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流れてきた
黒髪の男だ。死んでる。腰から下が黒蛇。
『アジ=ダハーカが 出て来た時... 』って 言ったら
『あれ等であろうな。これは、俺やヴィシュヌの知る
ヒンドゥーや、バリ ヒンドゥーの
アジ=ダハーカの配下だ。
『
アジ=ダハーカは、やはり
『または、
シェムハザと
『指が無い』っていう ハティの声に
なんか、ギクッとした。
『本当だ』と ミカエルが、くせっ毛の下の ブロンド眉をしかめて、
両手とも五指全部、第二関節から上 がない。
泰河が、四郎の前に移動する。
『拷問か?』
逆の手の側に しゃがんだシェムハザが
『シェムハザ!』
『毒は?!』
オレと泰河が焦ると
『いや、触れたくらいなら 火傷程度で... 』って
トールが言ってるけど、火傷もしてねーし...
手首を掴んで 濡れた指を、くちびるで挟んだ。
一瞬、見惚れちまってたけど
『何ともないが... 』っていう、明るくハスキーな声に 我に返って『シェミー、何してんだよ!』
『試すなよ!!』って、泰河と わぁわぁ言う。
『妻子が居られますのに... 』
四郎が言うと、ちょっと効いたっぽくて
『すまん』って 謝ってるけどさぁ。
『しかし、
やっぱり 何ともないんだぜ。
けど トールは、『“ミカエル” だからな』って
言ってて、ミカエル自身も
『うん、何かの毒って効いたことないぜ?』って
言ってるし。清めちまうらしい。
琉地も、川に飛び込んじまったんだよなぁ...
精霊だから、何にも効かねーんだけどー。
なんせ、煙になるしよー。
さっき 先頭で橋渡ったのは、何だったんだよ って感じだよなぁ。
『だが、
気になるな... 』
焼け溶けんのかぁ...
ハティは、木の葉をグラスに錬金して
川の水を汲んでみてた。飲んでるし。
何とも無くて、
『本当に、毒の川なのか?』
シェムハザに聞かれた トールが
川に 手を突っ込んで、火傷した。いや、煙...
『
『すまん。試させるつもりでは... 』って 謝って
取り寄せた ピンクの軟膏を、トールに渡してる。
『指は、刃物で切断されている』
『皮膚の状態を見ると、
ハティや師匠が、手の観察してて
ミカエルが『拷問だな』って、
俯せにした。
背中には、長い
『なんで... ?』
四郎に見せないようにしながら 泰河が言うと、
横顔の
『誰かが捕えて、何かを聞き出そうとしたのだろう。遊んだ訳では ないようだ』と 答えた。
遊んだ訳では って...
拷問に関しては、
ボティスやベリアル、皇帝がいるし
何とも言えねーんだけどさぁ...
『何故、川に?』
泰河の後ろで 四郎が聞く。
過去、原城 籠城中に
一揆勢を裏切った絵師、山田
けど ハティが、『シロウ』って呼んで
泰河も オレも、“えっ?” って 顔に出ちまったし。
シェムハザに
『シロウは、医術を学んでいる』って 言われて
『あ... 』『そっか... 』とは なったけど、
やっぱり心配になっちまうんだぜ。
四郎自身は
『御心配無く。ですが、有難う御座います』って
泰河に微笑って、ハティの向かいで
蛇人の遺体の隣に 片膝をついて観察してる。
ミカエルが、四郎の背中に手を置いたし
なら 大丈夫かな とは 思うけど...
『証拠隠滅か?』って言った。
『
“焼け溶けて無くなる” と考える』
『しかし... 』
ハティが 言い掛けると、トールは
『そうだ。どうやら、異教神には
だが、俺は それを、今 知った。
『異教神が、アースガルズを訪ねる時は
オレらは、ジャタ島の ロキの洞窟から
そうじゃねーと、何でも入り込めたら 困るもんな。
『“通常なら” という事だが... 』
そうなんだよなぁ。
今は “入れ替わり” の異変がある。
現に、オレら 入ってるし。
『だが、外から
異教神は、
“焼け溶ける” と 知っているのは、
つまり、
焼け溶けると “想定して”、拷問した
『オージンは... ?』
師匠が トールに聞くと、“もちろん” って 顔で
『必要があれば、拷問もする』って 返してる。
『アジ=ダハーカを匿うなどしておるならば、
その配下を、拷問などする必要があろうか?』
御神衣の袖の中に 腕を組む
首を傾げると
『考えられるのは、アジ=ダハーカの弱点などを
聞き出そうとした場合 なら... 』って 答えてるけど
自信は なく見えた。
アジ=ダハーカが、封の扉を出た時
黒いコブラやトカゲも 大量に吹き出して
そいつらから
拷問してるとこを、他の
都合 悪ぃだろーしなぁ...
ミカエルが 琉地に『ヘルメスを』って 言って
遠吠えで喚ばせた。
『ずいぶん 早いね。また何かあった?』と
顕れたヘルメスは、俯せの
『うーん... もうさ、集合した方が良さそうだね。
何も無かったし、何かを隠すのにも適してない。
どの洞窟も、出入りが多過ぎるし。
ボティスとロキは、穴カンガルー 捕まえて
レースさせて遊んでるし』って 肩を竦める。
『穴カンガルー?』って、ミカエルが聞くと
『クラルクト。このくらいのカンガルーで
土の中に巣を作って棲む』と、トールが
親指と人差し指の間を 10センチくらい開けて
大きさを示した。小っさ。
『爪が鋭くてさ。足でキックして 土を掘ってた』
って、楽しそうに話してる ヘルメスも
ボティスたちと 一緒に遊んでた っぽいけど、
そこは 突っ込まないでおくんだぜ。
ハティが差し出した 川の水を飲んだヘルメスは
『本当だ。何ともない』と、一度
『俺等が、こっちまで向かうから
この辺 調べといて』と、また消えた。
『
ハティがトールに聞く。
『
外部のものを ここに埋めても、土に還らず
腐らない。
『それで、
師匠が 遺体に手を合わせた。
この
オレらも、死に対して 手を合わせた。
『隠すか?』
『
川から上げられた
“異教神は、川の毒の影響を受けない” と
知ることになる。
『しかし、術火なら 燃やせるのでは?』と
シェムハザが 指を鳴らして、青い炎で
遺体は燃えた。
皮膚も血肉も 溶けずに気化していく。
あっという間に骨と灰になって、火が消えると
師匠が『
白い灰は、夏草の下に沈んだ。
『アースガルズ側の崖を調べるか... 』
ヘルメスたちが こっちに向かう間に
崖の洞窟を探して、
琉地が 勝手に入って行ったりもするんだけどー。
『この崖の上に、アースガルズが あるんだよな』
崖を見上げる 泰河が、眼を輝かせて
『どのような処なのでしょうね... 』と
四郎も見上げてる。
ミカエルたちは 翼で浮いて、高い場所にある洞窟を探してるけど、オレらは いるだけなんだよなぁ。
『こういった非常時でなく
また オージンが、アースガルズを留守にしている時なら、神隠しで 俺の館に招待するが... 』
『マジすか?!』
『行きたいっす!!』
『私も、是非... 』って 四郎も言うと
トールは『おう』と 微笑って、火傷じゃない方の でかい手を、四郎の頭に載せた。
巨人の鍛冶屋が作った城壁の中にある アースガルズには、男性神が集まる神殿の “グラズヘイム” や
女性神が集まる神殿の “ヴィーンゴールヴ” があって、オーディンの宮殿 “ヴァルハラ” では
神々には、それぞれに 自分の屋敷もあって
トールの館、“ビルスキールニル” には
540の部屋がある っていう。規模、すげーし。
番人 ヘイムッダルの館がある。
巨人でありアース神族、両性具有の境界者ロキが
相討ちになる っていう。
界と概念の境界が破壊され、新しい世界になる。
ロキの虹色の眼や シギュンの小さな声が過る。
ここにいる、手にピンクの軟膏 塗ってるトールだって、
ヨルムンガンドの毒に殺られちまう。いやだし。
洪水みたいに、一度 破壊しねーとダメなんかな?
そうじゃねー 方法も、あるはずなのに。
まだ、違う方法を取れるほど
地上を任された人間の精神が発達してない... って
ことなんかな?
数々の神話に残っている 世界規模の洪水の時
残ったのは、ほんの 一握りの生命だった。
パンドラの箱に残った希望。
けど この時は、被造物である 人間や動物、
地上に棲むものの破壊 だった。
水没したけど、植物は そう破壊されてねーんだよな。
方舟に乗ったノアたちは、洪水の後に 鳩を放して、鳩が運んで戻った “オリブの枝” で、水が引き出したことを知ったんだし。
まぁ、植物は 破壊する理由も意味も ねーけどー。
神々までが滅び、正しく生きたものたちは残される。
トールが、ヨルムンガンドの頭を砕くことで 食い止められるけど、その毒の犠牲になっちまう。
この津波や毒が、黙示録の蝗に相当するんじゃね?... とか 思うんだけど
どちらも、地上全土が滅びる訳じゃない。
“全部破壊して やり直し” じゃなくて
“改革” って 感じがする。
洪水の時より、進んじゃいるんだよなぁ...
『うん... ?』
地面から、白蔓 伸ばしてる 月夜見が
御神衣の袖の中に腕を組んだまま
凛々しい黒眉を 軽くひそめた。
『何かある』って、洞窟の 一つから引き出した
白蔓の先には、黒く鋭い爪が付いた 指が巻かれてた。
『
『恐らく』
ハティやシェムハザ、師匠、四郎も 観察して
『親指や小指では 無さそうですね』
『左手の中指だ』って 言ってて、
『洞窟内に、まだ落ちておるな』って
『えー、なんか 四郎が遠いー』
『おう。オレら、置いてかれてるよな』
『うむ。精進せよ』って、
『うーい... 』『頑張るっす... 』って 返事して、
ミカエルとトールが
『洞窟を見に行ってくる』って 歩き出したし
オレと泰河も 無意味に ついて行った。
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