2-18「決着」(前)
……全身が痛ぇ。背骨にヒビくらいは入ったかも知れねぇ。岩壁から地面にずり落ちる。目の前にはムカデグモ野郎、その先には、雑魚グモと戦う恵里。俺に何かを叫び続けている。数メートル横には糸に巻かれた俺の刃四枚と剣が一本。もう一本はどこだ?
野郎が俺に近付く……と見せかけたのも一瞬、恵里の方に進路を変えた。脚を何本かやったから走れはしねぇようだが、十五メートルもねぇ距離だ。このままじゃ恵里がやられる!
俺はもう戦力外扱いかよ………!
体を引きずって身を起こす。いいぞ……手は動く。それなら……!
―R1-1――――――――――――――――――――――――――――――――――
ワイヤーガンを天井に撃ち込んで跳ぶ。途中で手を離し空中で前転する。曲げた背中にひでぇ痛みが走り、額に汗が滲む。堪えて、無防備な背中に飛び蹴りを放つ。
……筈だった。奴は振り返り長い脚で俺の腹を打つ。息が止まる。
衝撃で吹き飛ぶ俺の体を、高速展開した隠し脚が追い抜く。
俺の視界に、腹から上のねぇ俺の下半身が映った。
―R1-2――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は気合を入れて立ち上がった。だがすぐに足がふらついて倒れ込む。何とか前向きに倒れることで、数メートル先の剣を引っ掴む。剣から念波を送り刃を呼び戻す。糸に巻かれた四枚じゃ無ぇ。恵里の近くの壁に刺しておいた三枚だ。狙いは……奴の脚だ!奴の体で死角が出来て狙いは雑になったが、何とか左の足元に命中させた!
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脚を斬り落とせはしなかったが、ダメージは入った。少しふらつき出した奴にワイヤーガンを撃ち込む。ジグモ部分の太い脚を縛り上げ、全力で引く。バランスを崩していたムカデ野郎は転倒した。
「&&!!!!!」
奴が悲鳴を上げる。よし!効いてる。奴が動こうとする度に断続的にワイヤー越しに電撃を放つ。全身を麻痺させ続けるのはもう無理だが、これなら少しは長く保つ。
恵里の様子を見ると、まだ親グモ数匹と子グモ十数匹が残っている。
通路の奥にも隠れてんだろうが、あれは恵里にびびってすっこんだ連中だ。すぐには出てこねぇだろう。
他の生き残りも見るからに逃げ腰だ。たまにヤケになって攻撃した奴から恵里に倒されている。恵里と目が合う。無言で頷き合うと、恵里は手近なクモを群れの方に蹴り飛ばして俺の方へ走り出した。
恵里が天井にワイヤーガンを撃つ。折れた刀は手刀より短くなっている。恵里はその刀に鞘を被せる。
恵里はワイヤーを戻しながら跳ぶ。高さを稼いだところでワイヤーガンを離して刀を振り、鞘を先頭の顔に叩きつける。怯んだムカデ野郎目掛けて折れた刀を振り下ろす!狙いはナガヤリの右脚二本だ。俺は一瞬だけ電撃を放って野郎の反撃を封じる。
「せ……りゃあああっ!!!」
―R2-1――――――――――――――――――――――――――――――――――
恵里の攻撃は見事命中した!刀は完全に砕け散ってほぼ柄だけになっちまったが、ナガヤリとヤリの右脚はこれで全滅だ。どっちも左は残ってるが、厄介な隠し脚を心配する必要はなくなった。
恵里と笑みを交わした次の瞬間、それは起こった。俺が縛り付けてたジグモの脚がすっぽ抜けた。同時に先頭の二節も千切れる。自切だ!
俺はワイヤーを引いていた勢いで再び壁に叩きつけられ、呻く。今度こそ骨が折れたかも知れねぇ。恵里は柄だけになった刀と鞘で肉塊を受け止める。その塊を後ろからヤリグモの脚に押されて飛び退く。
そこへ肉塊の上半分が更に自切した!恵里は辛うじて直撃は避けたが、姿勢が狂い、通路から湧き出してきた雑魚グモ達の中へ吹っ飛ばされる……!!
―R2-2――――――――――――――――――――――――――――――――――
恵里の攻撃は見事命中した!刀は完全に砕け散ったが、厄介な隠し脚を心配する必要はなくなった!
「恵里ぃ!」
空中にいる恵里に声を掛け、その足元へさっき奴を攻撃した三枚の刃を急いで回す。これで自切攻撃を回避できる。俺はタイミングを見計らいワイヤーガンを離す。ジグモ部分の脚だけがすっぽ抜けた。奴の頭はそのままだ。
予知が外れた?いや、俺に先手を取られて自切を止めたのか?何も知らねぇ恵里は刃を跳んで地上に降りると雑魚共の方に戻っていく。ムカデ野郎はその恵里に体を向け、地面を脚で掴む。突進か?俺は剣を逆手に構えて様子を見る。迂闊には動けねぇ。俺への誘いの可能性もある。
改めて雑魚と対峙した恵里目掛けて、野郎が頭を飛ばした。先頭の一節目だ。
「恵里!」
俺は肉塊を回避出来る位置に足場を動かす。恵里は奴から目を離さずに音と気配、奴の後ろに僅かに見えているだろう俺の目線だけで、俺の操作に合わせて足場を踏む。そこへ奴が二節目を放つ。何とか避けさせる。そこへ三・四節目が立て続けに飛んでくる。危うく三節目を躱し……そこに残っていたナガヤリの左脚が動き、恵里を叩き落とした!
