12 だから、

「好き、好きだよ」


抱き付いて必死に私に愛を囁いて、



――あの子を忘れようとする大好きな恋人。



付き合ったきっかけは単純。

好きな人を忘れたかった先輩にタイミング良く告白をした。

正確には先輩がそう思うのを見計らって、なのだけれど。


ただそれだけ。

それだけで、ずっと見ていることしか出来なかった先輩と付き合うことが出来た。

例えそれが、あの子の代用品でも。

そこに気持ちが一欠片も無くても。

自己満足と言われても、それで良かったんだ。


先輩は、私が先輩の気持ちに気付いて居ることを知らない。

知らないけれど先輩にとって私の存在は都合が良かった。

だから私なんかと付き合ってくれたのだろう。



――だけど気付いてしまったの。

私の存在がアナタにとって邪魔にしかならないことを。


(滑稽だって自分でも思うなぁ)


でも流石に、まさか先輩が長く片思いしてたあの子が同じ様に先輩を好きだったなんて思わなかったなぁ。

あの子の側にはいつだって誰かが居たから。


叶わない恋なのだと諦めていた先輩だから。私も先輩に告白出来たのに。


だけど私も先輩を好きだから。

先輩に想いを寄せているあの子に気付いてしまった。

同時にこの恋の終わりも。



ただ哀しいだけの、虚しいだけの自己満足だって。

不毛なだけの恋なんだって。

ちゃんと気付いていたけれど。


それからずっと目を逸らしてた。

先輩とどんな形でも繋がっていたかったから。


だけどもうやめにしようって決めたんだ。

先輩とあの子が両想いなら間違いなく邪魔者は私。

私はただのあの子の代用品だものね?



好きだから、どんなことでも受け入れられる。

なんて、私はそこまで健気じゃなかった。

身代わりでも何でも良かった。

先輩と繋がって居られるなら。

だけどそれすら意味を持たない一方通行なだけの恋をするなんて私には出来そうにないから。


だから先輩が本当に行きたい場所へ行けるように、言葉を落とす。


「あの子、恋人と別れてしまったみたいですよ」

「何?いきなり」


訝しげにこちらを見る先輩。

その視線を無視して言葉を紡ぐ。


「先輩。彼女に伝えたらどうですか?」

「……は?ナニ言って、」

「先輩の気持ちは、あの子にきっと届きます」


だって先輩とあの子は両想いなんだもの。

叶わない筈がない。


気付かれて無いと思っていたんですか?と小さく呟く。


驚きに目を見開く先輩。

その様子を見て、顔に無理やり笑みを浮かべる。

先輩は何かを言おうとしているのか口をパクパクと開閉していた。


そんな先輩にすべてを終わらせる言葉を告げた。



「先輩。お別れしましょう」



身代わりでも良かった。

先輩が私を好きだなんて感情が一切無くても。

先輩に触れて貰えるなら。

先輩が側に居てもいいと言ってくれるなら。

あの子を優先されたって笑っていられた。


だけどやっぱり私は先輩に幸せになって欲しいから。

私の幸せよりも先輩の幸せを優先してしまいたくなるくらいには、先輩が好きだから。


だからそんな傷付いたような顔をしないでください。

私は別に先輩を捨てた訳じゃないんだから。

ただ先輩に幸せになって欲しいだけなんだから。

あるべき形に戻るだけです。



だから泣かないでくださいよ、先輩。

どうして泣いているんですか?

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