4 ゾイ


「ヨセフと、ヨセフに呼ばれて エジプトへ移住した 父ヤコブ... イスラエルと、ヨセフの兄弟たちは

その子供達も合わせると、全部で七十人だった」


... “ヤコブの腰から出たものは、合わせて七十人。

ヨセフは すでにエジプトにいた”...


そして 時が流れて、イスラエルもヨセフも 兄弟たちも、その頃の人々も 皆 亡くなったのだけど

... “けれどもイスラエルの子孫は多くの子を生み、

ますますふえ、はなはだ強くなって、国に満ちるようになった”...


この頃に立った エジプトの新しいパロは、

父と歩み、エジプトのつかさとなったヨセフの事を知らなくて、エジプトの地に増えていくイスラエルびとを恐れるようになっていた。

“いつか征服されるんじゃないか?

攻めてくる敵と手を取って、滅ぼされるかもしれない”... と。


なので、イスラエルびとを奴隷として使う事にした。

厳しく管理して、町の建設や田畑の務めをさせ、

虐げるようになっていく。


それでもイスラエルびとは、どんどん増え拡がっていく。

虐げて使っていることで、余計に イスラエルびとの反発を恐れるパロは、ヘブルのおんな... イスラエルびとの女性 の子を取り上げる助産婦のシフラとプアに

... “「ヘブルの女のために助産をするとき、

産み台の上を見て、もし男の子ならばそれを殺し、女の子ならば生かしておきなさい」”... と

命じる。


けれど、シフラとプアは、神を恐れて そんな事は出来ず

... “「あなたがたは なぜこのようなことをして、

男の子を生かしておいたのか」”... と 咎められると

... “「ヘブルの女は エジプトの女とは違い、

彼女たちは健やかで助産婦が行く前に産んでしまいます」”... 着いた時には もう生まれてしまってる と 言い訳をした。


父は助産婦達に恵みをほどこし、彼女達の家を

栄えさせたのだけど、パロは すべての民に

... “「ヘブルびとに男の子が生れたならば、

みなナイル川へ投げこめ。しかし女の子は生かしておけ」”... と 命じた。


「第2章では、ヨセフの兄弟レビの子孫が

男の子を産む」


ナイル川の畔に立って、青々と茂る草の中に咲く

小さな黄色い花を エステルに食べさせながら

ムスっとした顔で ミカエルが言った。

近くにはアシの茂み。


私も ミカエルの隣に しゃがんでいて「はい... 」と 答えたけど「でも、いつもと違いませんか... ?」とも 言ってみる。

いつもなら その光景の中に居て、父と歩む人達を近くで見るのに、今日は 誰も居ない。


「うん、それは思う。

それに、今 纏めてる部分の時間なら 昼間のはずなのに、夕方に近づいてる」


青かった空は、ピンクやオレンジに染まってきてる。

ミカエルに言われて気付いたのだけど

日本とイスラエルには、6時間の時差があるはず。

なのに 死海に着いた時の空は、日本と同じ昼下りの空だった。


そう話してみると、ミカエルは

「でも、現在のイスラエルじゃなくて

紀元前のイスラエルに移動したぜ?」って言ってて、“あ、そうか”... とは なったのだけど。


「それにしても、エデンに アダムとエバが居たり

いろいろ めちゃくちゃ。

出エジプト記の1章5節を読んだやつが やってるのかな?」


“ヤコブの腰から出たものは”...

不思議だけど、声 といっても、男性だったのか 女性だったのかも わからない。

もしかしたら、思い出せないだけかもしれないけど、誰かが読んだ事は確か。

だから、誰かが干渉してる事も確か。


「移動してから これが起こったけど

もし 誰かの術だとしても、“掛かろう” としてない俺に術掛けするのは難しいと思う。

バラキエルだって、遠隔じゃムリだ」


“掛かろうとしてない”... 例えば、榊の神隠しだとか

アコの夢魔の術は、ミカエルが掛かろうとしたから 掛かってるけど、そうでない場合だと、ボティスくらいの術の腕がいるのだそう。

そのボティスでも 遠隔では掛けられないし

ボティスが人間だから ミカエルに術を掛けられた。悪魔の術だと ほぼ掛からないみたい。


「それなら、人間が掛けてるのでしょうか... ?」


うーん... と、眉根を寄せたミカエルは

「だとしたら、近くに居るはず。

でも 大抵の人間は、消えて移動が出来ないし

死海もエデンもエジプトも、俺等が見せられてる幻覚だって事になるけど」と 答えてくれたのだけど、そんな事 あるのかな?


