脂肪の蠱物

@Monmm

第1話 残骸

蠱物(まじもの)-1 まじないをしてのろうこと。また、その術。

         2 人を惑わすもの。魔性のもの。

                       (出典:三省堂)


”しんど...."

朝と呼ぶには遅すぎる正午前に、携帯のアラームの音で目を覚ます。一日の始まりを拒否するかのように、もう一度布団にもぐりこむ。

”あかん...、またぎりぎりや。ほんまに遅刻しすぎて、そろそろ教授に目ぇつけられるかもなぁ...”


ゆっくりベッドから体を起こし、床に目をやる。食べ物の残骸が散らばっている。正確には「残骸」ではない。食べ物の中身はすべて食べ尽くされて、ただの「ゴミ」だ。

「ゴミ」をできるだけ踏まないように、洗面台へ向かう。歯を磨いて、化粧をほどこす。偶然か必然か、鏡に映る自分の肉と目が合う。

”ほっぺたの肉が盛り上がってほうれい線みたいなんできてもうとる...。あんぱんまんみたいで、もうむしろおもろいわ...”


髪を雑にセットして、服を着替える。服は黒が多い。本当は白や優しい色合いのものが好きだが、膨張色だから着ない。今日も足の隠れる黒のロングスカートに、お腹の隠れる深緑のパーカーという組み合わせだ。

”そういえばこないだ全身黒い服で葬式みたいやって言われたなぁ。ちゃう色の服と組み合わせんと...”


「ゴミ」を踏まないように服を着替えていると、知らぬ間に全身鏡の前にきてしまっていた。横に三つに分かれるお腹、たくましい二の腕、隙間のない太もも...。そこにはしっかりと”脂肪”が映し出されていた。その後ろには食べ物の「ごみ」が映っている。

”そうか...。「残骸」はについてるんか...”


走れば、大学へ向かうバスに間に合う時間だが、海咲は家を出てゆっくりとバス停へ向かった。

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