俺が異世界転移から帰ってくるといつも幼馴染がやかましい
大塚零
第一話:幼馴染、清水千歳はやかましい(紹介編)
1-1:天使、降臨する
――爆発音と衝撃が街に響き渡った。
付近の住民たちは一瞬だけそれに驚くが、いつものそれに気付くとまたかと呆れて元の生活へと戻っていく。
その中で住民たちの何人かはこの事態の元凶たる――かなた荘へ方と視線を向けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カンカンカン、とアパートの階段を一人の少女が駆け上がっていた。
よほど急いで飛び出したのだろう、少女の姿は部屋着にコートを羽織ったそれだ。走ってきたため髪はボサボサである。
少女が爆音と衝撃の源と思われる部屋へと向かうとそこは惨憺たる有様だった。
まるで何かが内側から爆発したようにアパートは歪み、窓ガラスは割れ、部屋の扉は吹き飛んでいた。少女が階下に目を向けると扉だったものが見える。
少女は息を切らしつつも、勢いそのままに中にいるであろうその人物へと叫ぶ。
「か、一馬ぁ――っ!? またあなたねぇーっ!」
「悪い悪い、千歳。ただいま帰ったぜ」
少女、千歳から一馬と呼ばれた少年は部屋の中心、さながら爆心地のようになっているその場所で、なんでもないように胡座をかいて平然と挨拶を返してした。
年の頃は十七歳だろうか、一馬は全身を黒一色のこの世界のファッションから逸脱した服装に身を包んでいる。はっきりって何かのアニメのコスプレのようだった。
千歳は一馬のその態度に呆れて怒る気力が萎えつつあったが振り絞り、声を張り上げる。
「悪い悪い~でも、ただいま~でも、ないわよ。またこんなにしてーっ!」
「いや、ちゃんとこのボロアパートは直すから許してくれって……ほら、【
「そう! いう! 問題じゃなーいっ!」
一馬は千歳に怒られながらも軽く指を振ると辺りは光で包まれ部屋を一瞬で修復、元の形へと戻していた。
爆心地じみた惨状と化していた室内はごく普通の一般的な男子高校生のものへと戻った。ゲーム機と着替えが散乱している小汚い生活感溢れるそれへと。
しかし千歳は声を張り上げて、一馬へと注意する。違う、そういう問題じゃないと。
「毎度毎度、一馬が大きな音出すから苦情だって来てるんだから反省しなさい! それと他のところを直してくれたのはありがとう、でもボロアパートって言うな」
全く反省の色が見えない一馬を注意しながらも、感謝するところは感謝する。評価するべきところは評価するのが千歳という少女の美点だった。
一馬は千歳の注意を受けつつ、分かったと手を打つ。
「おう、分かったって。次は【
「あ、あのねぇ……一馬、そういうことじゃなくって……」
その答えに千歳は頭が痛くなった、一馬が
他人に迷惑をかけなければいいと言えばその通りなのだが――違う、そうじゃない。
「……で、その子は?」
千歳は一馬の膝の上で寝ている少女――明らかにこの世界とは異なる世界の存在に意識を向けた。白い羽を生やした金髪の可愛らしい少女。
少女は今の季節では見ているこちらが寒くなるくらいの薄着、簡易なワンピースに身を包んでいる。
おそらく無用な心配ではあると思うのだが千歳は一馬のベッドから毛布だして少女にかける。
「ああ、これ? 敵の本拠地の……『
「つ、ついてきちまった……て、もうっ、本当にもうっ!」
一馬という少年はなぜいつもいつもそうなのかと千歳は頭を抱えた、大いに抱えた。
そんなコンビニでついでにお菓子を買ってきたみたいな調子で女の子を連れ込むんじゃあない、と思う。少女も少女、幼女を連れてくるな。
話題の中心たるの幼女、もとい天使はそんな千歳を知ってか知らずかその目を擦りながら開いて、ぱちぱちと瞬きした。
「ふぇ、カズマ……? ここ、どこ」
「あ、起きたかシャル。ここは俺の世界でかなた荘ってボ……アパート。あとコイツは千歳」
