お前の文章力はうんこすぎる

ちびまるフォイ

木を見られて森を見られず

近況ノートにコメントが載っていた。

普段コメントなんて来ないから冗談かと思った。


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はじめまして、突然のコメントをすみません。


実はあなたと力を合わせて小説を書きたいと思っています。


あなたが原作で、私が執筆者です。


あなたはアイデアを書くのは向いていますが文章力が絶望的です。

せっかくのいいアイデアも生かし切れていません。


よければ一度話しませんか?

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当日、待ち合わせにいたのは同年代の女だった。


「あぁ、私サイトでは『沙耶』って名前でやってます。

 前からあなたの小説は読ませてもらっていました」


「それで共作ってのは?」


「マンガとかでもあるじゃないですか。原作と作画が別のパターン。

 それと同じですよ。私の小説は読んでいただけました?」


「あ、うん」


沙耶の小説は表現力豊かで、箇条書きに近い自分の味気ない文体とは対照的だった。


「どうですか? 悪い話じゃないと思いますけど、気持ちを聞かせてください」


「まぁ、やってみようかな。賞とか取れる作品にできたらいいなと思ってるし」


「じゃあ決まりですね。一緒に頑張りましょう」


俺の原作に対して、沙耶が文章で肉付けをしながら書いていく。

最初はお試し感覚の軽い気持ちで始めたが、みるみる人気が出るにつれて嬉しくなった。


「沙耶! すごいよ! 俺たちの小説がランキングに入ってる!」


「やりました! 私の見立ては間違ってなかったってことですね!」


「人気が出たからって安心してはいけません。

 もっと人気が出るように作戦があるんです」


「作戦? 原作の俺がなにかするのか?」


「いいえ、ちがいます。人員を追加するんです。

 私たちの作品は西洋の文化がベースになっているでしょう。

 でも、私たちってwikipediaで調べたくらいの知識しかないですよね」


「……た、確かに」


「だから、より物語の奥行きや説得力をつけるために

 西洋文化に詳しい人を作品作りに協力してもらうんです!

 というか、もう声かけちゃいました」


「うん、その方がいいよ。俺の原作を見てもらって変なところがあれば調整しよう」


2人の小説書きは、3人へと人数が増えた。

新しく追加された文化アドバイザーは西洋の文化だけでなく

その当時の人の考え方もコメントするのでよりリアルな世界観へと作品が深まった。


人気も盤石なものになり始めると、沙耶は再び言い出した。


「戦闘描写の担当を増やしませんか?」


「え? どうしたんだ急に?

 戦闘なんて前からあったじゃないか」


「私、動かないものを書くのは得意なんですけど

 動いているものを描写するのはどうも苦手なんです」


「そんな漫画家みたいなことを……」


「キャラの心情とかセリフを書くのは好きなんですけどね。

 だから、戦闘描写が得意な人を増やせば、もっともっと作品が良くなると思います」


「わかった、ちょっと探してみるよ」


今度は沙耶ではなく俺の方でサイトをあさり、戦闘描写がすごい人に声をかけた。

人間、褒められると断れないらしくすぐに快諾してくれた。


3人の小説家が、4人へと増えた。


作品の人気がますます高まるにつれ人数は増えていった。


「書籍化されたときにも見栄えがするように

 ファッションアドバイザーをつけましょう。

 ありきたりなクソダサイオタク服だと目も当てられませんから」


「読者が求めている展開を出せるように、

 市場マーケティングの担当者を追加しました!」


「魅力的なキャラクターが生まれるように

 キャラ制作担当の人を増やしましたよ!」


気が付くと、もうどれだけの人数でこの小説を書いているのかわからなくなった。

ある日、沙耶との原作会議を行うと、市場マーケティングの人からいくつかのアイデア案が提出された。


「どうですか? 今のニーズに合わせた展開をまとめました。

 あ、でもこの中から決める必要はないですよ。

 これをベースに新しい原作を書いてもOKです」


「うん……」


「どうです? 次の話、思い浮かびました?」


「……なんか、こういうのじゃないんだよなぁ」


「え?」


「どれも今はやりの展開を入れましたって感じがするんだよ。

 俺が書きたいのは、もっと読者を驚かせるような……。

 あっと言わせるような展開がいいんだ」


「実際書いているのはあなたじゃないですけど」


「そうだけど! アニメでよくある展開や、マンガの王道展開!

