第16話 うん、お汁粉汲みに行くから水筒を買おうと思って

 モモちゃんと二人、私たちが出会った広場までやってきた。


「まずはおやつ! ですね!」

「あ、はい、そうですね……」


 モモちゃん元気だな~。


「イチゴさん! 何か食べたいものありますか?」

「う~ん、何があるのかわからないですし、ここの名物とかあればそれが食べたいですね」

「名物ですか~」


 せっかくだし、ここでしか食べれないものとかあればうれしいな。


「やっぱりお汁粉ですかね」


 それはモモちゃんの好きなものでは?

 あ、ちがう、桃ちゃんの好物だった。


「お汁粉がここの名物なんですか?」

「そうなんですよ~、ここのお汁粉はこのあたりで一番甘いんですよ」


「ほう、それは楽しみですなぁ」

「イチゴさんは甘いもの好きですか?」

「好き~!」


 私は甘いものなら、和・洋問わず好きだ。

 元々は甘いものだけでなく、食べること自体に関心がなかったんだけどね。


 栄養さえ取れてればいい、最低限の食事だけでいい、本気でそう思っていた。

 それが働き始めてからは、ストレスなのか甘いものを求めるようになったんだ。


 そしてよりおいしい甘味を探すようになった。

 人って変わるんだなって思ったよ。


「じゃあお汁粉、汲みに行きますか」

「はい……、うん?」


 今、なんて言いました?

 汲むって聞こえましたよ?

 え、どっかに湧いてるの?


「どうしたんですか? ボ~ッとして」

「えっと、その……」


「あ、水筒持ってないんですか? じゃあ先に買いに行きましょうか~」

「は、はい……」


 なんだか頭の中の整理がつかないままに、モモちゃんに連れられていく。

 着いたのは、ものすごくファンタジーなアイテムショップ。

 この街の雰囲気からは完全に浮いている外観だ。


 モモちゃんが入り口の扉を開くと、カランカランと鈴がなった。

 あ、なんだか魔法ショップって気がする!

 ……私だけ?


「いらっしゃいませ~」


 店員さんらしき声が聞こえる。

 すごくかわいい声だなぁ。


「あ、モモちゃんだ~」

「やっほ~、ユキ~」

「雪ちゃん!?」


 ここでまさかの雪ちゃん登場。

 まあ、ユキちゃんなんだろうけど……。


「あれ? イチゴさん、ユキと知り合いなんですか?」

「あ、いえ、ちょっと知り合いに似てたので」


 ここまで私の知り合いばかり出てくるとなると、やっぱり私の夢なんだよね……。

 それより雪ちゃん、声出てるじゃない。

 すごくかわいい声だよ、よかったね……。


 感動で少し目が潤んでしまった。


「で、今日はどうしたの? 何かお探し?」

「うん、お汁粉汲みに行くから水筒を買おうと思って」

「そうなんだ、それならね~」


 モモちゃんとユキちゃんが水筒選びを始める。

 う~ん、やはりユキちゃんも『お汁粉を汲む』ということに疑問を持っていない……。


 お汁粉の泉があるのかな? それとも源泉みたいなところがあるとか?

 ふむ、なんだかワクワクするじゃない。

 この目で確かめさせてもらおう。


「これなんかいいんじゃないかな」

「あ、かわいい」


 ユキちゃんが持ってきたものは、ピンク色でいちご柄の水筒だった。


「これすごいんだよ、一週間経っても温かいままなんだ」

「へぇ~、すごい!」


 確かにすごい。

 一週間も水筒に入れっぱなしにしたことないけどね。

 そんな長い間保温できるのか。


 見た目かわいいのにやりますね。

 それにいちご柄はポイント高い。


 ちなみに私の下着もいちご柄だよ、えへっ!


「どうですか? イチゴさん」

「はい、私これ気に入りました、買います」

「ありがとうございます!」


 私は決済を済ませて水筒を受け取る。

 これからよろしくね!


「あ~! 私がプレゼントしようと思ったのに~!」


 私が自分で水筒を購入してしまったことにモモちゃんが不満そうな声を出す。

 ありゃ、やってしまった。

 せっかくモモちゃんが私にプレゼントしてくれようとしたのにもったいない。


「ご、ごめんなさいモモちゃん……」

「む~」


 モモちゃんが頬をふくらませている。

 その表情がかわいくて、私は顔に出さないように心のなかで喜んだ。


「あ」


 モモちゃんが何かを見つけて、そちらにむかっていく。


「イチゴさん! かわりにこれプレゼントさせて!」


 その手に持っていたのは、大きないちごの形をしたハットピンだった。


「あ、かわいいですね」

「これ、イチゴさんのそのフードにつけていいですか?」

「はい」


 モモちゃんはその場で決済して、私の隣に来る。

 フードにハットピンを付けて、それを私の頭にかぶせた。


「どうですか? 似合ってますか?」


 私からは見えないので、ふたりに感想を求める。


「すっごく似合ってますよ、ねっ、ユキ」

「うん! なんかちっちゃい子みたいでかわいいですよ~」


 ちっちゃい子って……。


「なんか失礼ですよ~?」


 私が「む~」と膨れていると、ふたりが笑い始める。


「あはは、かわいいです~、こどもみたい~!」

「むむ~」


 なんだか恥ずかしくなってきた……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る