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ヴィシュヌが「そろそろフルーツを」って

空いた皿が消えたところに、揚げバナナと

フルーツ盛りの皿を出現させた。


「クロポンが食いたいんすけど」っていう

泰河のリクエストにも 答えてくれて、口に入れたミカエルは、中から椰子シロップが出たらしく

「何だよこれ!」って 喜んでるし。

ハティとシェムハザも食ってみてる。

隣のシートで食ってる悪魔たちも

「美味い」「イゲルにも報せよう」って好評。


「クルサースパ という方は... ?」


マンゴスチン 二個食った四郎が

アイスが添えられた 揚げバナナ食いながら聞く。

甘い物 好きだよなぁ。


「クルサースパは、アジ=ダハーカ から

恩恵フワルナを取り返した スラエータオナに続いた

古代ペルシア 最大の英雄だ」


クルサースパは、水に災いを齎す怪鳥 ガンダルワと 九日間も戦って倒し、カマクという邪鳥や

自分の弟を殺した ヒタースパという戦士を倒した。

ツノ竜のスルワラとも戦って倒した クルサースパは、寿命の時がくると 死なずに眠りについた。


「クルサースパのピーシュダード王朝継いだのが、カヤーン王朝であり、これは 時の始めから

九千年後にあたる。

ゾロアスターが現れたのは、この時期だ」


ゾロアスターは、神官だったけど

天啓を受け、それまでのアーリア人の宗旨に反旗を翻して疎まれ、カヤーン王朝のウィシュタースタ王に保護される。


この後、残りの三千年の間は

千年おきに 一人ずつの救世主サオシュヤントが現れ

三人目の救世主サオシュヤントが現れた時、時の終わりの

最後の戦いによって、悪の勢力は 一掃される。

この 最後の戦いの時に

ダマーヴァンド山に封じられた アジ=ダハーカは

封を解かれ、同じ時に目覚めた クルサースパに殺されることになっている。

そして、光があふれる 新しい善の世界が始まる... という。


話を聞いて、もちろん 黙示録のイエスの再降臨も彷彿とするけど、ヴィシュヌの化身アヴァターラの 一つ

“預言の救世主 カルキ”。オレ、また出すんだぜ。


ヒンドゥー教では、魂が輪廻するように

宇宙も輪廻する... という 考え方の上のことだし

それまでの時間も ずっと長い。

地上の世界終末論とは 少し違うかもだけど、

やっぱり重ねちまう。

カルキは、白い馬に乗って現れて

悪が蔓延る時代に それを滅ぼし

善のダルマによって、新たな黄金時代の到来を促す。


黙示録では、七つの巻き物の封を

ほふられた子羊... イエスが解く。

一つ目を解くと、白い馬に乗った者が現れる。

“勝利の上にも なお勝利を得ようとして出かけた”

... とあって、支配を意味する ともいわれるけど

教えを より確実に固める って印象がある。


ついでに、二つ目の封を解くと、赤い馬に乗った者。人間に戦争を起こさせる役割。

三つ目は、黒い馬に乗って 飢饉を齎す役割の者。

四つ目は、青白い馬に乗った者。死を与える役割。

五つ目を解くと、教えを守るために迫害された人たちが 裁きを望み

六つ目を解くと、大地震が起こって

太陽は黒く、月は赤くなって、星が落ちた。

七つ目を解くと、七人の御使に ラッパが与えられて、地上の裁きが始まる。


地上の裁きが終焉に近付いて、19章11節には

... “天が開かれ、見よ、そこに白い馬がいた。

それに乗っているかたは、「忠実で真実な者」と呼ばれ、義によってさばき、また、戦うかたである”... と あって


12節から 14節に

... “その目は燃える炎であり、その頭には多くの冠があった。また、彼以外には だれも知らない名がその身に しるされていた。

彼は 血染めの衣をまとい、

その名は「神の言」と呼ばれた。

そして、天の軍勢が、純白で、汚れのない麻布の衣を着て、白い馬に乗り、彼に従った”...

16節には

... “その着物にも、そのももにも、

「王の王、主の主」という名が しるされていた”...

と ある。


単純に考えたら、開かれた天から来た 白い馬に乗った人は、聖父かイエスなんだろうけど、

その意志... 聖霊とも取れる。神の言。

または、三位が 一体になったかたち。


で、長くなったんだけど、ヴィシュヌの化身アヴァターラカルキは、それを成すエネルギー って印象があるんだよなぁ...

