第70話 勇者は命を燃やす
レオンは乱れそうになる息を整えて、地を蹴った。
向かう先にはエヴァがいる。
銃口が自分の額に向けられていることにも怯まず、相手の眼前に接近して右の剣を振るう!
ほんの少しの間でいい……僕の体よ、持ちこたえてくれ。
レオンは急激な動きに悲鳴を上げる体に胸中で言い聞かせた。
此処で僕が倒れたら、街がビブリードに踏み躙られてしまう……それを許すわけには、いかないんだ!
ふっ、ふっと呼吸が乱れる。ふるふると震える剣先を懸命に保たせて、彼はエヴァを睨みつけた。
「息が上がっておるな。やはり銃は恐ろしかろう、勇者!」
エヴァは銃のトリガーを引く指に力を込めた。
がちん。
空しく鳴り響く乾いた音。
弾切れだ。
「なっ、何だと!?」
「どうでもいい場面で景気良く撃つからですよ! 全然学習してないじゃないですか!」
ローランが呆れた声を上げる。
「むぅ、使えん道具め!」
エヴァは銃を投げ捨てて、腰の剣をずらりと抜いた。
「特別に剣で相手をしてやろう! 光栄に思うがいい!」
大振りに剣を振り上げて、レオンの顔めがけて振り下ろす!
レオンはそれを左の剣で受け止めて、横に受け流した。
腕を震わせる斬撃の衝撃。思わず剣を落としそうになり、彼は口内で小さく舌打ちをした。
右の剣を縦に構え、エヴァの喉元を狙って突きを繰り出す。
それを、エヴァは剣の腹を盾にして防いだ。
「ふん、貴様が鎧の継ぎ目を狙ってくることなどお見通し! そのような一撃など、防ぐことは容易いわ!」
「生憎、僕の剣は一本だけじゃない!」
レオンは左の剣を突き出した。
剣先はエヴァの肘に深々と突き刺さった。
骨を直接穿たれる一撃に、エヴァは声を上げた。
「きっ、貴様!」
肘から血を溢れさせながら、剣を横に一閃させる。
レオンはそれを後方に跳んでかわした。
「…………!」
ぜえぜえと全身で息をする。あまりの息苦しさに口が開いてしまう。
足がふらついて、その場でたたらを踏んだ。
そこに、ローランから撃ち込まれる銃での一撃。
何とか身を捻って弾の命中を避けるレオンだったが、無理な体勢での回避だったため、彼は全身のバランスを崩した。
よろけて、その場に膝をつく。
それを好機と見たエヴァが、剣を振り上げながら笑った。
「ふははは、随分とふらついているではないか! それで私を倒せると思ったか、勇者よ!」
剣を袈裟に振り下ろす。
レオンは──避けられない。
エヴァの剣は、レオンの胴を斜めに斬り下ろした。
斬られた衝撃でレオンは後方に倒れる。
じわり、と傷口から血が滲み出て、彼の服をじっとりと濡らしていった。
「……やった」
エヴァは歓喜に震えた。
「遂に、勇者を倒したぞ! 積年の恨みが晴らされる時が来たのだ!」
「何を喜んでるんですか! 勇者はまだ生きてるのに舞い上がらないで下さいよ!」
ローランは彼を叱咤する。
「生かしておくと何をし出すか分かりませんよ! きっちりととどめを刺さないと!」
「分かっておるわ。そう急かすな、ローラン」
レオンは全身を地面に投げ出して全身で息をしている。
起き上がることは──もはや、できないようだった。
エヴァはレオンの目の前に立ち、剣を垂直に構えた。
剣先が向けられている先には、レオンの心臓がある。
彼はこの一撃で、レオンを屠るつもりのようだ。
「さらばだ、勇者よ。アガヴェラに肩入れしたことを後悔しながら、永遠の眠りに就くが良い」
「…………」
レオンは目を閉じた。
エヴァは勝利を確信して、構えた剣を力一杯に振り下ろした。
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