第7話「ハンサムに見える薬」

「博士、僕ってブサイクですか?」と唐突に富田林が尋ねた。

「いやー、十分イケメンじゃないかね」と博士は答えた。

「じゅうぶんってのが、やはりイケメンじゃないってことですね」と肩をがっくりと落とした。

「『ハンサムになる薬』なんてないですよね」と富田林は尋ねた。

「『ハンサムになる薬』はないが、『ハンサムに見える薬』ならあるんだが」

「なんですって! あるんじゃないですか! 僕にください」

「あげてもいいんだが、私が五十年の歳月をかけて……」と博士が言いかけたところで、

「薬品棚ですね」と言って、そそくさと部屋を出て言った。


「博士、ありましたよ。どれどれ、ハンサムになったかな」と鏡を見に洗面所に入って行った。

「いや、それは君が飲んでも……」と言いかけたとき、

「うひょー! ちょーハンサムになってるじゃないですか!」と洗面所から富田林の喜ぶ声が聞こえた。

「博士、ありがとうございます! じゃ、さっそく、女の子のところへ行ってきまーす!」

 富田林は博士の話もろくに聞かずに、研究室を出て行った。


「まったく、富田林くんはあわて者だなぁ。あの薬を飲んでもハンサムになるわけじゃないのに」と博士はつぶやいた。


 薬は「ハンサムになる薬」ではなく、「ハンサムに見える薬」なのだ。つまり、飲んだ人がハンサムになるわけではなく、薬を飲んだ人が見た男性は、皆、ハンサムに見える、という薬なのだ。富田林助手は鏡で見た自分の顔がハンサムに見えただけで、他の人から見れば何も変わらないわけである。


「相手に飲ませなければ、何にもならんのに」と博士はもう一度つぶやいた。


 しばらくして、富田林助手が帰ってきた。

「博士、こんなにハンサムなのに、全然モテません! なぜですか?」と言ったあと、富田林は博士の顔を見て驚き、次にこう言った。

「博士! 僕よりハンサムになってるじゃないですか! そっちの薬をください!」

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