いや別に、黙示録の終末に限らないんだけど

悪を滅ぼして、善に導くエネルギー。

まぁ、“白い馬” と 役割で、重ねたとこも大きいんだけどー。


「アジ=ダハーカ の封が 解かれたのなら

英雄クルサースパも 目覚めるんじゃないのか?」


半分にカットされた パッションフルーツの実を

スプーンで掬って食べながら、ジェイドが言う。

美味いけど、見た目 かえるの卵っぽい。


「いや、“最後の戦い” の時に 目覚めるんじゃねぇの?」


朋樹は、パパイヤにライムかけて食ってる。


「時間の長さが よく分からねぇよな。

ゾロアスターが生きた時代から 三千年なんか

とっくに過ぎてるしさ」


これ。泰河も言ってるけど

天とか神の時間って 分かんねー。


地上時間で考えると、アフラ=マズダーの 最初の創造から九千年で ゾロアスター... って訳は ねーし

聖父に至っては、六日で全部造ってるし。


逆に、仏陀にかわって 衆生を救済するといわれる 弥勒菩薩が、修行してる兜率天から地上に降りるのは、釈迦入滅... 仏陀が亡くなってから

五十六億七千万年後 っていわれてる。

ヒンドゥー教の時間も、仏教のように

“何千万年後” とかが多い印象。


地上... 地球の時間とは、違う気ぃするんだぜ。

それぞれの神界でも違うだろうけど、宇宙時間っていうかさぁ。


「クルサースパは、アフラ=マズダー の加護の下で 眠っている。

アジ=ダハーカ が 封を逃れても、目覚めることはないと思われるが、キュベレのことや 封を出たことは、アフラ=マズダーにも、アンラ=マンユにも 話さねば... 」


ハティやシェムハザだけでなく

「ダマーヴァンド山の封が、ここに移動してるしな」って、ミカエルも 気が重そうだし。

キュベレの影響だし、異教から見たら

天や地界がやってる... ってことだもんなぁ。


「父には?」と ハティが聞くと、ミカエルは

「聖子には報告するけど、父に話すのは

キュベレを連れて戻る時がいいかもな」って

答えた。


さっき ミカエルは、キュベレを見ていない。

今 キュベレが、どこに居るのかも分からねーから

天で、“キュベレの牢を開けろ” とも言えねーし。

“泰河が見た” つって、泰河の記憶を天に読ませたら、獣... 何かしらがついてる って 注視される恐れもある。


「キュベレが奈落に居ない事や アバドンの事を

サンダルフォンが気付かん内に 何とか...

天にキュベレを連れて戻れば、話は早い」


シェムハザも言ってて、それが 一番いいんだろうけどさぁ。

動かぬ証拠... っていうか、完璧な証拠だもんな。

すべてが明るみに出る。


「ヴィシュヌとガルダは... 」


インディアン コーヒー と、締めのバルフィを出してくれてる師匠と ヴィシュヌに

ハティが顔を向ける。


ランダとバロンが戻ったし、後は アグン山の入れ替わりと珊瑚礁を 何とかするだけだから

ゴア ガシャと海の洞窟を繋いでることもないし

こうして 協力してもらうこともなくなっちまうのかな... って思う。


「俺やアスラは 元々、同じ勢力に入っている。

弟子の泰河に関係する件だ」


心外 って風に 師匠が言うと、ヴィシュヌも

「地上のことだ。最後まで付き合う。

維持神だからね」って 濃い睫毛の眼を細めて

ニコっと笑う。


「うん、頼む」って ミカエルが言って

ハティもシェムハザも ホッとしてるし。

なんか、すげー 安心した。


「とにかく、アフラ=マズダー と アンラ=マンユ

聖子に報告する事になるな」


ミカエルが聖子に、アンラ=マンユ の所には

ハティが「ベルゼに行ってもらう」って言ってて

アフラ=マズダー の所には、ヴィシュヌが師匠に乗って 行ってくれるらしい。


「今後も、話し合うことが多くなるね」


話し合う場所を どうするか... って事になった。


「あまり集まっていると 目立つだろう」


「そう。ミカエルが、預言者のシロウと共に居て

ヒンドゥー教や仏教の信徒がいる国に、ガルダやヴィシュヌがいるのは、まだ分かるが

他の神と話すことがあるとすると、ミカエル等が行っても目立つ。来てもらっても目立つ」


師匠は、仏教でも迦楼羅天だし

インドネシアだけでなく、タイでも国章になってる。

ヴィシュヌは、密教の 毘紐びちゅう天... 那羅延ならえん天。

強大な力を持つ 仏法守護神。

そもそも、化身アヴァターラの 一つが仏陀だし。

その頃は、仏教側からしたら 良い意味の化身じゃなかったけど、仏教寺院にも ヴィシュヌの像があったりする。


「ここか、日本神の許可が得られるなら

日本が 一番良いように思えるね」


ヴィシュヌが考えながら言った。


「日本は、神道... 国の神々と 仏教が多い。

俺もガルダも大丈夫。

シロウが居るから、ミカエルも大丈夫。

そして、何しろ 八百万やおよろずの神々がいる国だ。

ルシファーも 甕星だろう?

