15 大嫌いだ

「なあ?」


暗い部屋の中に無感情な声が響く。


「これがお前の望んだ結末か?」


台本の台詞を読み上げるようなさらりとした心無い、心を忘れたような言葉。


「だとしたなら――大失敗だ」


両手を上げて大袈裟に振る舞う。

カツンカツンと靴音を鳴らして近付いたのは、皺ひとつ無いベッド。

そこにゴロリと横になると天井を仰いだ。

睨み付けるように見上げるくせに、その目には何も映ることはない。


「お前は『ボクが泣く』だなんて言っていたけれど、ボクは泣いてなんていない」


呟いた言葉は部屋に溶ける。

誰かに向けて話して居るのに、その誰かは見当たらない。



何処にも居ない。

ボクの許可も無くお前は何処かに行ってしまったから。


「お前なんて大嫌いだ」


『大嫌い』の言葉に笑ってくれないお前なんて。

お前を守ることすら出来なかったボクなんて。


「お前が居なくなって、せいせいする」


本当だ。本心だ。

何が『ボクの泣いた顔が見たい』だ。

笑いながら言いやがって。

ボクがお前如きの為に流す涙を持っていると思ったのか?

馬鹿らしいにも程がある。


――全く。使用人は何をやっているんだ?


ああ、勘違いなんてするなよ?

この涙はゴミが入ったから起こる単なる生理現象だ。

お前の言う『泣いて』いるわけなんかじゃない。

ただ単に仕事をこなすことが出来ない使用人が居るだけなんだから。



「ボクはお前が大嫌いだ」



その事実が変わることはこれから先、一切ない。

お前が居なくなったこれからの人生は、さぞ輝かしい日々になるんだろうな。

何故なら大嫌いなお前がもう視界に入らないのだから。

なんて喜ばしいことだろう。


「……っ」


もしかしたらボクは花粉症なのかも知れない。

もしくは風邪を引いたんだ。

そうに決まってる。

医者を呼ばなければいけないな。

けれど今日はもう疲れたから。

お前のベッドでも借りるとしよう。


別に良いだろう?

だってお前はもう、使うことがないのだから。


――ああ、くそ。


「馬鹿野郎が……っ」


視界がちっとも正常にならない。

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