついに大きな矢が放たれた。

 もはや矢というより大きな光の塊だが、それを黒ユキちゃんは両手をかざして受け止める。


 じりじりと押し込まれて後退していくが、大分勢いは弱まり、なんとか横へ弾き飛ばすことができた。

 しかし、そこで黒ユキちゃんは力が抜けたようにその場で膝から崩れ落ちた。


 私はやっと動いてくれた体でそばに駆け寄り、倒れた彼女を抱き起こす。


「大丈夫ですか! ごめんなさい、私のために……」

「大丈夫よ、ひさしぶりだったから慣れてないだけ……」


 敵の様子を見ると、すでに次の矢が発射されようとしていた。

 おそらくさっきのでかい攻撃を囮にして、最初からこっちでしとめるつもりだったんだろう。


 無防備な状態ならこれで十分私たちを仕留めることができる。

 私は死を覚悟した。


 その時、敵の方で爆発が起き、そのまま地面にむかって落ちていく。

 さらに落ちた敵にむかって、誰かが飛んでいき槍のようなものを突き刺す。

 すると敵は霧のように散って消えていった。


 そしてその誰かがこちらにむかって歩いてくる。

 やっと顔が見えたと思ったら、それはおかしなマスクを被ったユーノさんだった。


「ユーノさん! 助けに来てくれたんですね!」


 あまりにも頼りになる存在に涙があふれてくる。

 しかし、彼女から返ってきた言葉は衝撃のものだった。


「私はユーノではありません、女神マスクです」

「は?」


 いや、その声とか髪型とか服装もお胸も、どう見てもユーノさんじゃないですか。

 そんな目の部分に仮面付けたくらいで正体を隠せると思ってるのかな。

 ああ、なんだか寒くなってきたのは血を流し過ぎたからか、それともユーノさんのせいか。


「あの……、ユーノさん」

「女神マスクです」


 まいったな……。


「女神マスクさん、あの、意識がもうろうとしてきたんですけど……」

「これはいけませんね、スマホを貸してください」

「はい?」


 なんでこんな時に使えもしないスマホを?

 あまり考える余裕もないので言われたままスマホを手渡す。


 女神マスクさんは自分のスマホと私のスマホを同時に操作して何かしている。

 そんなことしてるうちに気を失いそうなんですけど……。


 しばらくして女神マスクさんが「よし」と言ってスマホを返してくれた。

 結局なんだったんだろうと思いながら受け取る。

 すると急に意識がはっきりしてきて、さらに出血は止まり、傷はなくなっていた。


「あれ? なにこれ……」

「端末をアップデートしました、これでこの場所でも夢の世界の保護が受けられます」


 アップデートということは、黒ユキちゃんが言ってたやつか。

 じゃあこれでマップとかのアプリも使えるようになったわけだ。

 ケガとかもしなくて済むみたいだし、夢の世界最高だね。


「あ、黒ユキちゃんは!?」

「大丈夫です、力を使い過ぎてるだけです、しばらく休めば回復するでしょう」

「よかった……」


 本当に死んじゃうかと思ったけど、なんとか助かったのかな。

 ユーノさんも来てくれたし、一安心できるね。


「本当にありがとうございました、いろいろすごいんですねユーノさんは」

「女神マスクです」


 まいったなぁ……。

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