三.運命
1.心
率直に言えば、俺はミエコちゃんにイラついている。
二人で楽しい時間を共有し、お互いに対する思いやりも存分に発揮してきたのに、彼女は自分勝手に一方的に傷ついているからだ。
おまけにさらにイラつくのは、俺の心が離れていかないからだ。
どうしてミエコちゃんのことが、こんなに気になるのか。
まるで論理的でないもの、つまり感情だとか気持ちだとかが、取り返しようもなく人生を決定づけていく。
俺がどこで何をしていようと、それでミエコちゃんが傷つく理由も必然性もないのだし、ミエコちゃんがどれだけ傷ついていようと、俺がそれを気にかける理由も必然性もない。
同窓会の和やかな雰囲気から外れてしまったのは、ミエコちゃんが意図した事ではなかった。
そしてミエコちゃんの意志に反して、抑えようもなくあふれて飛び出したものはミエコちゃんの素顔だ。
敵意を、拒絶を、無垢のままで俺にぶつけた。
地下通路の入り口へ向かうミエコちゃんの肩を抱くようにして寄り添う彼女の友人の姿を見たとき、俺はどうして女を傷つけると他の女が怒り狂うのか、やっと理解できた気がした。
ある一人の傷つけられた女がいる時、その隣にいる別の女が怒り狂うという構図がしばしばある。
これを俺はいつも釈然としない気持ちで見ていた。
怒り狂っているほうの女が怒る理由がまるで無いからだ。
しかしあの時に俺が理解したのは、俺が破壊者なのだという事だ。
俺は完全なよそ者として、ある女の前に現れる。
俺の現れる前、そこには女が自分なりによかれと思って形成してきた生活、生き方、スタイルがある。
その生活の中に、よそ者である俺の居場所はない。
しかし女は、そこに俺を受け入れる。
受け入れるよう、俺のほうから要求もする。
俺は自分の都合に応じてふるまい、それを引っ掻き回し、気が済んだところで立ち去る。
跡には、しっちゃかめっちゃかになった生活が残る。
すでに破壊された女は俺に対してそれを言えないから、代わりに隣の女が怒るのだ。
一人の女の生活を守るため、隣の女が怒る。
ドイツ第三帝国の戦車がポーランドを蹂躙した時、イギリスとフランスが宣戦布告したのと同じように。
それは仲間の女を守ると同時に、自分自身の利害を守る戦いでもある。
だからといって、それは俺とは関係ない。
快く無視すればいいだけのことだ。
それなのに、いつの間にかそれができない。
わからないこと、論理的でないことが積み重なっていく。
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