ルシファーのように、“他の天津国の神だ” と言い

“日本神との会議” ということに出来る」


強引じゃね?

実際、他の天津国の神だけどさぁ...


けど、ミカエルが

「うん、いいな。俺も日本神の時の名前 欲しい」って、日本神になろうとするし。


「親父に文書 書いてもらって、うちの神社に奉納しとくよ。月夜見キミサマの社に」


朋樹が言ったら、ハティとシェムハザも

名前 考えてるっぽい顔になってるしさぁ。

猫神祠も増えてたし、朋樹の神社、神様多いよなぁ。


「じゃあ、日本だけで 良くないか?」って

ミカエルが言うと

「しょっちゅう 同じ国に集まっているのは良くない。やはり目を引く」って 師匠が返してる。


「なら、バリでの異教神は... ?」


泰河が聞くと、ヴィシュヌは

「みんな、“サン・ヤン・ウィディ”」って言った。


えー... って 思ってたら

「日本なら、召喚部屋かな?」とか

「キャンプ場は?」って 話がサクサク進んでて

「バリなら?」って ことになる。


「少人数なら、あのヴィラでもいいけど... 」


ヴィシュヌが言うと、シェムハザが

「ならば 当面の間は、二部屋程 押さえよう」って

言うしよー。相変わらずだよなぁ。


「ただ、もし 大勢集まることになるとすると

ヴィラでは狭い」


うーん... って 考えたヴィシュヌは

「ヴァースキ」って、七つ頭の蛇神を見上げる。


「アグン山の裏に、適当な場所を」


ヴァースキは、全部の頭で ヴィシュヌに頷くと

ぐうん と 伸び上がって、オレらを飛び越えて

砂漠の地面に ザブッ と潜り込んだ。すげー...


「たくさんで集まれる場所は ヴァースキに任せるとして、次は、君達の移動だ。

消えて顕れる ってことは、出来ないからね」


「でも、ゴア ガシャと 海の洞窟が繋がってるから、そのままにしてもらえたら... 」


また考えてるヴィシュヌに、ジェイドが 期待顔で

言ってみると

「うん、入れ替わりの問題が済むまでは

あの通路も開けておくけど、自宅から あの海まで

時間は どのくらいかかる?」って 聞かれて

「車で 二時間くらいっす」って オレが答えた。


「ゴア ガシャから、ここまでは?」


「二時間程」


シェムハザが答えると

「それだけで 四時間。前もって集合することが

分かっているならいいけど、緊急の話し合いの場合だと、話は 終わってしまっている可能性もある」って また考えてる。


「しかし、シロウは 消えて移動が出来る。

話し合いに これ等が必要とは... 」


「うわっ」「ハティ... 」


尤もだけど、一応オレらも 地上勢力だしよー。


「だが、入れ替わりが起こったことにより

多神等も警戒し、地上の様子を伺いにも出ている。その折に、泰河の獣を感知する者があれば

当然 狙って来るだろう。

ミカエルとルシファー、日本神と 俺等による勢力が所有する と、牽制しておくことも必要だろう」


泰河には、地界のハティの印と

天のミカエルの加護があって、師匠の弟子だし、

それが分かっていれば、そうそう手を出されることは ないだろうけど、面と向かって主張しとくのも大事だよなぁ。


「でも、獣が見えない奴も 多いと思うぜ。

俺も シェムハザも見えないし」


ミカエルが言ってるけど

「それでも、“何かがある” という気配は感じるだろう? 獣が見えずとも、泰河は獣を喰っている。

泰河に溶けた気配だ」って 師匠が返して

ヴィシュヌも

「“原初で終の獣” の 噂は聞いたことがある。

泰河を取れば、見えない獣を利用出来ると 考えるだろう」って言う。


「そうだな。牽制は必要だ。

これまでも 幾度も狙われている」


ハティの印が付いていても、ダンタリオンや 魔人。サリエルやウリエル。

ミカエルの加護が付いても、今度は

黒蟲やエマ、天狗... アバドンが狙わせてた。

サンダルフォンに関しては、たぶん すでに自分の手のひらの上にある って感じで、オレらごと 操作しようとしてる。


面と向かって 所有を主張して、どこまで通じるか... ってとこもあるけど、これで手を出して来たら、天と地界、ヒンドゥーや仏教天部神たちを敵に回すことになる。


「だが、護りも強固なものとなっている。

皆、お前の友だ」


気を使うような表情になってた泰河に

ハティが言うと

「おう」って 嬉しそうな顔に変わって頷いた。

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