列車から見える風景

ユウ

第1話


 達樹は駅のホームに来ていた。

 すっかり金属のようなもので囲われたそれは、風情のかけらもない。


 行き交う人々も、どこかしら、心を持たぬ機械的に見えてしまうのだった。


 やがて、丸みを帯びた列車が駅へと到着し、皆が下りたのを確認して達樹は乗り込むのだった。


 車内はすっかり込み合い、席は一つも開いてなかったので、達樹は仕方なく窓際に立つことにした。

 しばらく長いトンネルが続き、達樹の目に飛び込んできたのは田園風景だった。


 そよぐ風に気持ちよさそうに稲穂が揺れ、小鳥が舞い降りてはそれをついばむ。

 そこには、老婆が稲刈りをする姿も見受けられた。


 達樹の目からはなぜか涙がこぼれる。それは田舎のことを思い出したからかもしれなかった。

 毎日角ばった無機質の街を眺め、達樹の心は心まで固まってしまっていたようだった。


 それが、今目の前の風景に癒され、少しずつ溶かされていくかのようだった。

 達樹は、その景色を食い入るように眺め、目に焼き付けるよう必死になって眺めた。


 遠くを見渡せば、山々が顔を覗かせ、その向こうには青空が広がっていた。

 達樹は思い出していた。かつて父と一緒に山へ出かけ、虫取りをしたあの時の青空を。


 達樹の心は震えた。角ばった街で起きた出来事が押しやられ、かつて暮らしていた田舎の風景が達樹の脳裏を占領していく。

 懐かしい母の味、温かい父の声、優しい祖母の手。


 達樹はいつの間にかボロボロと涙をこぼしていた。他のお客さんがいることなど気にも止めず。


 達樹はふと、背中に視線を感じ、涙を拭うと振り向く。

 そこには、心配そうな顔の車掌さんが立っていた。


「車掌さん。この列車素敵な場所を通過しますね」


 その声は震え、もしかしたらちゃんと言葉になっていなかったかもしれなかった。


「お客さん」


「それ、映像だから」


「え」

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