ざっくりと一馬は天使の少女、シャルに説明する。思わずボロアパートといいそうになってしまったが千歳が睨んでいたため引っ込めてしまった。
一馬から紹介された千歳はしゃがみ込み、シャルに目線を合わせてからこほんと咳払いをしてから、
「えっと……シャルちゃん? 私、清水千歳。よろしくね」
「……むぅ」
挨拶とともに千歳は握手を求めた。だがシャルは一馬に身を寄せたまま千歳を訝しげに見つめるだけだった。
千歳を映すシャルの蒼い瞳は友好的なそれではない、かといって敵対者に対するそれでもなかったのは不幸中の幸いと言えよう、
とはいえ千歳の手は空を掴むだけとなった。感情の空振りはあまりに虚しい。
「がーんっ……き、嫌われたかな? 一馬ぁ……」
幼く、可愛い少女に拒絶されて千歳はショックを受けていた。可愛いものが好きな千歳にとってそのダメージは大きいものだった。
大声を出しすぎて怖いと思われてしまったのか、それとも一馬に懐いているところから叱る自分を嫌いなものと判別してしまったのだろうかと千歳は悩む。
思わず千歳は一馬に泣きついてしまいそうになるが――違う、そうではない。と気を引き締め直す、そのことについては後で聞こうとも思い直す。
「って、じゃなくてっ。ねぇ、一馬シャルちゃんどうするの?」
「いや、どうするもなにもついてきちまったんだから面倒見るしかないだろ」
と、なんでもないことのように一馬はいいのけた。それは聞いている側が間違っているのかと思う清々しさでもある。
そんな犬とか猫とかじゃないんだから、と千歳は思うが相手がそもそも一馬である。いくら騒いだところでどうしようもないので諦めるしかなかった。
それにこんな風に一馬が女の子を連れてくるのはもう五度目なのだから、その事を考えると千歳は頭が痛くなる。
「あ、あのねぇ……一馬、あなたって人は」
「ほらほらー、こんなに小さな子、それに天使をお前はそこら辺に放り出せってのか? 無理だろー、人として~」
「も~~っ! そういう言い方やめなさい!」
だから、せめて、無駄だと分かりつつも千歳は一馬に抗議しようとしたのだが先に人の道理を説かれてしまっては何も言えない。
千歳としては非常識な一馬に人の道理など言われたくなく、言っていることは最もであるが腑に落ちいのだから。
「え、なになに~。カズマ帰ってきたの~?」
「カズマーッ! 帰ってきたのならまず我に報告をせぬか!」
「お帰りなさいませ、一馬様」
「カズ、おかえり! もう、行くって言ったらついてったのに~~!」
一馬と千歳が言い争っていると扉の向こうからこのかなた荘の住人たる四人の少女部屋の覗き、それぞれ思い思いの言葉を一馬にかけてくる。
だらしのない顔が、プライドの高そうな顔が、品位の伴う優しそうな顔が、明るく元気な顔が、彼女達の気質は全員が違えどそこにある表情はいずれも一馬が帰ってきたことを喜んでいた。
だがこの少女達は普通の少女ではない――天使たるシャルと同じように異世界の存在である。
それは人へと姿を変えてはいるが誇りたる竜の角を生やした
それは赤い瞳に悪魔じみた角、仰々しいコスプレじみた衣装に身を包んだ魔王であったり。
それは特徴的な長い耳に長い金髪の髪のエルフであったり。
それは人のものではない獣の耳を生やした獣人だった。
だが千歳はそれを気にもとめずに一馬に向き合っている。
「よ、ただいま帰ったぜー! お前ら、千歳に迷惑かけてなかったか?」
「ちょっと! 一馬が一番、私に迷惑かけてるんだからね!?」
そして一馬の自分を棚に上げた言動に思わず千歳は突っ込んでしまう。
その直後、千歳はため息とともにそれを呟くのだった。
「あ~、もう! どうしてこんなことになったのかなぁ……っ」
かつて
そうなった
この物語の主人公は
――しかしこの物語は彼のものではない。
この物語は一馬のそばにいるごく普通の少女である
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