第17話 永久保存です、フフフ

 その後ひとしきり笑って、急にユキちゃんが話を変えてくる。


「そういえば、イチゴさんは旅の人ですよね?」

「あ、えっと、それは……」


 ユキちゃんに聞かれて答えに困る。

 一応そういうことにしてはいるけど……。


「なんか今日から旅って言ってましたよね?」

「そうなんですけどね……」


 モモちゃんにはそう言ったけど、微妙にちがうんだよね。

 なんて言ったらいいか悩んでいると、ユキちゃんがある商品を持ってくる。


「そんな旅の初心者にオススメなのがこちらです!」


 おお……、なんか始まった……。


「お弁当箱?」

「はい、ですがただのお弁当箱ではありません」


 ほぅ、聞こうじゃないか。


「なんとこの中に入れたものは、注いだ魔力が切れるまでずっと保存がききます」

「なんですって!? もしかしてアイスクリームも?」

「はい、溶けません!」


 これはすごい! アイスがいつでも食べられるじゃないですか!


「もしや、このポケットから出てきた明日が賞味期限のいちご大福も?」

「はい、魔力が切れなければ一ヶ月後でも!」


 ブラボー!


「でも、お高いんでしょ?」

「300ユーロぽっきりです!」

「たけぇー!」


 約4万2千円、普通に高かった。

 いや、別に機能を考えれば高いとは言わないけどさ。

 そこは普通のお弁当箱の値段でくると思ったよ。


 でも欲しいなぁ……。

 せめて現実世界での口座のお金があれば……。


「ちょっと待って下さいね」


 私はそう言って、カードのヘルプを確認する。

 どこかに銀行みたいな場所ないのかな?


 マネー関連のヘルプを調べていると、ウォレットという項目が出てきた。

 あれ? 今まで使ってたのは何なんだろう。


 ……なるほど。

 現実世界でのウォレットがキャッシュと呼ばれているみたいだ。

 そして銀行がなくて、ウォレットに預けていると。


 お~! 

 出てきたぞ、私の総資産が!

 その額は……秘密だよ。


「よし、ユキちゃんそれ買います!」

「ありがとうございます~」

「あ、買うんだ……」


 ふふ、買ってしまった。

 とりあえず、このいちご大福を入れておこう。


「あ、ユキちゃん、これどうやって魔力を補充するの?」

「え?」


 普通に聞いただけのつもりが、すごく不思議そうな顔をされた。


「え~? イチゴさん、いままでどうやって生きてきたの?」


 モモちゃんが苦笑いをしている。

 あれ、もしかしてこの世界じゃ当たり前のことなのか?

 呼吸するのと同じレベルか? それとも文字を書くくらいか?


「まぁ、魔法使うの苦手な人もいるよ~」


 ユキちゃんは優しくフォローをしてくれる。

 苦手な人もいる……、どのレベルだ?


「え~? でもイチゴさんって魔法使いじゃ……」


 そういうことか、私がこんな格好をしているからか。

 そりゃ魔法使いが魔法使えなかったら、何者だよって思うね。


「こうやって手をかざすんですよ?」


 ユキちゃんが優しく温かく教えてくれる。


「こうですか?」

「そうです、それから手の平から水を流すようなイメージをしてください」


 そう言いながらユキちゃんが私の手にそっとふれる。


「ひゃっ」


 冷たい!

 この子の手、ものすごく冷たいよ!


「ユキちゃん、手冷たいですよ? 大丈夫ですか?」

「え、そうですか?」

「人の手とは思えないですよ、私の手は温かいらしいので温めてあげます」


 ユキちゃんの両手を包むように握り、温かくなるように擦る。

 優しい温かさをイメージしながらしばらくそうしていると、なんか手にカイロのような温度を感じた。


 うん?

 いくらなんでもこの温度はおかしくないか?


「ふへ~」

「わわっ、ユキ!」


 ユキちゃんは目をグルグルにして後ろに倒れそうになり、モモちゃんが慌てて抱きとめる。


「お?」


 なんだ今のは……。


「モモちゃん……、イチゴさん、危険……」

「ユキー!」

「ふにゃ~……」


 変な声を出しながら顔を赤くしてその場に座り込む。


「えっと……、大丈夫ですか?」

「あ、ユキは雪女なんですよ、なので体温が上がりすぎるとこうなるんです」


 雪女!?

 マジか……。


「でも変ですね、手を握ったくらいでこんなに……」


 モモちゃんは不思議そうにしながら、私がさっき買ったお弁当箱と同じものから氷を取り出す。

 それを大きめの水筒に入れてから、その水筒の中をユキちゃんの頭からゆっくりと流していく。


「ひゃ~、気持ちいい~」


 おぉ~……、なんだこれは……。

 目の前で行われている出来事に理解が追いつかない。


 これは暑い日に水を掛け合うあれのレベル高いやつか?

 それとも新しい愛情表現なのか?


「ふう、もう大丈夫かな」

「ありがとう、モモちゃん」


 確かにユキちゃんの顔色が元に戻っている。

 雪女って本当なのかな。


 確かにあの手の冷たさは寒い日でもないのにちょっと普通ではなかった。

 でも暑い日にあれで触れてもらったら気持ちいいだろうなぁ。


 あ、ユキちゃんの服が濡れて下着が透けてる!

 私は即、心のシャッターを切った。

 永久保存です、フフフ。


「あ、イチゴさん、ちょっといいですか?」

「ひゃい!」

「ど、どうしたんですか?」


 びっくりした、心のシャッターがバレたかと思ったよ。


「イチゴさん、ユキにしたのと同じことを私にもしてみてください」

「あ、はい」


 モモちゃんに従い、同じように手を握り、そして擦る。

 温かくなるようにイメージしながら。

 するとやはりカイロのような温かさを感じた。


「やっぱり……、あ、もう大丈夫です」


 私が手を離すと、モモちゃんがニッコリと笑った。


「なんだ、魔法使えるんじゃないですか」

「え?」


 もしかしてさっきの魔法だったの?

 あの温かくなるのがそうかな?


 試しに例のお弁当箱に魔力を注いでみる。

 残量メーターがついてるからわかりやすいし。


 なんとなく感覚でわかった、流れ出すイメージをしてみる。

 すると一瞬でメーターが最大値へ。


「うわっ、イチゴさん、魔力強いですね~」

「そうなのかな?」

「はい、私なら3分位かかりますよ?」


 マジか……。

 もしかして私すごい?

 もしかしてこの世界って、私にとって最高の世界なんじゃない?


「そういえばイチゴさんってどこから旅してきたんですか?」

「あ~、えっと……」


 モモちゃんに聞かれ、答えに困る。

 これはどう言えばいいのか。

 正直に言っても信じてもらえるだろうか。


「今日から旅って言ってましたけど、この街の人じゃないですもんね」

「へ~、でもこの辺に街ってほかにないけど?」


 モモちゃんとユキちゃんの話が進んでいくけどよくわからない。

 うん、無理!


 正直に話してみよう。

 信じてもらえなかったらその時考えたらいいや。

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