第4話「死なない薬」

 博士は五十年の歳月をかけて、「死なない薬」を開発した。これこそ、彼が、いや、全世界の人々が待ち望んでいた薬だ。これさえ飲めば「死なない」のである。


 博士の人生の半分をかけた「死なない薬」は、入手困難な材料や非常に手間がかかる製造工程のため、完成品はたった1錠だけだった。


 博士はさっそく、たった一錠の「死なない薬」を飲んだ。

「おー! これで私は死なないのだ!」、と満足感でいっぱいだった。しかし、薬を飲んだところで何も起こらず、普段と何も変わらないのだった。

「博士、『死なない薬』の完成おめでとうございます」と助手の富田林くんが言った。

「富田林くん、ありがとう」と博士は答えた。

「永遠の命を得たわけですね」

「いや、そうではない。薬というものは、効き目が継続する期間があるのだよ」

「では、その薬はどのくらいの間、効き目があるのですか」

「それを今、試しているところだ。五年か、七年か、十年か、私の寿命が来ても死ななければ、薬が効いているということだ」

「では、博士の寿命は何歳ですか?」

「それがわかっていれば、寿命の一年前に飲むのだが。もし、私が死んだら、その五年か、七年か、十年か前が私の寿命だったということになる」

「なるほど、それで薬の効果は五年か、七年か、十年だということがわかるのですね」

「そういうことだ」

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