第36話 まるでもふもふの毛布のよう

「あ、名前聞いてなかったですね、私はイチゴです」

「私はミュウだよ、よろしくね、お姉ちゃん」

「ミュウちゃんですね、よろしくお願いします」


 挨拶をしながら、その流れに乗じてミュウちゃんの頭をなでてみた。

 髪の毛とは思えない手触りだ。

 まるでもふもふの毛布のよう。


 ドラゴン少女とはみんなこんな感じなのか。

 我を忘れてその感触を楽しんでしまった。


「う~、やめて~」

「あ、ごめんなさいです」


 本当に嫌がってるかはわからない表情だったけど、とりあえずなでるのをやめた。


「あと丁寧語禁止ね!」

「え、私はこういうしゃべり方なんですけど……」


「だめ! お姉ちゃんは妹にそんなしゃべり方しないの!」

「妹?」

「なんでもないの!」


 どうやら私に妹ができたらしい。

 うむむ、もう少し大きくなるのを待って嫁にしたいな。


「それじゃ行こっか!」


 ミュウちゃんはその場でぴょんと立ち上がった。

 その体が光り出し、驚いている間にドラゴンの姿になる。


 子どもだからなのかそこまで大きいわけじゃない。

 私の背よりちょっと高いくらいだ。

 今までイメージとして持っていたドラゴンとは大分違う。


 うろこじゃなくて毛だし、色はクリーム色っていうのかな。

 少し天使のような印象を持つドラゴンだ。

 さっきは驚いたけどけっこうかわいい。


「さ、つかまって」

「その姿でもしゃべれるんだね……」


 ミュウちゃんは背をむけて少しかがんだ。

 まるでおんぶしてもらうみたいで少し恥ずかしい。

 ちっちゃいころ、雫さんにしてもらったことあったなぁ……。


 私はそっとミュウちゃんの背中に抱きつく。

 もふもふな毛が、毛布に包まれているようで気持ちいい。

 まさに天国。


「行くよ~」


 ミュウちゃんの掛け声とともに私の体が宙に浮く。


「お、おお、おおおおおおおおおお~!」


 あっという間に鳥が飛んでいるような高さまで上昇して空を突き進む。

 でも何かに包まれているのか、速さの割りに空気の抵抗が少ない。


 これはドラゴンの能力なんだろうか。

 おかげでまわりの景色を楽しむことができる。

 空から見る水平線はとても感動するきれいさだ。


 この景色を見ていると、自分の存在がちっぽけなものに感じられる。

 頬をなでる風が心地いい。


 ミュウちゃんのもふもふとやさしい風に包まれて、意識がぼんやりとしてくる。


「お姉ちゃ~ん、大丈夫~?」

「はっ、あ、大丈夫大丈夫」


 危ない、ミュウちゃんが話しかけてくれなかったら寝てたな。

 この景色を寝て見逃すなんて、そんなもったいないことしたくない。

 素敵な空の旅を存分に楽しまないと。


 とはいえ、このもふもふに抗うのはなかなかにむずかしい。


「う~、眠い~……」

「大丈夫? 目の覚める方法試してみる?」

「はい~……」


 すでに半分寝てたので、ミュウちゃんの言葉によく考えず返事をする。

 次の瞬間、ミュウちゃんがその場で3回転した。


「……」


 あまりに突然の出来事で言葉を発することもできなかった。


「目は覚めた?」

「うん、覚めた」


 もう寝ないぞ。

 この絶景の空の旅を楽しもう。


 そうして10分くらいすると、むこうの方に街の存在を確認できた。

 あれが自由の街かな。


「見えてきたよ~」

「おお~」


 やっぱりあれで間違いないようだ。

 ようやくたどり着いたか。

 この10分だけで昨日歩いた分より進んだ気がする。


 もっと早くミュウちゃんと出会いたかったな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る