13 ルカ


********




夕方、まだ早い時間に

『リョウジくんを連れて、謝りに行こうか』って

ことになって、凪姉ちゃんとこ行く前に 行ってみた。


朋樹が 母さんに電話して

『話 聞いたけど、別に何もなかったぜ。

オレも サボったことあるだろ? そういうやつ』

つって、やっぱり 朋樹が

『しっかり みてあげてよ!』って 注意されてて。


ジェイドん家に戻ってみると、リョウジくんは

『ひとりで大丈夫です』つってたんだけど

『四郎と遊びにくくなったら困るだろ?』って

朋樹に説得されて。

でも、まだ帰りたくなさそうだったから

『顔 見せて、ちゃんと謝ってさぁ。

お母さんが許可してくれたら、四郎の部屋に泊まれば いいじゃん。

明日 土曜だし、学校は休みの週だろ?』って 添えて、バスに乗せた。


けど リョウジくん家に着いて、ジェイドと朋樹が

謝ろうしたら、先に リョウジくんの お母さんに

『ごめんなさい。四郎くんまで休ませてしまって... 』って、頭 下げられちまってさぁ。


『いえいえ! 四郎が... 』

『テスト前で、ストレスが溜まってたようで... 』


ジェイドも朋樹も、四郎も

わたっ... 僕が、“行きたくない” と... 』って 頑張ったんだけど、お母さんは

『中学生の時くらいから ふらふらするようになっちゃって。最近は治まってたんですけど... 』と

ため息をついた。

リョウジくんは、“言うなよ” って顔してたし。


そういや、リョウジくんが繭に包まれちまった時も、“夜は どこに行ってるのか わからなくて”... って 聞いた気がする。


『オレも そんな感じでした。

家族や学校に 何も不満はなかったんですけど。

ごめんなさい』


口 挟んでみたら、“黙っとけって” ってツラで

朋樹に見られたけど、お母さんは 少し表情を緩めてた。

リョウジくんも そのクチだと思うんだよなぁ。

まっすぐに育ってるしさぁ。


『なるべく、学校は休まない方がいいですよね。

たくさんの人に心配も掛けてしまうし、二人とも

良くわかったと思います。

ですが、いろいろと思い悩む頃でも あるようです。

心配を お掛けして、すぐに 何なのですが

今夜は うちで預かりたいと思っているんです。

いいでしょうか?』


ジェイドが丁寧に お願いして、教会と家の場所、

自分の連絡先も教えると、お母さんからは 遠慮や戸惑いも見えたけど

『じゃあ、よろしく お願いします』と 許可してくれた。


『リョウジくん』


朋樹に呼ばれた リョウジくんが、そっぽ向いたまま『ゴメンナサイ』と 謝ると、四郎が 肘 はたいてたし。そんなとこ 初めて見たぜ。仲良いよなぁ。


『今日のことは、パパには黙っておくけど

もう サボるのはダメよ』


お母さん、優しいんだぜ。信じてるのがわかる。

リョウジくんの代わりに 四郎が返事してた。


それで、私服に着替えた リョウジくんを連れて

『腹 減ったんじゃねぇの?』って

沙耶さんの店に 二人を降ろして、預かってもらって

『ちょっと出て来るけど、また迎えに来るから』って、一の山の向こう側へ向かってるとこ。


ゾイが『朱里を お店に送る時に、リラも ここに連れて来とくね』って 言ってくれたから

『おう、頼むー』つって。



「四郎、涙ぐんでたね」


バス 運転しながら、かわいいよな って風に ジェイドが言った。


朋樹の母さんに電話して 謝った時に

『心配しましたよ。無事で良かった』って 返されて、『はい』って 眼ぇ赤くしてたんだよなぁ。

かわいいかったんだぜ。

「ま、何もなくて良かったしな」って

朋樹も笑ってるし。


まだ 18時越えたとこなのに、もう薄暗くなってきた。すっかり秋だよなぁ。窓 開けてたら肌寒いし。

「飲み物 買うか」って、自販がある駐車場に 車を入れる。


朋樹が自販に小銭 入れてたら、ジェイドのスマホが鳴って、ニナから

“仕事前に 立ち飲み屋さんに寄って行くね” だってよー。仲良いし、連絡マメ。

もちろん ジェイドも返してるし。


ついでに、河川敷のカフェでは

“思い出せないことが あったから、その人も居たと思う” ってことだった。

なら、天狗の時は 居たんだよな...


「リョウジくん、どうしたんだろうな?」

「不安定なのは、影人の件が終わってからだよね。制約絡みのことかな?」


リョウジくんまで っていうのがなぁ。

巻き込んじまってるんだろうし、悪いよな...


財布 出してたら、朋樹が

「釣り、入ってるぜ。それで買えよ」って 言うし

「おっ」「ありがとう」って 甘えることにする。

まぁ オレら、一緒に仕事 始めてからは、だいたい こんなだけど。誰かが まとめて出す。

ボティスも いつも出してくれてた。


「おい... 」


まだ 熱いかな? って思いながらも、ホットコーヒー 押そうか迷ってたら、朋樹が呼んだ。

隣で「獣か?」と ジェイドが言ってる。


振り返ると、白い阿修羅が居た。

かたちが変わっていく。

師匠、女... 矢上 妙子や、馬やワニ、狼や鳥...

あの白い焔の獣になると また象を変えて、ローブを着た人になった。向こう側の司祭に見える。


... “『新たなる 叡智を迎えよう』”...


