第48話 あんたらすごいお願いしてますね!?

 私のツッコミもスルーされ、ユーノさんはミュウちゃんと一緒に神社の方へ歩いて行ってしまう。


 後ろを振り返ると、さっき飛んできたときに通りぬけた鳥居がある。

 それをしばらくの間ボーっと見ていると、急に水着が光り出した。

 再び魔法少女の変身みたいな光に包まれ、いつものローブに戻る。


 ユーノさんが戻してくれたのかな?

 それとも時間で元に戻るようになってたとか?

 なんにせよ、これで安心して神社にいられるね。


 それにしても、いつの間にかこの姿がしっくりくるようになったなぁ。

 ほんの数日間着てるだけなのに。

 私も魔法使いとして着実に成長しているということか。


「お姉ちゃ~ん、どうしたの~」


 先に進んでいたミュウちゃんが私を呼んでいる。


「なんでもな~い、今行くよ~」


 返事をしてふたりのもとへむかう。

 その途中で一度振り返る。


「すまない、娘を待たせているのでね」


 誰もいない空間にそう告げて、私は再び歩き出した。


 鳥居からまっすぐ続く道を歩いて境内を進む。

 50メートルもないくらいの距離で、すぐに拝殿の前に着いた。


「ここって何の神様が祀られているんですか?」


 女神様であるユーノさんなら知ってるだろうと思い質問する。


「自由の神様ですよ」

「自由の神様なんですか」


 じゃあこの神社があるから自由の街になったのかな。

 スタンプの前にまずはお参りしていこう。


 あ、手水やってないな。

 でもそれらしき場所が見当たらないね。


「ユーノさん、ここって手水舎はないんですか?」

「ああ、ここはありませんよ、飛んできたときに身が清められているのです」

「それ本当ですか!?」


 なんか最近、ユーノさんが言うと嘘っぽく聞こえるようになってきた。

 でもそういうことならこのままお参りさせてもらいます。


 うん?

 鈴もお賽銭箱もないのか。

 これは気持ちが大事なんだな、しっかりとお祈りしよう。


「イチゴさんを私の自由にしたいです」

「お姉ちゃんを私の自由にしたいです」

「あんたらすごいお願いしてますね!?」


 自由ってそういうことじゃないでしょ……。


 それにユーノさんは女神様なのに神頼みするのか。

 しかもお願い事を口に出してるし。

 本人の隣で。


 私のことを自由にできるなんて思わないでよね!


「そんなお願いごとしたら神様が怒りますよ?」

「ここの神様、実は私だよ~」


 私が呆れていると、ミュウちゃんがそんな衝撃の一言を放った。

 ……え?


「「ええ~!!」」


 私だけではなく、なぜかユーノさんまで驚いている。


「ユーノさんも知らなかったんですか?」

「まったく知りませんでした~」


 本気でびっくりしてるよこの人。

 相手のことを詳しく調べもせずにスタンプを任せたのか。


「私のこと知っててスタンプをお願いしてきたんだと思ってたよ~」


 ミュウちゃんが言うと、ユーノさんはちょっと恥ずかしそうに笑った。


「実はかわいい子がいるなって思い、声をかけたらミュウちゃんだったという……」

「どんな選び方!?」


 かわいくても変な人だったらどうするんだろう。

 この世界でそんな心配はいらないってことか。


「もしかしてヨシノちゃんも?」

「はい、かわいらしい方だなって思いまして」


 よかったね、ヨシノちゃん。

 女神様も認めるかわいさだよ。


「じゃあお姉ちゃんもお参り済ませて、スタンプあげられないから」

「あ、そうでした」


 どうせなら私も何かお願い事をしようと思って少し考えてみる。

 でもこの世界に来てからというもの、楽しくて幸せで。

 お願いしたいことってパッと出てこなくなったなぁ。


 まあ、お参りだけしておくのもいいだけど。

 そうだ、雪ちゃんのことをお願いしておこう。


(どんな事情があるかわからないけど、現実世界の雪ちゃんが自由に声を出せるようになってほしいです)


 これでよしっと。


「ミュウちゃん、終わったよ」

「はい~」


 ミュウちゃんがスマホをいじり始めると、しばらくして私のスマホに通知が入る。

 来た来た、ふたつ目のスタンプだ。

 任務完了。


「じゃあ帰りましょうか」


 終わってすぐにユーノさんが来た道を戻ろうとした。


「あ、ちょっとだけ待ってください」

「イチゴさん、どうかしましたか?」


 呼び止めた私をユーノさんが不思議そうに見る。


「いえ、せっかくなので空からの景色を楽しみたいなと思いまして」

「あら、構いませんよ、ただ島を渡れる間には戻りましょうね」

「は~い」


 そっか、時間経ったら道が海になっちゃうのか。


「もし道がなくなってたら、私が飛んで渡るよ~」

「ミュウちゃん、ありがと~」


 じゃあちょこっとだけ楽しませてもらおっと。

 最初に歩いてきた道とは別の方向に歩いて、この神社の外側へ移動する。

 柵とか何もないのでかなり怖いけど、とにかく端っこまで行って下をのぞく。


「ひゃ~」


 おお~、ぞくぞくだね~。

 落ちる落ちないのギリギリのところでその感覚を楽しんでいると、急に強風が吹いた。


「あれ?」


 私、今、ふわふわしてるよ?


「イチゴさん!」

「お姉ちゃん!」


 ふたりの慌てる声が上の方から聞こえてくる。


「きゃ~!!」


 落ちてる~!

 ああ……。

 風が気持ちいい……。


 きれいな白い街が目に入る。

 それから青い海。

 絶景だ~。


 じゃ、またね。


 いきなり目の前が真っ暗になった。

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