日本に居た時だって、沙耶夏の お店から四の山の川辺かわべりに移動して、また沙耶夏の お店へ。

沙耶夏と暮らしている部屋にも移動したのに...


「... うん、考えづらい」


ミカエルも同じように考えたみたいで

色を増していく空に染まる ナイル川の水面や砂漠を、ブロンドの髪や白い肌、碧い眼に映して

「それなら別に、無視して遊んだって」と 笑顔になっていると

『... “女は みごもって、男の子を産んだが”... 』と

また声がが言う。


「... “その麗しいのを見て、三月のあいだ隠していた”... 」


白けた という顔になってしまった ミカエルが

続きを引き継いで読んで「2章2節」と 言った。

何かは わからないけど、もう少し続けた方が良さそう。


レビの子孫が産んだ男の子は 隠し育てられていたけど、もう 隠し切れなくなってしまったから

パピルス草を編んで作った籠に アスファルトと樹脂で防水して、男の子を中に入れて、ナイル川の岸の葦の中に置いた。


男の子の小さな姉が、“あの子は どうなってしまうのだろう”... と 離れて見守っていると

パロの娘が、川へ水浴びに来た。


パロの娘は 葦の中に籠を見つけて、自分の侍女達に

籠を取って来させると、中に居た男の子を見て

... “「これはヘブルびとの子供です」”... と

泣いている小さなかわいい男の子を憐れんだ。


「その時に、離れて見ていた姉が パロの娘に近付く」


... “「わたしが行ってヘブル女のうちから、あなたのために、この子に乳を飲ませる うばを呼んでまいりましょうか」”...


パロの娘は、赤ちゃんがかわいくなってしまって

自分の子にしようと考えたけど、ヘブルびとの子を連れて帰る訳にはいかない。乳母が必要になる。


パロの娘は、申し出たヘブルびとの女の子に

... “「行ってきてください」”... と

乳母になれる人を 連れて来るように頼むと、

女の子は、自分の母親... つまり、男の子の母親を

乳母として連れて来た。


パロの娘は、自分の代わりに赤ちゃんを育ててくれたら報酬を出す と、母親に言った。

母親は、パロの娘の子になった 自分の子を連れて帰って育てる事が出来た。


男の子が成長したから、母親は、パロの娘のところへ 男の子を連れて行くと、男の子はパロの娘の子となって、名前を付けられる。

「... “水の中から わたしが引き出したからです”... 」 引き出す... ヘブル語で “マーシャー” なので

“モーセ” と名付けられた。


「成長したモーセは、同胞のヘブルびとが エジプトびとに打たれているのを見て、エジプトびとを打ち殺して、砂に埋めてしまう」


次の日は、ヘブルびと同士が揉めているところに入って、手をあげていた方に

「... “あなたはなぜ、あなたの友を打つのですか”... 」と聞いた。


「すると 聞かれた者は、モーセが勝手に仲裁に入った事について、“関係無いくせに黙ってろ” って事と、“エジプトびとを殺したように 俺も殺すのか?” と返したんだ」


モーセは、... “あの事が きっと知れたのだ”... と恐れて、この事を聞いたパロは モーセを殺そうとする。

モーセは、エジプトから ミデヤンの地へ逃れて、井戸の近くに座っていた。


ミデヤンの祭司には、七人の娘たちが居て

父の羊の群れのために 井戸へ水を汲みに来たのだけど、後から来た他の羊飼い達に追い払われてしまう。

だけど、モーセが彼女達を助けたから

彼女達は羊の群れに水を飲ませる事が出来た。


いつもより早く帰った娘達に、父リウエル... ミデヤンの祭司が その理由を聞き

エジプトびと... モーセ に助けられた事を知ると

「... “そのかたは どこにおられるか。

なぜ、そのかたをおいてきたのか。

呼んできて、食事をさしあげなさい”... 」と 娘達に

命じる。


招待されたモーセは、娘のひとりを気に入ったので、娘達の父リウエルは、この娘... チッポラを

妻としてモーセに与えた。


チッポラが男の子を産むと、モーセは

“自分は この国では外国人だから” と、男の子に

外国人という意味の ゲルショムという名前を付ける。


それから 月日が経って、エジプトのパロが亡くなったけど、イスラエルの人々... ヘブルびと達は

変わらず働かされ、虐げられていて苦しんでいて

その叫びは 父に届いた。


父は、アブラハム、イサク、ヤコブとの契約を思って、イスラエルの人々を顧みて

... “神は彼らを しろしめされた”...

しろしめされた... 知ろし召す。

イスラエルの人々の苦しみを知り、心に留められた。

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