第三章「桜と彼女に抱く感情」

「お…………………おに……………ん………お………い……ゃん…



        ………おにぃ…………お……ん…………………………」








 闇の中で聞こえる声、なぜかとても心地よい。


柔らかくて、何からでも守ってくれそうな感覚がふわりと全身に広がる。



 この感覚懐かしい。







懐かしいのに、その声が愛おしくてたまらないのに、







声が、






顔が、






思い出せない。



その事を考えると胸が締め付けられる用に苦しくて、必死に思い出しているのに分かる事なんて何もなくて。




 いやだ。





このまま一生を過ごし、何も分からないまま死ぬなんて御免だ。




だから、誰か教えてくーーーーー




「お……にぃ…ちゃん………起……きて……」





 そんな声がまた聞こえてきた。



俺は咄嗟に…いや、反射的に答えてしまった。






「……ん。ゆき………」




 ゆき。




懐かしい名だ。


昔、毎日のように呼んだ名。




初雪のように綺麗で、とても柔らかく月に透けた髪。


また、肌も透き通るような白さで美しかった。






 そんなゆきは雪月と言って俺が名付け親だ。


今語った意味を持ち合わせている。




しかし、ゆきは今では一生会えない人。







ーーーーー人と言って良いのだろうか。




      




              だってあの人はーーーーーーー





「お兄ちゃん!!!





   起きて!!!







       私はゆきさん?じゃなーい!!!!」







 どわぁっ……。












妹………か。





 そうして俺は妹の起しにより、やっと闇の夢から目覚めたのであった。




しかし疑問が一つある。




なぜか毎日同じ夢を見る。





繰り返し。




繰り返し。




セピア色に染まった情景。


感情など知らなくて、ただ植え付けられた知識と教えを辿って行動する。


毎日、毎日、毎日。




だけどある紅色に輝く望月がとても美しい日。



俺は「誰か」と出会った。




それ以来血の赤しか知らなかった俺は沢山の色を知る事になった。



一日一日が楽しくて、初めて知る事ばかりで。




初めて自分の感情を持つようになった。



ーーーだけど目が覚めるとその「誰か」を忘れてしまう。



どんな声だったか、どんな人だったのか、どんな顔だったのか、すべて忘れてしまう。




ただ消失感だけが残り、あとは築き上げたものすべてが崩れ落ちていく。






そして赤の他人たちが、頭の中で語りかけるのだ。




人殺し、と。




お前は最悪な悪党だと。



しかしそれを聞いて俺は、安心感すら感じる。


妹いわく、俺は「セイトウボウエイ」だと言うがあれは完全に殺意があって殺した。




あいつらの隙を見て確実に殺そうとした。





一発で、一瞬で。






妹を守りたいだなんて綺麗事だ。




ただ俺は本能で動いただけだ。






その証拠にあの感覚が忘れられなくて、快感すら覚えたこともあった。





 こんな俺なんて、誰かを愛す事すら許されないだろうな。





だって俺は、連続殺人犯なんだからーーーーーーーー







 

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