灼炎の精霊使い(サラムマスター)-ばうんてぃえぴそ~ど・えふぇす-

さる☆たま

灼炎の精霊使い(サラムマスター)

第一幕 秘密結社の少女


「なんだいこりゃ?」

 いぶかしげに片眉を跳ね上げ、ロゼリッタ・ヴルゴーニは手渡されたその紙切れを鋭い目つきで眺める。

 腰の先まで無造作に伸ばした紅蓮の髪を掻き毟り、琥珀の瞳のその先でジリジリと火花を散らしていた。文字通りの意味で。

「積み荷の場所だよ。そんなことより……」

 その老齢の男はじっと少女を見つめながら、しかしどこか心許ない様子で白の混じった口髭を弄っている。

 彼が何を言いたいのかは大体見当が付いている。

「いやな、わしも長年この仕事をやってきたが……その……まさか、こんな可愛らしい娘さんが来るとは思ってもいなかったからな」

「はっきり言ったらどうだい。『こんなガキで大丈夫か?』って思ってんだろ?」

 そう言って睨み付けるロゼリッタの容姿は余りにも幼く、安心して『仕事』を任せられないと思うのは当然の反応だろう。

 ましてや、ここでいう『仕事』というのは頭に「裏の」が付くようなヤバい橋だ。

 子供の使いで済む話ではない。

「あんたが『死の商人カーラヴァヌ』と呼ばれる大陸屈指の闇商やみしょうだってぇのは解ったよ。けどな、品を観る眼は肥えてても人を見る目は三流かい? あたいを良く見てから判断するんだね」

 言い終えた途端、ロゼリッタの右手の先で紙切れが赤々と燃えだした。

「な、一体何を……」と尋ねる男。

 その言葉はロゼリッタが「どうやって火を点けたのか?」を問うものなのか、「どうして紙を燃やしたのか?」を責めるものかは判らないが、しかし彼女はどちらにも答え得る言葉をその場で吐き出した。

「こんな紙切れだから、あたいの能力ちからで消し炭にしてやったんだよ」

「まさか、発火能力者パイロキネシストか……」

「ちっちっち」と人差し指を左右に振りながら、彼女は名乗った。

「あたいのことは灼炎の精霊使いサラムマスターって呼ぶんだねっ!」



 秘密結社サリーミッション――この『大陸』の「闇」を統べると言われている巨大組織で、一部の都市では政府要人の何人かがこの『結社』に加わっているとまで言われている。

 その『結社』が戦闘要員として育て上げたのが、超能力者サイヴォーグと呼ばれる人工的に潜在能力を底上げされた少年少女達だ。

 その開発方法は多岐にわたるが基盤となるのは魔道学まどうがく――精神科学を軸にして物理このよとは別の理を導き出す学術――で、その理論を利用して脳波を通常とは別の精神世界チャンネルに合わせることで思うだけで現実をゆがめる力を操ることができる人間を作り出す実験を繰り返していた。

 もちろん、その実験内容は非人道的で人前で口にするのもはばかれる物ばかり。

 そして彼女もまた、そのおぞましい実験の被験者の一人だった。

「話は終わったんですかい?」

 少女が部屋を出たところで、若い男が待ちくたびれた様子で訊ねた。

 蒼いニーム生地のジャケットにズボン。その下に白い襟付きシャツと蝶ネクタイという風変わりな格好をしていた。

「ああ、つまんねえ仕事だよ」

「どんな?」

「この先のスラムを抜けたトコの倉庫街に置いてある『荷物』をダインバーグまで運べ――だとさ」

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