第六話:『立ち上がりなさい、雑葉大!』

…………

・ガーディアン・ストライカー 第五巻 第三章・激突!強敵!ファンタマズル《仮称》 箱書き


●登場キャラ

・ガーディアン・ストライカー/生田誠一

・神永茉莉花

・ファンタマズル/マキナ・ミナモ・マデウス


・九番/ミスター・バーサーグ

・キューバン・キャッツ("九番"の配下)



●展開

・伝説の九人のひとり、ファンタマズルと遭遇。抹殺せんと立ち向かうが、幻覚を見せられ、ダウンする。

・自身のアイデンディティーを揺るがす幻想。超人もガーディアンも居ない世界に送られ、困惑する人々の中で思い出される人間的な感情。

・だが、そこに茉莉花はいない。彼女もまた別の幻覚に囚われ、空を飛ぶチカラを持ちと、ご近所の平和を護る魔法少女となる夢に囚われてしまったからだ。

・自分の居場所は此処じゃない。意思の力が幻覚を砕き、ストライカーを現実に帰還せしめる。それは、生田誠一が選んだ、人間性の否定でもあった。

・何がどうだか分からぬまま、蹂躙されゆくファンタマズル。結果的に彼女は死に、茉莉花も解放された。しかし、これ幸いと第三勢力の長・九番の放った上等私兵・キューバン・キャッツが二人の前に襲い掛かる。



・本文

※ ※ ※



 雷鳴轟く雨空の下で、二人の人物が向かい合う。

 ひとりは、黒曜のフルフェイスメットに、まだら模様のボディースーツ。

 もうひとりは、魔術師装束に鼻から上をヴェネチアン・マスクで覆った女性。

 互いに退くという選択肢はない。この場で決着を付ける覚悟だ。


「おわかり? 総ては、貴方のせいなのですよ。いい加減な気持ちで契りを交わし、忘れた体で反故にして――。何もかも、総て・貴方のせい」

「そんなことはない! 俺は……俺はただ、純粋に彼女を喜ばせようと……!」

「お黙り。それも総て貴方から視た都合でしょうに。アナタが悪い。貴方さえいなければ、上代茉莉が死ぬこともなかったのに」


 あなたが。

 あなたが悪い。

 お前だ。

 お前のせいだ。

 総て、お前のせいなのだ。

 お前が。お前がお前が。お前が。お前のせいだ。

 お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前お前



・変更を保存しますか?

 YES

 NO←



※ ※ ※



 どういう気分だ? と聞かれても、上手く言葉にすることが出来ない。椅子に鎮座し、意味の分からぬ念仏をもう五分近くも聞いている。

 誰もが俯き、憔悴した顔をしている。そうでない人も居るかも知れない。少なくとも、おれから見える限りでは、そう見えた。

 菜々緒のヤツの啜り泣きが部屋の中でこだまする。他にもそうした人はいたのかも知れない。けれど、おれにはそれが一番大きく聴こえた。


 上代茉莉かみしろ・まつり。幼馴染にして、おれの初恋のヒト。黒地に薄っすら赤毛の髪も、にこやかに微笑むあの顔も今はない。

 おれから見て右斜め前方。長方形の桐の箱に詰められ、死化粧を施されて眠る想い人の姿を見て、また何も言えずに俯いた。



……………………

…………

……



「どうも。この度は、お悔やみを」

「有難う御座います、石取さん。わざわざ神奈川から来て下さって……。ムスメもきっと喜んでいます」


 家族親戚間の小さな葬式だ。お経と焼香が済めば霊柩車で遺体を運び、あっという間に火葬場行き。少し車を走らせ、小高い丘の上に作った葬祭殿。彼女の親戚連中が十人ほど集まり、マツリが完全に燃えるまで控室で談笑。

 マツリのおばさんのご厚意で特別に呼ばれたおれと菜々緒は、上代家と同じ車で此処へ来た。両親もおれたちも、移動中は口をつぐんで何も話さない。


 喪主だから仕方ないだろうが、気丈に振る舞い、応対を続ける夫妻の気持ちは如何なるものか。文字を認める商売のくせして、一言もイメージが湧いて来ない。


「なあ」誰とも話さず、温まった茶を啜る菜々緒に声を掛けてみる。

 当然のように無言。いつもの威勢がウソのよう。借りてきた猫みたいに大人しい。


「お待たせしました。これから骨上げに移らせて頂きます」

 係員の無感情な一言を契機に、親戚連中が揃って腰を上げた。向かうは下段の火葬場

 痛かったろう。辛かったろう。おれが傍にいるぞ。言いたいことは幾らだってあったのに。いざ、『それ』を目にした瞬間、何もかもが真っ白に消え去った。



 黒い棺の中で割れ砕け、肉の焼けた何とも言えない臭いを発する白骨。

 スカスカの骨をトングで砕き、菜箸で互いにつつき合い、小さな骨壷に収めてゆく。

 人は、死ぬと極楽浄土に往くという。このカルシウムのかたまりが、既にマツリじゃないことだって理解している。

 けども。けれどよう。


「これが。マツリだって、言うのかよ」

 いざそうなっちまったのを見ちまうと、二度と戻らぬ現実が否応なしに突き付けられる。上代茉莉は死んだ。自らいのちを絶ったのだ。誰のせい?

 それは。多分、それは……。


 皆でマツリの骨を掴み合う中、その足元に「四角く小さな箱」があるのを見た。

 死者は火葬の際、自らの望みで大事なものを棺に詰め、一緒に燃やしてもらうことが許されている。正しく死出の手土産と言うやつだ。

(マツリ……お前……)

 それが一体何なのか。気に留める人間はいない。

 けれどおれには解かる。アイツが、それを、棺の中にまで持って来てくれた理由も。


(おれのせいだ……! おれが、おれさえ、いなければ……!)


 あいつは、死なずに済んだのに。

 あいつは、まだまだ笑っていられたはずなのに。

 お前のせいだ。何もかも、お前が悪い。

 お前が。

 お前が彼女を追い詰めた。

 死すべきはお前だったのだ。


「もう……たくさんだ……!」

 涙は、出なかった。

 変わりに、箸で掴んだ遺骨をこぼし、口を押さえ、逃げるようにその場から去って行った。

 おれにはもう、それしか出来なかった。

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