グラフィアス 2/5

『今は国王軍が足止めをしているわ。民間人の避難は警察が総動員で行ってる』

 ヘリの上での会話は通信で行われました。

『今のところ死者は無し。けが人は多少出ている模様よ』

 コックピットには誰もいません。昼間の車と同じでした。

『ダイヤモンドスター。到着まであとどのくらい?』

『80秒です。中心市街地の上空を通過してよろしければ60秒にできます』

『申請して。それから、早めに人間の兵士を撤収させるよう伝えて』

『承知しました……承認されました。中心市街地上空を突っ切ります。国王軍も避難誘導へ移るそうです』

 機体が前傾してスピードが上がります。窓の外に目を向けると、首都の夜光が煌びやかに光っていました。

 しかし一方で、河口の方へ目を向けると、一画で紅蓮の炎が立ち上っていました。

『目標を視認』

 ヘリの操縦は、ダイヤモンドスターさんの遠隔操作によるもののようです。

『ズーム、シェアします』

 視界が切り替わり、火明かりの中に佇む異形をみとめます。

 大部分は人の形をしています。大柄の女性のシルエットでした。

 長い髪や肌は泥で汚れ、全身がずぶぬれになっていました。服もボロボロで、体に巻き付く海藻との判別が難しいです。目の焦点はあっておらず、おそらくはAIが破損して、人間でいうところの、正気を失った状態のようでした。

 そして……何でしょうか、彼女の腰の辺りから伸びる、カーブを描きながらそそり立ったパーツがありました。

『検索中――該当、ありました』

 視界にウィンドウが表示されます。

 そこには、在りし日の彼女の姿が映し出されていました。

『元・グレートサウス共和国軍所属【スコーピオン・グラフィアス】です。終戦間際、搭乗していた飛行機が敵航空機に撃墜され、行方不明になっていました。』

 ウィンドウに表示されている情報は、販売企業によって公表されているスペック情報のみにとどまっていました。

『腰から伸びたフレキシブルアームにご注意ください。強力なパワーに加え、先端部分から強烈な酸を噴射します。また、ジャイアント・デスストーカーの異名をとった高耐久メトロでもあります。その耐久性は、見ての通りかと』

『ははは。どこの会社が作ったか知らねぇが、良いパフォーマンスになってるじゃねぇか。その高耐久とやらのな』

『フレームの機能が無事でも、AIが壊れて命令を理解しないなら意味が無いわ』

『オレみたいに心身共に健康でなくっちゃな。じゃ、行くか』

『えっ』

 エナさんが立ち上がります。

『ど、どうやって降りるつもりですか!?』

『はぁ? 決まってんだろ。ダイヤモンドスター! 高度を下げろ、突っ込むぞ! 速度はそのまま!』

『了解しました』

 ヘリが高度を下げつつ、急旋回を始めます。そしてそのまま、街の通りに沿って飛行するルートに入りました。

 そのルートの先には……スコーピオン・グラフィアスがいました。

 やがてヘリのハッチを開け放ったエナさんは、なんと――。

『いっくぜえええええええ!』 

「えっ、ええええええええええええええええ!?』」


 そのままヘリから飛び降りたのでした。


 な、なんて破天荒な方なのでしょう。

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