遠くからなのか、頭の中なのかに響く声。

知らない声だ。司祭の声なのか... ?

司祭の背後には、祭壇と大樹のようなものが見える。祭壇に横たわる誰か。


司祭が白い焔になって消えると、すべても消えた。




********




「あの獣は、向こう側のやつだ ってことだな。

司祭と同じ。だから、声が聞こえたんだ」


一の山も 朋樹ん家の神社も越えて、車を走らせながら 朋樹が言った。


「阿修羅天や 師匠になったのは... ?」


「さぁな。獣が こっちで読み込んだ情報だろ。

とにかく、獣は オレらの前に出た。

何かを伝えようとしたんだ」


「もしさぁ、入れ替わりの炎の場所に

司祭が神殿を開くんだったら?

ミカエルとかに言っておいた方が良くね?」


後部座席から、運転する朋樹に言ってみると

「そんなの、推測でしかねぇじゃねぇか。

“獣を見ただけ” なんだしよ。

これにも制約 掛けられるか、忘れさせられたら

どうするんだよ?」って 吐き捨てるように返してきた。

そうだけどさぁ... 黙ってていいことでもない気が するんだよなぁ。


ジェイドも黙ってると

「報告は 後でいいだろ。姉ちゃんに会うことも

邪魔されそうだしよ」つってるけど。


「どっちにしろ、凪に会えば

話は ミカエルたちの耳に入るんじゃないか?

サムが居るんだから」


っていうか、もう 入ってんじゃねーの?

サム次第だけど、こんなこと黙ってるかな?

でも、まだ邪魔されては ねーんだよな。

こうやって 凪姉ちゃんに会いに行くことは。


「会った後なら いいんじゃねぇの?

もう着くしよ」


住宅街も抜けて、朋樹が車を停めたのは

グラウンドがある でかい公園の駐車場だった。

「連絡したら、ここに来い って言ってたからさ」

らしい。


グラウンドに人は居ねーし、夕飯時だからか

公園も閑散としてる。

「“ブランコがある方” って 言ってたから... 」って言う 朋樹について行って、遊具がある場所に入ると、外灯の下のベンチに座ってたヤツが立った。


「よう、姉ちゃん。仕事帰りに悪いな」


ヤツ つったけど、凪姉ちゃん。

声を掛けた 朋樹の後ろで、オレらも手を振る。

凪姉ちゃんには、普段 サムが入ってるからか

男みたいな雰囲気があるんだよな。

いや、見た目は全然 女子なんだけど、滲み出してる空気とかがさぁ。


近くに寄ると、地面に魔法円が浮き出して

凪姉ちゃんの隣に サム... サマエルが立った。

ブロンドの長いウェーブの髪を 一つに束ねてて

黒いシャツにブラックジーンズ。

盲目らしいから、グラサンもかけてる。


「天使避け?」と聞いた ジェイドに

「全般避けだ」って答えてる。

天使や悪魔だけでなく、異教神も避けるっぽい。

ヘルメスのこともあるし、ほっとしちまう。


「... ... ... の事だろう?」


制約だしな。

でも サムは、オレらが来た理由が解ってた。


「そうなんだ。

掠っちゃいるんだけど、思い出せねぇからさ」


朋樹に「そうなのよね... 」と、凪姉ちゃんが返した。

この人、なぜか いつも どんよりしてるんだけど

それに輪がかかった気がするし。


「ずっと考えてんのに。

サムが入ってても思い出せなくて。

夢の中で話してても、起きたら忘れちゃうし」


「話してる ってことは、サムは 制約を破ってるのか?」


ジェイドが聞くと

「俺は、... ... ... が 生まれた時から知っているからな。天の制約など」って 鼻で笑った。


「お前達に、しっかりと制約が掛からないのは

... ... く ... の影響を受けているからだ。

突破口を開けば、制約は解ける」


「突破口って、どんな風に?」って 聞くと

「今、... ... ... に に居る ... い... を、感得する などだ。思い出そうとばかりせずに、しっかりと存在を意識する事だな」って、ムズカシイこと言うし。

誰だか わからねーし、向こう側のことも わからねーのにさぁ。


「ただし、制約が解けても 動くなよ」


この辺は、ヘルメスたちと同じなんだよなー。


「じゃあ何で、こうして 制約を解く方法を教えてくれたんだ? 異教神避けまでしてよ」


朋樹が聞いたら「凪のためだ」つって

ついでみてーに「お前達のためでもある」とも

添えたけど

「一番は、俺のため だが。気にいらんからだ」と

微笑った。


「それから」


サムは

「幾ら役割が無い とはいえ、放っとかれ過ぎている... とは 思わんか?」と 聞いた。

言われてみれば、確かに。

ボティスも戻って来ねーし、シェムハザも来ねーし。


「オレらが 用無しになったから?」


自嘲気味に 朋樹が返すと、サムは

「迷ってるんだ」と 答えた。


「忘れさせたくない とも思ってるんだ。

だが 制約が掛かるという事は、それなりの理由があるからだ。疑うなよ。わかってやれ。

あいつ等も つらいはずだからな」


疑念に なりかけていたものを、言い当てられた気がした。


「こうして 暇を持て余して、嗅ぎつけようとする時間も与えている。

もう 一度 言っておくが、もし嗅ぎつけても 動くな。

心だけの問題ではない。賭かっているものが大き過ぎる」


オレらが頷くと、サムは

「だが、それでも いつか、動く時が訪れるだろう」と また微笑った。

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