 それを踏襲するのは違うんじゃないか!?」


「……まぁ、原作者がそういうのなら」


不服そうだったが沙耶は提案書をひっこめた。


「ちなみに、次のあっと言わせる展開は思いついてるんですか?」


「それは……まだだけど……」


「私たちはもう2人で書いてるわけじゃないんです。

 他の人の迷惑にならないように、ちゃんと間に合わせてくださいね?」


沙耶に厳しく釘を刺されたが、結局原作は間に合わなかった。

驚くような展開、大どんでん返し。

そんなことを考えているうちに、もう思いつかなくなった。


原作が出なかった場合でも小説が進行するように代案の人員も確保されていたみたいで

小説は滞りなく書き進められていた。

でもその内容は……。


「なんか……こういうのどこでも見るな……」


敵を倒して、その先の敵が出てくる。

仲間が1人ずつばらばらに戦って、それぞれ勝利する。

最終決戦で一度負けそうになるも、仲間がピンチになり、怒りで覚醒。


つまらなくはないが、印象にも残らない。


「ちがう! 俺はこんなありきたりな物語を書きたいんじゃない!!

 俺は原作者なんだ! もっと変えられることがあるはずだ!!」


次の原作会議が開かれると、沙耶は目を丸くしていた。


「えっと……これは正気ですか……?」


「ああ、これが次の話だ。

 先が読めるような展開は楽しんでる読者への裏切りだと思ってる。

 だから驚くような展開にしてみたんだ」


「だからって、これはやりすぎですよ!?」


いったん世界を破滅させて作り直させたり、

キャラ全員を別の人格にしたりと大変革を行った。


「はぁ、でも原作者の意向ですからもちろん従います。

 ただ紀元前の描写や美少女の描写、それに料理のアドバイザーに

 聖書のくだりの人材が必要になりますよ」


「え、まだ追加するの?」


「当たり前じゃないですか。新章に入ったとたんに薄っぺらくなるわけにいかないです」


「だよね……」


小説の路線転換はあっさりと受け入れられて人気はまた上がった。

それに応じて人員が増やされる。


再び俺の大変革展開が起きないようにと原作者ももう一人増やされた。


今後は展開に納得できない場合の多数決を取り、

俺と別の原作者のどちらの案で行くかが決まっていく。


昨日までフランス料理だったのに急に中華料理にとはいかない。

それはわかっているつもりだったが。


「なんか……自分の作品じゃないみたいだな……」


あれだけ熱意や愛情があった作品。

人気が増えれば増えるほど、どんどん遠くなっていくような気がする。


もうずっと原作を書いていない。

別の原作者がいい感じの展開を書いている。


小説に届くコメントも俺とは別の「神対応専用」の人がコメントする。

今や小説は自動更新されるロボットみたいだ。


「俺……どんな小説書いていたんだっけ……」


完全に小説への愛が失われていたその時。



【 授賞式のご案内 】



「はぁ!? 授賞式!?」


愛情が冷めきった小説がついに賞を取った。取ってしまった。

授賞式には注目度の高さなのかたくさんの人が来席していた。


「ああ、こんなにも俺の小説を好きでいてくれる人がいるなんて!

 今まで書いてきて本当に良かった!!」


金色のトロフィーが司会者のもとに運ばれて、俺の作品名が呼ばれた。


「はい!!」


卒業式のように大きな声を出して壇上へと昇っていく。

あまりの嬉しさに涙が出そうになる。

きっとこのあと、受賞者インタビューとかもあるんだろうな。



「衣装デザイン賞の受賞、おめでとうございます!!」



衣装担当は嬉しそうに俺の前でトロフィーを受け取った。

俺を見つけると司会者は不思議がっていた。



「あの、あなたの作品は脚本賞じゃないんですけど

 どうしてあなたが壇上にあがったんですか?」

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