21 お茶会まであと何分?

※この小説には☆表記が多用されています。

予めご了承ください。



■□■




「すっごいナー。あんなに運命が絡まった子は初めて見ましたヨ☆」



魔法をかけたオペラグラスで覗いた先に見えたのは依頼人の想い人。

その想い人には身体中を覆うような黒い糸が見えた。

十中八九、依頼人が巻き付けた執着と束縛の糸。

まるで蜘蛛の糸だねー☆

なんて依頼人に聞かれないくらいの小さな声で他人事のように呟いて。



「で。ワタシはあの子に絡み付いた糸をより強固なものニにすればイイんですネ☆」


「話が早くて助かるな。出来るか?」


「リスクもそれなりだって承知しててくれるナラ喜んデ引き受けますヨ☆」


「…リスク?」


「運命の黒い糸って云うのは案外脆いモノなんですヨ。もしもアノ子がアナタ以外に揺れた場合『永遠』は保証しかねマス☆もちろん逆も然りデス☆」



最終的に決めるのは運命じゃなくて本人ってやつデスカラー☆


そう依頼人の青年に言えば青年はニヤリとどこかの国の猫みたいに笑った。

ああそう言えば。あの猫にも最近会ってませんネ。

この仕事が終わったらお茶会にデモ行ってみまショウ。



「ハッ。構わん、どうせ何も変わらなんからな」


「ソウデスカ☆」



自信満々に言う依頼人に対してニコリと道化のように笑う。

上等なスーツを纏った青年は懐から紙とペンを取り出しサラサラと何かを書き出した。



「この額でどうだ」



何を書いているのかと思えばワタシに払う額だったらしい。

小切手にはこの国の平民が一生をかけてやっと手に入るような金額が綴られていた。

運命を強固にする為だけにそんな額をポンッと出す依頼人に呆れを抱きそうだ。

まあ、ワタシはお金さえ払ってくれたらソレでイイんだけどー。


小切手に書かれた金額を見て、彼女の運命を弄る事に果たして釣り合うかを考える。


ヒト一人の運命。

運命の糸の先は目の前の青年に繋がれている。

頼まれたことは二人の運命をより強固なものにすること。

それこそ未来永劫離れられないくらいの太い太い簡単には千切れない糸を。

ううーん…。



「……分かりマシタ。ワリに合う額なようデスシ☆お引き受けシマス」


「ならこれから頼む」


「ハイ☆お任せクダサイ」



言うだけ言って立ち上がった青年に対して営業スマイルを浮かべて見送る。

青年は妙に上機嫌な様子で店を出ていった。


ふう、と一息。

そしてもう一度オペラグラスで依頼人の想い人を見る。


もし具現化していたなら窒息しかねない量の運命の糸をグルグルと身体に巻き付けられた彼女。

何度見ても隙間はなさそうに見える。

けれどよくよく神経を澄ませてみれば、たった一本だが他の糸とは種類が違う細い糸が見えた。

その一本の糸は細いながらもしっかりと左手の薬指に巻き付いていた。

くふり、込み上げた笑いを堪えてもう見えない青年を内心で嗤う。


ワタシが掛ける呪いで彼女はなんの滞りもなく依頼人の手に落ちるのだろう。

けれど人は移ろいやすい生き物だって知らないのかしら?



「未来のアナタがカノジョを想っている確率は必ずしも100%じゃないんデスヨ☆」



そもそも運命の糸を弄るだなんて行為自体、相手を信じてないって言ってる様なものなのに。

そんな脆い感情で糸だけを巻き付けて、ワタシなんかに呪いを頼んでしまった。


運命は一秒一秒変わっていくのにね。

ワタシの元にアナタが訪れたことで運命は変わった。

左手の薬指にある糸は彼女の指には本来違う、つまりは依頼人のものがあった。

けれど今は違う。

しかもよりにもよって『永遠』を結ぶ左手の薬指に違う人間の糸が結ばれている。

それの意味することは一つ。



「永遠は一度でも疑ったら訪れない」



それが分からなかったアナタには彼女との永遠は永劫ないのデショウね。

話が違う?いえいえワタシはちゃあんと『リスク』があるって言いましたヨ。


恨むなら彼女を疑った自分にしてクダサイネ。

ワタシは言われたことを言われたままにやってるだけで、その後に関しては一切合切かんけーアリマセンから☆



「さて。さっさと片付けて美味しい紅茶デモ飲みに行きまショウかネ☆」



くふりと笑って、ワタシはオペラグラスを置いた。

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