第37話 なんかどんどん夢度が増している気がする

「とりあえず私の家に行くね」

「え、いきなりミュウちゃんのお家ですか!?」


 まだ心の準備が……。


「急に押しかけて迷惑じゃない?」

「私しかいないから大丈夫だよ~」


 ミュウちゃん、この歳でひとり暮らし?

 ドラゴンってそういうもの?

 私をお姉ちゃんにしたのは、もしかしてさみしいのかな。


「よし、行きましょう!」

「わ~い」


 ミュウちゃんが嬉しそうな声を出す。

 うんうん、お姉ちゃんがさみしさなんか忘れさせてあげるからね!


 そしてついに街のそばまでたどり着いた。

 全体に白い建物が並び、海に囲まれたきれいな街だ。


 青と白の世界。

 現実世界でも観光の本とかで見たことがある。

 夢と希望の街もそうだったけど、一度は行ってみたいと思ってたような場所だ。


 この街は島になってて、大陸との間に架かる巨大な橋があり、それもすごく存在感がある。


 夜になるとライトアップされたりするのだろうか。

 もしそうならぜひ見てみたい。

 それにしてもこの楽園は、世界の絶景を集めたようなところだね。


 その街の上空まで来るとミュウちゃんは急に下降を開始。

 絶景に見とれてボ~っとしてたので、びっくりしてお股がひゅんってなった。


 むかう先には噴水のある広い庭園が見える。

 そこにミュウちゃんは降り立った。


「到着~」

「ふぅ~」


 無事に地上に戻ってこれて、ほっと一息つく。

 ミュウちゃんも人の姿に戻った。

 この庭園の隣にある大きな建物がミュウちゃんの家だったりするのかな。


「ねぇねぇ、これがミュウちゃんのお家?」

「そうだよ~」


 でかいな。

 いや、でも人の姿だと大きいけど、ドラゴンの姿だと普通かな。

 ミュウちゃんは子どもだし、大人ドラゴンはもっと大きいだろう。


「そういえばミュウちゃんはどっちの姿が本物なの?」

「どっちってわけじゃないけど、普段はこの姿だよ」

「そうなんだ」


 だとしたらやっぱり大きい家だよね。

 1階建てだけど、すごく高くて2階分くらいある。

 広さも日本の並の家4個分くらいだ。


 まるでお金持ちの家だけど、周りにもこれくらいの建物がたくさんある。

 ここではこれが一般的なのかな。


「さ、家の中に入ろ」

「は~い」


 ミュウちゃんの後について歩いていく。

 ちゃんと玄関から入って、靴を脱いでから家にあがる。


 外観からすると意外なほど普通だった。

 白い壁と明るいフローリング。

 ちょっとお金持ちの大きな家って感じ。


 この世界にこういう家が多いのは私の願望なのかな。


 広い廊下を進んでリビングに到着。

 そこもかなり広くて学校の教室2つ分くらいある。

 なのにキッチンの近くにこたつがちょこんと設置されてるだけの状態。


 本当にここで暮らしているのだろうか。

 私なら逆に落ち着かなくて隅っこにいそうだ。

 あ、だからこんなところにこたつがあるのか。


 しかしこたつか、なんという違和感。

 やはり私の夢なんだなって思う。


「適当に座ってて、お茶持ってくるから」

「ありがとう」


 お言葉に甘えてこたつの前に座る。

 中に入るほど寒くはないけど、とりあえず足を突っ込んでおく。

 ああ、落ち着く~。


 しばらくするとミュウちゃんが温かいお茶とおせんべいを持ってきてくれた。

 なんかおばあちゃんの家みたい。


 私がおせんべいに手を伸ばしていると、ミュウちゃんが隣に潜り込んできた。

 この世界の人ってなぜか対面じゃなくて隣に座るんだよね。


 ミュウちゃんはタブレットを取り出し、それをいじりながら話しかけてきた。


「お姉ちゃんはこの街に何か用事?」

「あ、えっと、スタンプをもらいに」

「スタンプ?」


 私は首をかしげるミュウちゃんにお参りのことを説明。

 すると驚くべき言葉が返ってきた。


「それなら私がここの担当だよ」

「うそ!?」

「本当だよ、ユーノさんに頼まれたから」


 なんという偶然。

 たまたま出会ったミュウちゃんが2つ目のスタンプの担当だったなんて。

 これは本当に偶然なのか。


 ユーノさんの手の平で踊らされている気がしないこともない。

 まあ、実際には助かってるんだけど。


「後でお参り場所まで連れて行ってあげるね」

「いいの?」


「うん、歩いていけるようなところじゃないから」

「へ?」


 そんなに遠いところなのか。

 確かに結構大きな街ではあるんだけど。

 でも歩いて回れないことはない気がする。


「いったいどこまで行くの? 端っこの方?」

「あっちの方」

「屋上?」


 なぜかミュウちゃんは上の方を指さしている。

 ここには2階も屋上もないはずだけど。

 それに屋上だったらすぐに着いちゃうし。


 ……いや、まてよ。

 歩いていけないところじゃなくて、上を指さしている?

 これはもしかして。


「空?」

「うん、そうだよ」


 おお……。

 なんかどんどん夢度が増している気がする。

 そのうち海の中のお城とかまで連れていかれたりして。


「昔は海の底にあったらしいんだけどね」

「なんですって!?」

「それが今では空に浮かんでいるんだから自由だよね」


 それは自由っていうのだろうか……。

 無理やりこじつけてる気がするよ。

 まあとにかく空にある以上はミュウちゃんに頼るしかないよね。


「それじゃよろしくね、ミュウちゃん」

「まかせて~」


 そう言って無邪気な笑顔を見せてくれる。

 とてもかわいいなと思った。


 小さな妹がいるってこんな気持ちなのかな。

 懐かれるのはやっぱりうれしいものだ。

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