第49話 そうか、夢か……

「うん……、うん?」


 目を覚ました?

 いつの間に寝てたんだろう。

 あれ、何してたんだっけ?


「あ、お姉ちゃん起きた~!」

「ミュウちゃん……」


 私が目を覚ましたことに気づいたミュウちゃんが砂浜の方から走ってくる。

 どうやらここは神社に行く前に遊んでいた海水浴場のようだ。


「大丈夫?」

「うん……、あれ、ユーノさんは?」


 頭が痛くて記憶がぐちゃぐちゃしてるけど、確か一緒にいたはず。

 でも近くにはその姿が見当たらない。

 そしてミュウちゃんが不思議そうな顔をしてこう言った。


「ユーノさんがここにいるわけないと思うけど……」

「……え?」


 いや、私だってそう思ったけど、さっきまで一緒にいたよね?


「そうだ、私、空から落ちてきたんだ、ミュウちゃんが助けてくれたの?」

「空から落ちたの?」


 ミュウちゃんがさらに首を傾げる。

 そして急に笑い始めた。


「お姉ちゃん、夢でも見てたんじゃない?」

「夢……?」


 あれは夢だったの?

 確かに夢みたいなことが続いてたけどさ。


「まさか、アロ~ハ~って飛んでそのまま倒れるなんて思わなかったよ?」


 え、そこから!?

 確かにそれはユーノさんに出会う直前のことだけど。

 本当に夢だったのか?


「そうか、夢か……」


 なんかしっくりこないけど、そういうことなんだろう。

 暑さにやられてぶっ倒れてしまったということか。


「そっか……」


 とりあえず無理やり納得して、ちょっと横になる。

 じゃあスタンプも今から貰いに行かないとだね。

 そう思いながらスマホを取り出して画面を見ると、なにか通知が来ていることに気づく。


 ロックを解除しホーム画面で確認すると、その通知はふたつ目のスタンプを手に入れたというものだった。


 ……夢じゃない!

 やっぱりあれは現実にあったことなんだ。


 このスマホはユーノさんが手を入れた特別なものらしいから、何かの影響を受けずに済んだのかもしれない。


 あの空から落ちた時に何かあったのだろうか。

 どうやって助かったんだ?

 再び頭の中がぐるぐるし始める。


 そこにミュウちゃんが声をかけてくれた。


「お姉ちゃん大丈夫? なにか冷たいものでも飲む?」

「あ、そうだね、そうしようか」


 すこし落ち着いて考える必要があるかもしれないな。

 時間は巻き戻ってるみたいだし、なんといってもここは楽園なんだから。


 そうそうユーノさんたちを無視してひどい状況にはならないはず。

 きっとこの状況は、何か別の目的を達成するために必要になったんじゃないだろうか。


 とりあえずミュウちゃんの後について海の家までむかうことにした。

 店員不在のそこに、別のお客さんだろうか、ひとりの少女の姿を見つける。

 そしてそれはよく見知った顔だった。


「あ、いたいた、イチゴさ~ん!」


 その少女が透き通るようなきれい声で私の名を呼び、こちらに手を振っている。


「ゆ、ユキちゃん!?」


 それはなんとユキちゃんだった。

 いきなりの登場はもう毎度のことになってきているが、これで少しわかったかもしれない。


 私が空の神社でお願いした、雪ちゃんの声のこと。

 こじつけかもしれないけど、これがそのための第一歩なのかも。

 突然吹いた強風で空から突き落とされたのも、ここにつなげるためか。


 もっとうまい方法あったでしょうに。

 ユーノさんがそばにいないのは、つまり女神様には頼らずに解決しなければいけないのかな?


 でもこちらのユキちゃんと現実の雪ちゃんをどうつなぐんだろう。

 私は何をすればいいんだ。


「イチゴさんどうしたの、ボーっとして」

「あ、いえ、ユキちゃんの水着姿に見惚れてただけですよ」

「あわわ……」


 とっさに適当なことを口にすると、ユキちゃんは照れて赤くなってしまった。

 うん、かわいい。

 こういう反応が好きなんだよね、私は。


「そういえばユキちゃんはどうしてここに?」

「私も一緒に遊びたかったから~」

「そのためにわざわざ来たんですか?」


 すごい行動力だ……。

 それだけにかなりうれしいけど。


「わざわざっていうか、この街にも私のお店あるから簡単に来れるよ」

「あ、そっか」


 ユキちゃんのお店はいろんな街とつながってるんだったね。


「こんな暑いところで溶けたりしないんですか?」


 前になんか溶けちゃってたよね。

 雪女だって言ってたっけ。


「不意打ちじゃなかったら溶けたりしないよ~」


 そう言いながら私の首筋にそっと手を添えてくる。


「ひゃ~、冷たい~」


 これだけ暑い場所だとちょうど気持ちいい。

 さらに冷たさを求めて、水着姿のユキちゃんに抱きついてしまった。


「わわ~、ダメだよ、イチゴさ~ん」

「おっと」


 あやうく溶けそうになったユキちゃんから急いで離れる。


「はふ~」

「ごめんなさいです」


 謝りつつも、さっきまでの感触を必死に思い出す。

 なんと言いますか、私が守らなきゃって感じの弱々しさがあった。

 私が何とかしてみせるよ。


 でも現実の雪ちゃんはいったい何を抱えているのだろう。

 こちらのユキちゃんからヒントを得られたりするかな?

 しばらく一緒にいれば見えてくることもあるかもしれないね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る