02 降り積もる雪のように

『好き』の気持ちにはタンクがあって。

容量が一杯になると、気持ちを伝えたくてしょうがなくなるんだと思うんです。


「……好き、ねぇ」


困ったように頭を掻いて、苦く笑っている目の前の男性。

当然だろう。

話があると放課後の教室に呼び出して、そんな事を言われれば。

ましてやそれが、


「気持ちは凄く嬉しいよ?だけど、ごめんな。『先生』はそれに答えちゃダメなんだ」

「……知ってます」

「まあ、身近でお前達に年齢がわりかし近い『先生』に惚れんのも分かるよ。俺みたいに良い男だったら尚更だ」

「自分で言いますか……」

「ばーか。自分のことを自分が一番好きで居なくちゃいけないんだよ。だから俺のは自惚れじゃなくて本音」

「はあ……」


「んでだ、」


今までヘラヘラと笑っていた頬を引き締めた先生は真面目な顔と声でしっかりと言う。


「俺を好きになった理由なんて、きっと他愛ないことだと思う。告白してくれたのも凄く嬉しい。誰かに好きって言われて微塵も嬉しくないヤツなんてこの世にはほとんど居ないと思うからな」


ましてや、お前美人だし?

茶化されたと分かっていても頬が熱くなるのを感じた。

けれどそれも「だけど」と続いた声でスッと冷えていく。


「俺は俺が『教師』じゃなくても、お前が『生徒』じゃなくて、その告白は受けない。それはお前が一番良く分かるよな?」

「……はい」


俯いた時に先生の腕が視界に入った。

左手に鈍く光る銀色。

ソレは先生が私以外の誰かのモノである証。


「先生」

「ん?なんだ」

「もし……」


言いかけて、やめた。

これ以上は虚しくなるだけだ。


「いえ、何でもないです。すみません。聞いてくれてありがとうございました」


ぺこっと頭を下げれば頭をぽんぽんと叩かれた。

その優しさが、今は辛い。

顔を上げられずに居れば先生は「んじゃあ先生、先に行くなー」と教室から出て行った。


「次は俺みたいなヤツじゃなくて、もっと良い男に惚れろよ」


去り際にそんなことを言われて、優しいんだか優しくないんだか分からない先生の発言。

泣く間も与えられずに先生はそのまま去って行った。

ぽつんと立ち尽くす私は一人きりになった教室でしゃがみ込む。


「……先生」


客観的に考えれば分かる筈なんだ。

どう頑張っても先生と想いを通じ合わせることが出来ないんだって。


だけど。


『結婚していなければ、答えてくれましたか?』


倫理的とか、それ以前の問題だった。

私は先生に異性として見て貰えていなかったんだから。

分かってた。


それでもね、先生?


「好きに、なってしまったんです」


淡雪のように優しい恋心がぽろぽろと零れ落ちる。

私のこの気持ちが溶けて消えるその日まで。

せめて貴方を想い続けていてもいいですか?

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