畜生!俺がさっき隠し脚だけじゃなく根本から切り落とせていれば!
―R2-3――――――――――――――――――――――――――――――――――
恵里は刃を跳んで地上に降りると雑魚共の方に戻っていく。ムカデ野郎はその恵里に体を向け、地面を脚で掴む。突進か?俺は剣を逆手に構えて様子を見る。迂闊には動けねぇ。俺への誘いの可能性もある。
「アアアアアッッ!!!」
俺は激痛を堪えながら駆け出し、双剣を構えて奴の側面に跳び掛かった!同時に、奴が恵里に飛ばした一節目を、俺の刃で回避させる。誘いならそれでいい!やってみろクソが!!
七節目のトビグモの脚が俺に鋭い蹴りを放つ。そいつは知ってんだよアホが!俺はタイミングを合わせて、蹴り足の上に乗って高く跳んだ。足に伝わる凄まじい衝撃で、痛めた背骨が赤熱する。
「があああっ!」
恵里に二節目を撃ち出した直後の三節目の背中に、辛うじて剣を突き立てる。滑り落ちかけ、両手で掴み直す。剣を刺した辺りをよく見れば、四節目との継ぎ目の役割をしている三節目のナガヤリの後ろ脚が、分離の準備をしている。そうはさせっかよ!死ね!四節目を脚で挟みながら、三節目の背を何度もぶっ刺す。
「オラァッ!」
剣から電撃を放つ。
「らぁっ!」
縫い直すように継ぎ目を刺す。
ムカデ野郎が激しく暴れる。それ位しか出来ねぇだろうよ。ヤリの脚は背中側には攻撃できねぇからな。揺れる度に痛みが酷くなるが些細なこった。
「ハル!」
「構うな!そっち殺れっ!!」
十箇所以上ぶっ刺した所で、ナガヤリの体がころりと落ちる。どこか決定的な所を壊した手応えがあった。
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―R3-1――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は続いて、四節目のヤリグモの背中を壊すべく下へ降りようとして、殺気を感じた。最後尾のツリイト野郎が糸を撃ってきた!
さっき程の爆発的な威力はねぇが、俺もろともムカデグモの四・五節目がまとめて糸に巻かれる。そうか……どうせ自切して使い捨てるくらいだ。糸で巻いちまうのも同じか!
奴は地面すれすれまで体を前に倒す。おい、まさか……!
そして、加速を付けて俺の乗る背中を一気に壁に叩きつけた!!
―R3-2――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は続いて、四節目のヤリグモの背中を壊すべく下へ降りながら、敵を挟み込む両足の力を少し抜いた。殺気を感じた瞬間、横っ飛びに躱す。
ツリイトの放った範囲優先の糸弾は、四・五節目を糸に巻く自滅という結果に終わった。俺は両足と左手で衝撃を殺して着地する。恵里も無事に雑魚との戦闘を再開しているようだ。
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俺はゆっくりと立ち上がる。過去のデータからしてツリイト部分はまだ二・三発は糸弾を撃てると見たほうがいい。トビバケグモの蹴りも脅威だ。
コイツと戦い始めてもう……いやまだ十分位か?
援軍はもう来ても良い頃だが外に逃げた数匹と戦ってるんだろうか?
俺はまだ……俺は……!!!
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俺は##$&!…恵里が振るう…俺の刃を踏んで……先輩が俺に%%%…赤い炎に包まれる■■は神楽鈴を……ラッタ…すまねぇ■■■助けられなかった…剣を…「はる君なら良い未来を選びとってくれるって思うから…×を宜しくね…」###%%!!!!
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視界が途切れる。黒でも白でもねぇ。色そのものが認識出来ねぇ。音も聞こえねぇ……予知の使い過ぎだ。脳が限界に来た。五感が混ざって共感覚に近い状態になる。誰かが俺を呼んでいる。恵里か、体を揺らすのが声なのか手なのかも分かんねぇ。触覚まで曖昧になってきやがった。
「ハルッ!」
恵里の声が頭の中に反響する。二日酔いってのはこんな感じだろうか。
「片桐君!片桐君!」
この呼び方、真っ先に思い出すのは先輩だが何か違う気がする。声は聞こえてるのに高さが分からねぇ。文字で認識しちまってる。声が下からがんがんと響いてくる。いや下な訳がねぇ上だ……口の中にヤバい色が流れ込んで来て寒い。
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「うぎゃああああああっ!!?」
激痛で世界が戻ってきた。現実に引き戻される。体ごと飛び起きた俺の顔を、覗き込んでいた人がすっと躱す。
桐葉さんの隊の義奥の兄ちゃんだ。
「君付け」されただけで何で一瞬でも会長と間違えた、俺?
………死にてぇ。今男に膝枕されてたんだぞ。
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