押し入れに住む人魚
ロゼマカヌラ
第1話
「疲れた...」
そう呟いては目の前にあるスーパの裏口から歩いている
僕、
冬の訪れを待っていながら虫の死骸が道端に転がり出す秋の静かな夜に
もう随分と廃れて閉まった商店街を歩けば
電気屋がシャッターを下ろしかけている
飾られたテレビに映る時間は午後10時
そろそろご飯の時間だなと思ってしまうも
ほんの少しだけ考え事をしながら歩いたらもう着いてしまう
明かりの灯らない家を目の前にして察した
「ただいまー」
返事はない。
ここにはもう居ない母親の面影もなく、外に出かけたのだろう
母と2人で暮らしている3LDKもある家で何も音がしないのは随分前のことで自然と怖いという言葉が出て来てしまう
BGM代わりにテレビをつけてはCMに入った物ばかりで詰まらなそうに台所に立つ。
水道から出る水をグラスに注いで口に運べば
多少の疲れも吹き飛んでいく
いつも通りテーブルに置かれた置き手紙と共に置かれた弁当に目が行く
手紙を開けると書かれている言葉はいつも同じで「ごめんなさい」の文字
「もう要らない」
その言葉に食べる気が失せた、かと言ってこのまま置いていても誰も食べずに腐っていくのは勿体ない
早川は弁当を手に持つと
ギシギシと音を立てる木造の階段を登って行く
薄暗がりの2階にある右手の部屋は僕の部屋である
扉を開けば6畳の空間には平凡がある
ただベッドと勉強机に引き戸の押し入れがあるだけだ
本の1冊も転がっていない整えられた部屋はもはや僕の部屋とは言い難い物なっている
理由は1つ。押し入れを開けば異質
少し大きめのこの場所には人の足を伸ばせる程度の水槽が用意されており、その中に
少女というか人魚が住んでいる
痩せ細った青いヒレを丸めて少し破れた白いワンピースから覗いたのは青く彩られたアザのできた体
扉を開ける度に震えて僕を見て安心したように溜息をつく。
その意味も、何がそんなにさせているのか僕は知らない
「ご飯、よかったら」
自分用として置かれていた弁当
暖かくもないし美味しいかと言えば思わず首を横に振るぐらいだ
なのに彼女は無言で弁当をかっさらうように食べ尽くしていく
どうやら彼女は言葉が話せないようで名前も知らない。人魚なのに海に行こうとはしない
理由も知らない僕はただ呼吸の音だけ、知っている
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