菜園
ユウ
第1話
ウグイスが心地よさそうに鳴き、そよ風が葉を揺らすカサカサという音が辺りを埋める。
空はすっかり澄み渡り、空気がとてもきれいなことが分かる。
正雄と幸子老夫婦はそんな場所にたどり着くと、ほっと一息つきしばしその風景を楽しむ。
その二人は、もはや阿吽の呼吸で、正雄が立つと、幸子も立ち、言葉を交わさなくても二人して作業を始めるのだった。
幸子は目立つ草をあらかた取ると、籠を取り出し、収穫に取り掛かる。
そして、青々と茂り、柔らかそうなシソの葉を見つけると摘み、また見つけては摘む。
続けて、赤々と実るトマトに、少し不格好なキュウリやナスを見つけては摘み取っていく。
貧しい正雄と幸子にとってはそこは宝庫だった。
一生懸命育てれば、おいしくて立派な作物がたくさんなる。二人にとってその見返りは大きく、また、まるで子育てをしているようで楽しむこともできるのだった。
正雄は畑に肥料をばらまくと、鍬を振り上げ、ゆったりとした動作で耕していく。
鍬自体は重かったものの、土は柔らかく、振り下ろせば、サクッとという音を立てて、土に先が入り、苦になるようなことはなかった。
振り上げては、サクッ、振り上げては、サクッと繰り返し、立派とは言えないけど、野菜を育てるためのタナを作り上げていく。
次第に、正雄の額からは汗が溢れ、頬を伝うと地面にピタリと落ちる。
正雄は手拭いで汗を拭うと、また作業を始めるのだった。
その間幸子は水を撒き、ホースから出る水の近くには小さな虹ができ、しばし心を癒されるのだった。
また、葉につく水滴は陽の光を受けてキラキラと輝き、それもまたきれいだと思えるのだった。
相変わらず、畑を耕していた正雄がちょっとした異変に気付く。
鍬の先が堅いものに当たり、うまく耕すことができなかったのだ。
土の中に、石ころなどがあることはよくあることで、それだろうと思い、正雄は近くの土をどかし、その石を取り出そうと試みる。
鍬でそこらをこそぐと、カッと鍬が当たり、案外その石が大きいことが分かる。
そこで、正雄は丁寧に、ゆっくり土をどけていくと、そこから箱のようなものが姿を現す。
正雄は首を傾げた、なんでこんなところにという具合に。
そして、丁寧に掘り起こすと、またゆっくりとした動作でそれを手に取り、開けようとするも、それは案外堅くなかなか開いてくれない。
仕方なくグッと力を入れると、ボコッという音を立てそれは開く。
すると、その中には、紙幣や輝く首飾りに、宝石のはまった指輪までもが見受けられる。
正雄は驚き額からは先ほどとは違う冷や汗が流れる。
「母さん、大変だ」
正雄の胸は高鳴った、これがあれば、今までの貧しい生活も少しは和らぐと、孫たちにもきっと満足してもらえるようなこともできると。
正雄の頬は緩み、その目はわずかに潤みだす。きっと天の思し召しだと。
正雄は今までの苦労を思い出していた。貧しい食事に、息子が嘆くも欲しいものも買ってやれず苦労ばかり掛けてきた。
そんな光景が正雄の脳裏をめぐるのだった。
やがて幸子が正雄の元にやってき、幸子もまたそれを目にするのだった。
そして幸子の顔色もだんだんと変わっていく。
「母さん、これ」
「父さん、あんた、それ」
「私のへそくりや」
菜園 ユウ @yuu_x001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます