Answer13・姉妹特訓
これまで自分が死んだ事について理解はしていたけど、納得はしていなかった。でも、自分の生前を思い出した事により、そのあたりも含めて私は納得をした。
私の中で最大の未練だった妹のちえりが、私の心臓を移植されて元気に生きている。それが分かっただけでもう、私は次のステージへと向かう事はできたと思う。
けれど、ほんの少しだけ自分の中に残っている未練を、我がままを叶える為に私はこの世に残った。
「これはどうやるの? お姉ちゃん」
「えっとね、これは――」
ちえりが花嵐恋学園の入試を受ける時の為に私が作成していた受験対策ノートが役に立ったからか、ちえりは無事に花嵐恋学園へと入学する事はできた。けれど、相変らず勉強が苦手なのは変わっていない。
まるで私が生きている時に病院で勉強を教えていた時のように、ちえりは難しい表情を浮かべて問題と向き合っている。
「――ああー、なるほど!」
私の説明を聞いて納得できたのか、ちえりはウンウンと頷きながら問題を解いてノートに解答を書き込んでいく。
「そうそう、やればできるじゃない」
「お姉ちゃんの教え方が上手だからよ」
「ふふっ、ありがとう。でも、褒めたからって私は手を抜かないからね?」
「はあっ……お姉ちゃんは相変らず厳しいなあ」
そんな事を言いながらちえりは溜息を吐くけど、それでもどこか楽しそうに表情を
あの屋上で話をした日以降。朝はちえりと一緒に花嵐恋学園へと向かい、授業中は一緒に勉強を聞き、お昼休みには屋上でお話をしながら過ごし、放課後には一緒に自宅へと戻り、私が領域へと戻るまで談笑したり勉強を見てあげたりしながら過ごしていた。
ちえりの生活の事や友人関係の事を考えれば、私のしている事は良くない事だと思う。だから私も、極力お友達とのコミュニケーションの邪魔だけはしないようにと注意している。
そしてそんな緩やかで穏やかな日々が三週間くらい続き、十月に入ってからしばらくした頃の日曜日。
今日は学園も休みという事で、私とちえりは自宅の最寄り駅から一駅離れたところにある市民体育館へと朝から来ていた。二週間後に行われる球技大会で、ちえりが出るバスケの練習をする為だ。
「――ちえり、大丈夫? 無理しちゃ駄目だからね?」
「もう、お姉ちゃんは心配性だなあ。無理なんてしてないから、しっかりとフォームを見ててよ」
「はいはい」
ちえりは苦笑いを浮かべながらそう言うと、額に浮かんだ汗を手首に付けたサポーターで拭ってからバスケットボールを構え、十分に膝のバネを利用してからボールを投げ放つ。すると放たれたボールは綺麗な
「うん。だいぶいい感じになってきたね」
「本当?」
「うん。膝の使い方も良くなってきてるし、あとはディフェンスを前にした時に身体の軸がぶれないようにすればいいかな」
「なるほど。それじゃあお姉ちゃん、ディフェンスに立ってくれないかな?」
「いいわよ」
私はその要望に応え、ミドルレンジシュートのディフェンス役として両手を上げて立ちはだかった。ボールを持ったちえりがドリブルをする度に、体育館にはその音が大きく響く。
ちえりが今練習しているのはワンハンドショットと言って、
ちえりも例に漏れず昔から両手打ちなんだけど、数日前の夜、なぜか急に思い立ったかのようにしてワンハンドショットの練習をしたいと言い始めた。
何で急にワンハンドショットの練習をしたいと言い出したのか、それは今でも分からない。
「さあ、おいでちえり!」
「行くよ! お姉ちゃん!」
軽快にボールをドリブルしながら、ちえりが私の方へと向かって来る。
私が生きていた頃、ちえりが病気で本格的に入院をするようになるまでは日常的にこんな事をしていたけど、それはもう、遠い昔の事。
「ディフェンスを意識し過ぎてフォームが雑になってるよっ!」
「ごめん、お姉ちゃん! もう一回お願い!」
ちえりはそう言ってから再びボールを持って距離をとった。
本当はもう少し色々と練習の幅を増やしてあげたいところだけど、実体の無い私にできる事はそう多くない。でも、できる範囲の事でちえりの練習に付き合ってあげたいとは思っている。
「シュート体勢に入ってからボールを放つまでのタイミングが早いわよ! ジャンプの最高点に達した時にボールを放つ感覚を忘れたら駄目!」
「うん!」
この日、私とちえりは久々に姉妹でバスケットの練習に打ち込んだ。
ちえりの身体が平気か何度も心配にはなったけど、久々にやる姉妹でのこうした時間は嬉しくて楽しかった。こうしてこの日から球技大会が行われる二週間後まで私はちえりの特訓にみっちりと付き合い、ちえりは見事にワンハンドショットをものにした。
そして迎えた球技大会当日。
私はちえりが一生懸命にワンハンドショットの練習に打ち込んでいた理由を知る事になった。
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