13 ただ想わせて

じゃり、と石が擦り合う音を立てながら『彼女』の目の前に立つ。

彼女からの返事はない。


「……今年も来たこと、お前は怒ってるんだろうなぁ」


申し訳程度に付いている街灯でかろうじて灰色と分かる石をそっと撫で上げた。

いつも体温が低かった彼女は今ですら冷たさしかくれない。


「『幸せになって忘れろ』……なんて、俺には無理だ」


お前が居なくちゃ俺は幸せになんかなれっこないんだ。


「俺はまだお前が好きだよ。だからお前を忘れることは、俺にとって不幸なんだよ」


もうお前の顔も朧気で。

部屋に飾ってある写真を見てなんとか記憶を繋いでる。

お前の匂いも、仕草も、声も。

全部全部、霞んでいってしまう。



生きているから。

だけどそれが辛い。



お前を忘れて生き続けて他の誰かを思うことが俺にはまだ出来ない。

俺にとってお前はまだ過去じゃないから。


「また来るな」


お前を忘れて他の誰かを好きになる時。

俺はお前の願いを叶えたことになるのだろうか?

もしそうなったとしても。

今はまだお前を忘れることが出来ない。

だからただ俺はお前を想うんだ。

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