第6話「綺麗になる薬」
博士は五十年の歳月をかけて、「綺麗になる薬」を開発した。
これは、いつの世も女性は美を意識している、という世の中の常識を反映させて、長年にわたって研究を重ね、開発された。もっとも、博士自身は美女だろうがブスだろうが、女性というものに関心がなく、薬の研究と開発にしか関心を示さないのではあるが……。
博士はさっそく、薬の成果を試しに町へ出た。そして、ひとりの女性に声をかけた。
「お嬢さん、あなたはブスだから、この薬を飲みなさい。そうすれば美人になれます」と単刀直入に言った。
するとその女性は怒りをあらわにし、右の手を振り上げて博士の頰にピシャリと平手打ちを食らわせた。
「失礼ね!」
博士は、「せっかく綺麗になれるのに」と女性の行動を不思議がっていた。
博士はさらに、別の女性にも声をかけた。しかし、結果は同じ。やはり、平手打ちを食らい、薬を試そうという女性は現れない。
博士はその後も四、五人の女性に平手打ちを食らい、顔の右半分が腫れていた。
「そうか! ブスなんて言葉を使うからいけないんだ!」、博士はようやく気がついた。
「お嬢さん、あなたはブサイクだから、この薬を飲みなさい」
「お嬢さん、あなたはヘチャムクレだから」
「モテない顔だから……」
「美人ではないから……」
いろんな言い方で女性に薬を勧めたが、平手打ちどころか、鞄をぶつけられたり、拳で鼻を殴られたり、回し蹴りされたり、散々女性たちに叩きのめされた。
博士の顔は腫れ上がり、鼻血を流し、前歯は折れ、ひどいありさまにになった。
博士は仕方なく、薬の効果はを試すことは諦めて、研究室に帰った。
「博士! どうしたんですか? その顔は?」、助手の富田林が心配して尋ねた。
「いやー、『綺麗になる薬』を試してもらおうと思ったんだがね……」と、成り行きを説明した。
「それより、病院に行きましょう。その顔はひどい!」と富田林が言うと、
「いや、大丈夫だ。薬がある」と博士は言って、『綺麗になる薬』をゴクゴクと飲んだ。
すると、赤く腫れ上がっていた顔が、みるみる元どおりの綺麗な顔に戻っていった。
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